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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第18話 記録に残らない結末

 ダンジョンが消えてから、三日が経った。


 街は平穏だった。

 被害はなく、負傷者もいない。

 魔物の流出も起きていない。


 だからこそ――余計に、異常だった。


 ***


 冒険者ギルドの執務室では、分厚い書類の山が机に積まれていた。


「……結局、どう書く?」


 ミーナが、疲れた声で言った。


 書類の表紙には、仮の件名が書かれている。


――ダンジョン消失事案・暫定報告


 “消失”。


 それ以外に、適切な言葉が見つからなかった。


「崩壊じゃない。討伐でもない。暴走でもない」


「自然消滅……は却下されたわ」


「当然だな」


 グランは、椅子に深く腰掛け、指を組んだ。


「自然現象で説明できるなら、魔導院が黙っていない」


「もう黙ってないけどね」


 ミーナが、紙束を指で弾く。


「測定不能。理論外。再現不可。

 どの言葉も、報告書には向かないわ」


 沈黙が落ちる。


 そして、グランが言った。


「……残すな」


「え?」


「記録に、残すな」


 ミーナは、目を見開いた。


「それ、後で問題になるわよ」


「分かっている」


 グランは、静かに続けた。


「だが、正確に書けないものを残せば、

 次に来るのは“調査”じゃない。“管理”だ」


 ミーナは、舌打ちしかけて、止めた。


「……触れない、ってこと?」


「そうだ」


 グランは、書類を一枚、手に取る。


「“異常事案”として処理し、詳細は非公開。

 原因不明、再発なし、被害ゼロ」


「……それで?」


「それ以上は、誰も踏み込まない」


 ミーナは、しばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。


「……賢いわね。嫌になるくらい」


 ***


 同じ頃。


 アルトは、ギルドの裏で、使い終えた道具を整えていた。


 ほうき、ちりとり、布巾。

 いつもと変わらない。


「……今回の件、少し大きくなっちゃいましたね」


 誰にともなく、ぽつりと呟く。


 ダンジョンがなくなった。

 だから、清掃範囲が増えた。


 それだけの認識だ。


「次からは、もう少し気をつけないと……」


 反省点が、完全にズレている。


 ***


 午後。


 ギルドに、国からの正式な照会が届いた。


――当該ダンジョン消失事案について

――詳細な経緯および関与者の報告を求む


 グランは、それを一読し、紙を折り畳んだ。


「……来たか」


 返答は、簡潔だった。


――原因不明

――現場に特記事項なし

――被害ゼロ、再発兆候なし


 “特記事項なし”。


 その四文字に、すべてを込めた。


 ***


 王都。


 ユリウス・フェインは、その返答書を読み終え、無言で机に置いた。


「……なるほど」


 情報は、ほとんど削ぎ落とされている。

 だが、それ自体が情報だった。


「これは、“隠している”報告だ」


 彼は、ペンを回しながら考える。


 原因不明。

 被害ゼロ。

 再発なし。


「再発しない、という確信があるから、こう書ける」


 ユリウスは、口元に薄く笑みを浮かべた。


「つまり――現場には、“再発させない何か”がいた」


 名前は書かれていない。

 肩書きも、能力も、不明。


 だが。


「……記録に残さない判断をした、ということは」


 彼は、結論を出した。


「現場の責任者は、

 “残す方が危険”だと判断した」


 ユリウスは、書類を閉じた。


「なら、こちらも同じ判断をしよう」


 ――触れない。

 ――だが、忘れない。


 ***


 夕方。


 アルトは、依頼完了の印をもらい、ギルドを出た。


「……今日は、いつもより仕事が少なかったですね」


 街は、いつも通り。

 人々は、何も知らない。


 ダンジョンが消えたことも。

 世界が、一つ結論を出したことも。


 それでいいと、アルトは思った。


 ――静かに働けるなら。


 その日、

 ダンジョン消失の真相は、どこにも記録されなかった。


 だが同時に。


 “記録に残さない”という決断そのものが、

 最も重い評価だった。


 本人だけが、最後まで気づかないまま。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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