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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第11章『ほほえみデンタル、悪魔の化身と白穀を囲む』

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05.タコ料理と大事な確認

「美里ちゃんどうする?」


智子は下処理の終わったタコを見ながら、美里に声をかけた。

ボウルの中には、つむぎが下処理を終えたタコがある。

悪魔の化身と呼ばれていたものは、もう見慣れたゆでだこの姿になっていた。

ここから先は料理である。

智子と美里の担当だった。

美里はボウルの中を見て、少し考える。


「まぁ、一つは熱烈なご希望を賜っているから確定として……」


智子と美里は後ろを振り返る。

つむぎがワクワクした目でこちらを見ている。

視線がまっすぐだった。

タコの唐揚げ。

その希望だけは、もう曲がりそうにない。


「……まぁ、きゅうり買ったし酢の物でしょ?」


「里芋もどきもあるから煮物もできますね……」


美里は買ってきた食材の中から、里芋に似たものを思い浮かべた。

市場で見つけたときは、使い道を考えながら買ったものだった。

タコと合わせれば煮物にできる。

智子も頷く。


「……志帆先生がこの場にいたらタコ焼きって言いだすね」


「言いますね」


志帆たちは今、医療ギルドにいるため不在でよかったとほっと息をつく。

志帆がこの場にいたら、きっとたこ焼きの話になっていた。

そして、たこ焼きプレートの所在確認が始まっていたかもしれない。

今はそこまで手を広げる余裕はない。

まずは普通に料理にするところからだった。

美里は少し考えながら言う。


「こじゃれた料理ならアヒージョとか……」


「そんな材料がどこに?」


「う~ん……無理ですね」


美里はすぐに諦めた。

オリーブオイルのようなもの。

にんにくのようなもの。

必要な材料がそろっているとは言えない。

似たものがあるかもしれないが、今はまだわからない。

智子と美里はとりあえず思い浮かんだものを作り始める。

美里は圧力鍋を取り出し、煮物を作り始める。

里芋もどきの皮を確認しながら、食べやすい大きさに切っていく。

智子はタコを揚げはじめて、ご所望の唐揚げを作る。

水気を取ったタコに下味をつける。

粉をまぶす。

油の温度を見ながら、少しずつ鍋へ入れていく。

じゅわっと音が上がる。

つむぎの目がさらに輝いた。


(あ、魚とかさばけるってことは、そういうの気にしなくていいってことか……。美里ちゃんと全部やらないといけないって思ってたから……。つむぎちゃんもそういう下処理の時だけは戦力になるってことだね)


智子はつむぎの特技を思い浮かべ、面倒な料理の手順が多少楽になるかもと思い始めた。

異世界で暮らす以上、食材は今まで通りの形で手に入るとは限らない。

肉も魚も、どこまで処理されているかわからない。

そのたびに智子と美里だけで対応するのは大変だった。

つむぎが下処理をできるなら、かなり助かる。

智子は揚がっていくタコを見ながら、次の分を準備する。

美里も煮物の準備を進めながら、つむぎをちらりと見た。


(いやぁ……本当に人は見かけによらない。……ということは、他の人たちも意外な特技があるのかな?……あまりプライベート的な話をしてないからなぁ……)


美里は里芋もどきを鍋へ入れながら考える。

同じ職場で働いていた。

けれど、仕事中に話すことと、家でのことは違う。

趣味。

家族。

得意なこと。

苦手なこと。

知っているようで知らないことは多い。

異世界に来てから、一緒に暮らすようになった。

だからこそ、今まで知らなかったことが見えてくる。

つむぎは揚げ物の音に釘付けだった。

唐揚げの香りがキッチンに広がる。

下味のついたタコが油の中で色を変えていく。

つむぎは我慢できないという顔で声を上げた。


「ん~~~~イイにおい。智子さん一口味見を!」


「だめだよ!」


「ちぇ~~」


つむぎの反応を見て、ルイが笑いだす。

ルイはリビング側からキッチンの様子を興味深そうに見ていた。

悪魔の化身と呼ばれていたものが、今は油の中で料理になっている。

それだけでも面白いのだろう。

その上、つむぎが全力で食べたがっている。


「いや~。お嬢さんは食べるのが大好きなようだね」


「はい。趣味は食べ歩きです」


つむぎは迷いなく答えた。

大地はその横でのんびりと首を傾げる。


「自分で作れるようになろうとは?」


「そんなこと思うわけないじゃないですか」


「そっか」


大地はあっさり頷いた。

つむぎの答えはあまりにも迷いがなかった。

食べるのは好き。

作るのは別。

その線引きがはっきりしている。

あすかは少し笑いながら聞く。


「一番好きなのは?」


「コスパ的にサ〇ゼ最強。ドリアは正義」


「わかる!」


ゆかが即座に反応した。

大和も腕を組んで頷く。


「オレ的にはハンバーグステーキが一番ッス」


「あたしはあれが好きだったなぁ~……。フリコ」


「わっかる~~」


ゆかがまた強く頷いた。

つむぎも目を輝かせる。


「あれめっちゃ好きだった」


「あれが無くなった時は落ち込んだ」


すずは少し控えめに口を開く。


「辛味チキンとプリン……」


「どっちも好き~」


つむぎは即答した。

どれを言われても好きと返ってくる。

大地はそんなつむぎを見て、ふと思ったことを聞く。


「つむぎちゃん嫌いな食べ物ある?」


大地は先ほどから全部好きと答えるつむぎに疑問をぶつける。

つむぎは少しだけ考え込んだ。


「嫌いな食べ物……………。多分食べ物全部いけます。アレルギーもないですから」


その言葉に、智子の手が一瞬止まった。

唐揚げを取り出しながら、智子は周りを見る。

食材の話。

料理の話。

その中で、急に大事なことを思い出した。


「……アレルギーといえば……。食物アレルギーはないの?ほかの子たちは」


美里も鍋の前で顔を上げる。


「そういえば……何も考えずに冷蔵庫にあったものを使って料理してましたけど」


今までは、日本から一緒に来た冷蔵庫の中身を使っていた。

よく知っている食材だった。

だが、これからは違う。

この世界の食材を使う。

名前が違う。

見た目が似ていても同じとは限らない。

だからこそ、食物アレルギーの確認は必要だった。

大地が先に答える。


「僕はないよ」


「俺も平気っス」


大和も答える。

ゆかは少し考えてから言った。


「辛い物が苦手なくらい」


あすかも少し顔をしかめる。


「ゲテモノ系は……」


すずは小さく手を上げる。


「蕎麦が……」


美里はすぐにすずを見る。


「すずちゃん蕎麦アレルギーなんだ。……幸い蕎麦はないから大丈夫だけど、気を付けるね。大和ホワイトボードに書いといて」


「りょ~かい!」


大和はすぐに返事をした。

共同生活をする以上、食物アレルギーは共有しておいた方がいい。

まして料理担当が複数いるなら、見える場所に書いておく必要がある。

蕎麦。

今はない。

けれど、この世界で似たものが見つかる可能性もある。

美里はそのことを頭に入れた。

ルイはそのやり取りを聞いて、少し不思議そうに首を傾げる。


「……食物アレルギーとは?」


智子はルイを見る。

この世界でどの程度知られている概念なのかはわからない。

専門的に話しても伝わらないかもしれない。

智子はどう言ったら伝わるか考えながら、ゆっくり口を開いた。


「………えっと……。人によって食べてはいけない……命に関わる食べ物のことで……」


智子はルイにわかりやすい説明としてどう言ったら伝わるか考えながら伝える。

大地がその後を引き取った。


「本来なら体に害のないはずの食べ物に対して、身体の中でこいつは害ある物だって退治しようとしておこる過剰な防御反応のことですよ」


「ほぉ……」


ルイは興味深そうに大地を見る。

大地はいつものようににこやかだった。

けれど、話している内容は軽くない。


「反応の程度は人によるので何とも言えませんが……。最悪死に至る場合もあります」


大地はにこやかに説明した。

ルイは黙った。

悪魔の化身と呼ばれていたタコ。

知らない食材。

食べ方。

流通。

その先には、食べられる人と食べられない人の違いがある。

ルイは何も言わず、智子たちの方を見ていた。


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