07.タコ尽くしと白穀の話
美里は圧力鍋をみていた。
鍋の中では、タコと里芋もどきがじっくりと煮込まれている。
唐揚げの香りとはまた違う、甘辛いにおいがキッチンに広がっていた。
美里は圧力鍋の前で、少しだけ満足げに息を吐く。
(ま~じで便利。圧力鍋って最高。料理の幅が広がるわぁ~)
圧力鍋があるだけで、煮込み料理の手間がかなり変わる。
硬そうな食材でも、短い時間で柔らかくできる。
異世界に来ても、使える道具があるのはありがたかった。
美里は圧力鍋の蓋を開けて中を見る。
里芋もタコも味がしっかりしみ込んでいる。
煮汁を吸った里芋もどきは、見るからに柔らかそうだった。
タコも色よく煮えている。
美里はそれを見てごくりと唾を飲み込む。
(お酒が飲みたい)
欲望を押さえながら、里芋とタコを器に盛りつける。
煮汁を少しかけると、さらに香りが立った。
湯気が上がる。
美里は器を持ち上げる前に、少しだけ目を細めた。
(いいにおい……たまらない)
美里はルイの前に煮物を差し出す。
ルイは唐揚げの余韻がまだ残っている顔で、器の中を見た。
「これも熱いので気を付けてください」
ルイは頷いて、フォークでタコを食べる。
先ほどの唐揚げとは違い、衣はない。
煮汁を吸ったタコをゆっくりと噛みしめる。
ルイは目を細めた。
「ほぉ……先ほどの唐揚げとはまた違う食感」
続いて里芋も一口かじる。
タコの唐揚げが『香ばしさと弾力』なら、こちらは『芋のねっとり感とタコの旨味』が溶け合う究極の料理だった。
里芋もどきは柔らかく、噛むと煮汁がじわりと広がる。
タコから出た旨味も入っている。
ルイは一度、器の中を見た。
「うまい……うますぎる……。この里芋がとても柔らかくホクホクとしていて……。出汁というのか?これを吸ってとてもおいしい……」
美里は周りをみる。
全員次の獲物を見る目をしていた。
つむぎは言うまでもない。
あすかも大和も、ゆかもすずも、視線が器に向いている。
大地もいつものにこにこした顔のまま、煮物を見ていた。
智子も料理をしながら、様子をうかがっている。
(ダメだこりゃ)
美里は苦笑しながら周りに声をかける。
待っていたように、みんなが煮物を取り分けた。
つむぎはまずタコを口に入れ、それから里芋もどきを食べる。
そして、目を輝かせた。
「この、噛むほどに溢れるタコの出汁と、それをギュッと吸い込んだ里芋のねっとり感……この安定の旨さがたまらない」
大地も煮物を口に入れ、ゆっくりと噛みしめる。
(この甘辛いタコ出汁が染みまくった里芋、最高だな…!プリッとしたタコを噛み締めながら日本酒で流し込みたい)
大和は一口食べた瞬間、顔を上げた。
「うまぁ!!お袋の味!!」
あすかも美里を見る。
「美里ちゃん。結婚してぇ~」
「バカ言ってないでください」
美里はすぐに返す。
ゆかも器を手に、しみじみと頷いた。
「タコの重厚な出汁を包み込む、里芋のねっとりとした甘み。最高ですね~」
すずもゆっくりと煮物を食べる。
「本当に上品な味わいです」
智子も煮物を口にして頷く。
唐揚げとは違う。
煮物は煮物で、タコの旨味がしっかり出ていた。
智子は器を置き、次の料理へ視線を移した。
「さて、最後はタコときゅうりの酢の物……。本当は30分ほど寝かせたいところだけど、今回はしかたなしってことで」
ルイは器を見た。
唐揚げ。
煮物。
その次に出されたものは、見た目からして違っていた。
湯気はない。
きゅうりとタコが和えられている。
「今度の料理は熱くないんですね」
「あ、えっとなるべく酸っぱさは抑えたつもりですが……。苦手な人は苦手かもしれないです」
智子は少しだけ様子をうかがう。
酢の物は、酸味に慣れていない人には食べにくいかもしれない。
ルイはフォークできゅうりとタコを刺し、食べる。
口に入れて、少しだけ目を細めた。
「確かに少し酸っぱいですね。ですが、食べれないわけではないですね」
智子はホッとする。
酸味が強すぎて驚かれるかと思ったが、食べられる範囲らしい。
智子は周りを見る。
「ほらあんたたちもお食べ」
あすかたちは、もはや待ってましたと言わんばかりに酢の物を食べる。
唐揚げ。
煮物。
そして酢の物。
同じタコでも料理が変われば味が変わる。
あすかは一口食べて、すぐに声を上げた。
「これこれ。この味よ!」
大和も頷く。
「この酸っぱさがたまらない」
すずも少しずつ食べる。
「ちょうどいいですね」
つむぎは酢の物を食べたあと、すぐにルイの方を向いた。
「ルイさん!タコがもし手に入ったら売ってください!」
ルイは笑いだす。
智子は慌てて頭を下げる。
「すみません。この子ったら……」
「あぁ、いいよ。白穀とタコが手に入ったらこちらにも卸そう……。あ、白穀と言えば、白穀の珍しい食べ方をしているとか」
智子は手を止めた。
「え?」
あすかはその場で少し肩を揺らした。
白穀の話。
そういえば、それもルイが来た理由だった。
タコの衝撃が強すぎて、話がそちらに流れていた。
「あ、こっちの人はリゾットとかそういう感じでしか食べたことないみたいです。で、他の食べ方を教えてほしいとのことで……」
智子はゆっくりとあすかを見る。
「あすかちゃん……」
「あ……」
あすかは自分が言うタイミングを完全に逃していたことに気づいた。
智子の声が少し低くなる。
「そういうこと早く言いなさい!!」
「ごめんなさ~~い」
大和は横から頷いた。
「そうっすよ~」
「あんたもだよ!」
「うっす」
大和はすぐに返事をする。
あすかも大和も、完全に怒られる側だった。
ルイはそんなやり取りを見ながら、懐中時計を取り出す。
「多分、うちの者が白穀をそろそろ持ってくる時間だ」
大和はそれを聞いて、すぐに立ち上がった。
「あ、表見てきま~~~す」
大和は急いで家を出る。
あすかも続いて家を出る。
智子の視線から逃げるような動きだった。
大地はその様子を見て、笑いながら立ち上がる。
「やれやれ。僕も様子を見に行ってくるかな……」
大地は笑いながら2人の後を追う。




