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ギルドの雑用係、実は最強でした ~俺は掃除してるだけなんだが、どうやら世界が詰むのを回避しているらしい~  作者: 鷹宮ロイド


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第14話 掃除依頼(場所指定)

 ダンジョンの外周は、思っていたよりも静かだった。


 入口付近に人の気配はあるが、前線の緊張感はない。

 それでも空気は澱んでいて、足元の石が時折、微かに震えている。


「……やっぱり、下で何か起きてますね」


 アルトはそう呟きながら、瓦礫の山を見渡した。


 崩落した外壁。

 歪んだ支柱。

 無理に触れば、連鎖的に崩れそうな箇所がいくつもある。


「中に入らなくて正解でした」


 そう言って、手袋をはめ直す。


 彼に与えられた依頼は、明確だった。


――ダンジョン外周の瓦礫撤去

――通路確保および二次崩落防止

――内部への立ち入り禁止


「……分かりやすくて助かります」


 アルトは、まず周囲をぐるりと歩いた。


 壁に手を当て、軽く押す。

 石の重なり方を見て、どこが“危ないか”を確かめる。


「ここは……後回しですね」


 そう言って選んだのは、一見すると問題なさそうな瓦礫の山だった。


 だが、実際にはそこが要だった。


 アルトは、石を一つずつ外していく。

 力任せではない。

 崩れない順番を、無意識に選んでいる。


 ――ゴト。


 ――ゴロ。


 音は小さい。

 だが、そのたびに、ダンジョン全体の震えが僅かに和らいでいく。


 離れた場所で、監視していた冒険者が眉をひそめた。


「……揺れ、減ってないか?」


「気のせいじゃない。さっきより、落ち着いてる」


「まだ中には入ってないよな……?」


 誰も答えない。


 答えられない。


 ***


 アルトは、瓦礫の隙間から覗く、淡く光る結晶に気づいた。


「……これ、残留魔力の塊ですね」


 触れれば、魔力が逆流するタイプだ。

 放置すれば、崩落を助長する。


「……危ないですね」


 彼は、結晶の周囲だけを丁寧に削り取る。

 衝撃を与えないよう、ゆっくりと。


 ――パキ。


 小さな音とともに、結晶が砕けた。


 その瞬間。


 ダンジョン全体を覆っていた重苦しさが、すっと薄れる。


「……?」


 アルトは、首を傾げた。


「今の、ちょっと強くやりすぎましたか?」


 だが、何も起きない。


 崩落も、魔物の反応もない。


「……まあ、問題なさそうですね」


 彼は、そのまま作業を続けた。


 ***


 外周での作業が進むにつれ、変化ははっきりと現れ始めた。


「内部の魔力反応、安定してきてます!」


「崩落の頻度が下がってる……!」


 報告を受けた冒険者たちが、顔を見合わせる。


「……まだ、中には誰も入ってないよな?」


「ああ。外だけだ」


「……外だけ、で?」


 言葉が続かない。


 ***


 夕方。


 アルトは、最後の瓦礫を片付け、周囲を見渡した。


「通路、確保できましたね」


 ダンジョン入口から外へと続く道は、明らかに広くなっている。

 崩落の心配も、ほとんどない。


「……これなら、もし中で何かあっても、逃げやすいと思います」


 その一言に、近くで聞いていた冒険者が息を呑んだ。


 ――もし中で何かあっても。


 それは、“前提”として語られる言葉じゃない。


 だが、アルトにとっては、当たり前の配慮だった。


 ***


 ギルドに戻ると、報告はすぐに共有された。


「外周の安定化、完了」

「通路確保、問題なし」

「内部の不安定化、沈静傾向」


 グランは、報告書を静かに読み終え、目を閉じた。


「……通れたか」


「はい。“通れるようにしただけ”だそうです」


 伝言を聞いた瞬間、室内に小さなため息が広がった。


 それは、安堵と、諦観が混じったものだった。


 誰もが理解している。


 彼は、前線に立っていない。

 戦ってもいない。


 ――それでも。


 ダンジョンは、確実に“落ち着き始めている”。


 アルトは、その頃すでに手を洗い、道具を片付けていた。


「……中、入らなくて済んで良かったです」


 それが、本心だった。


 誰も知らない。


 彼が“通れるようにしただけ”で、

 事態がどれほど変わってしまったのかを。


 知っているのは、

 世界の方だった。


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