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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第11章『ほほえみデンタル、悪魔の化身と白穀を囲む』

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04.つむぎの意外な特技

「つむぎちゃん……タコの下処理できるの?」


智子はつむぎを見る。

リビングには、壺から取り出されたタコがある。

ルイはそのタコを持ったまま、にこにこと笑っていた。

悪魔の化身と呼ばれていたものは、ほほえみデンタルの面々にとっては見覚えのある食材だった。

ただし、見覚えがあることと、実際に処理できることは別だった。

智子も美里も、スーパーで買うタコなら扱える。

けれど、壺から出てきたばかりのタコを前にすると、話は変わる。

つむぎは胸を張ったまま答えた。


「うち、パパと兄の趣味が釣りで……。それによくついていってたんです。それでまぁよくタコの下処理もしてたり……。魚も三枚おろしなら得意です」


美里はつむぎを見た。

タコの下処理。

魚の三枚おろし。

その言葉が、目の前のつむぎとすぐには結びつかなかった。


「つむぎちゃん……ギャルじゃなかったんだ」


「人は見かけによらないねぇ……」


智子も同じようにつむぎを見る。

つむぎはまったく気にした様子もなく、さらに胸を張った。


「できないのは素材を料理に生かすことです!」


つむぎは堂々と胸を張って答える。

美里は少しだけ納得したように頷いた。


「なるほど……」


下処理はできる。

魚もおろせる。

けれど、それを料理に仕上げるのは別の人。

つむぎの中では役割が分かれているらしい。

つむぎはルイのところへ歩み寄る。

ルイの手には、まだタコがある。

つむぎはそのタコを見て、普通に手を伸ばした。


「と、いうわけなので、そのタコもらいますね」


ルイはニコニコと笑いながら、つむぎにタコを手渡す。

つむぎはためらうことなく受け取った。

ぬめりのあるタコを持っても、顔色ひとつ変えない。

あすかと大和はその様子を見ていた。

ゆかとすずも少し離れた場所から見ている。

智子は小さく息を吐き、キッチンの方へ向かった。

つむぎはタコを持ったまま、智子へ声をかける。


「智子さん。お湯の準備だけお願いします」


「はいはい」


智子は大きめの鍋を取り出し、水をたっぷりと入れて火にかける。

鍋に水が満ちる音がキッチンに響く。

火をつけると、鍋の底から少しずつ熱が回っていく。

つむぎはキッチンに向かい、慣れた手つきでタコの下処理を始める。

タコを作業台に置き、手を動かす。

内臓を取り出し、くちばしと目を取る。

その手つきは迷いがなかった。

智子は鍋の様子を見ながら、横目でつむぎを見る。

美里も少し離れたところから、つむぎの手元を見ている。

大地はのんびりとした顔のまま、感心したように見ていた。

つむぎは手を動かしながら、懐かしそうに笑った。


「なっつかしいなぁ~~。最初は気持ち悪くってキャーキャー言いながらやってたなぁ~」


「つむぎちゃんでも悲鳴上げるんだ」


あすかが思わず言う。

つむぎはタコを扱いながら笑った。


「上げますよ~」


つむぎは笑いながら答える。

昔から平気だったわけではないらしい。

それでも何度もやっているうちに、平気になった。

今のつむぎの手つきは、そういう慣れ方をしているように見えた。

つむぎは次の作業に入る。


「あとは塩もみをして~……」


タコに塩をまぶし、しっかりともみ込む。

ぬめりを取るために、手に力を入れて動かす。

その様子を、ルイは面白そうに眺めている。

悪魔の化身と呼ばれていたものが、目の前で食材として扱われている。

ルイにとっても、見慣れた光景ではないらしい。

智子はつむぎの横で、慣れた手つきで行われる作業に感心している。

美里も、料理の得意な人間としてその作業を見ていた。

下処理が終わらなければ料理はできない。

つむぎがそこを担えるのは、かなり大きかった。

つむぎはタコを確認し、手を止める。


「よし。あとは茹でて……。お湯OKですか?」


「沸騰してるよ」


智子が鍋を見る。

水はしっかり沸いていた。

つむぎはタコを持ち上げ、鍋の中にゆっくりと沈める。

足の先から湯に入れていく。

熱が入るにつれて、タコの色が変わっていく。

キッチンにいた全員が、その様子を見ていた。

つむぎは鍋の様子を確認してから、周囲を見回す。


「えっと、ボウルボウルっと」


つむぎはボウルを取り出し、次の準備を始める。

途中、タコをひっくり返す。

湯の中で丸まっていく足を見て、智子が声を漏らした。


「おぉ~……ゆでだこだ」


「氷氷っと……」


つむぎはボウルにたっぷりの氷を入れて、蛇口をひねる。

水がボウルへ流れ込み、氷がからからと音を立てた。

つむぎはゆであがったタコを取り出し、氷水の中に沈める。

赤くなったタコが、冷たい水の中で冷やされていく。

つむぎは全体を確認してから、軽く手を払った。


「はい。下処理完了しました。ここからはお願いします」


美里はボウルの中のタコを見る。

たしかに、もう知っているゆでだこに近い状態だった。

ここまでくれば、料理として扱いやすい。

それでも、美里は少し気になって聞いた。


「一口大に切るとかそういうのは?」


つむぎは目をそらした。


「……そういうのはママと兄貴がやってくれてたから……」


智子はつむぎを見る。


「つむぎちゃんは?」


「あたしとパパは、ママと兄貴ができない下処理と三枚おろし担当。あとは食べ専です」


大地は少し首を傾げた。


「お兄さん釣りが趣味なのに捌けないの?」


「釣り針につける虫は、パパかあたしがつけてました」


「へぇ……」


大地はゆっくり頷く。

釣りが趣味でも、できることとできないことがあるらしい。

つむぎはそのまま続けた。


「一度、付けれないんなら釣り止めろ!ってブチぎれたことがあって」


「うんうん」


「じゃあ料理せんぞ!って返されて……」


「………うん」


「仕方ないなってなって。まぁ……」


「………そうなんだ」


大地は相槌を打った。

何がどう仕方ないのかは、すぐにはわからなかった。

ただ、つむぎの家ではそれで役割が決まっていたらしい。

智子はボウルの中のタコを見る。

もう下処理は終わっている。

ここから先は料理の担当だった。

智子は小さく息を吐く。


「……なにが仕方ないのかわからないけど……作ってみますか」


「唐揚げお願いします!」


「はいはい」


智子はタコを取り出し、料理を始める。

まずは水気を取る。

食べやすい大きさに切る。

調味料をどうするか考えながら、手を動かす。

美里も隣で手伝う準備をする。

つむぎは期待した目でそれを見ている。

大地は少し離れて、邪魔にならない位置に移動した。

あすかと大和、ゆかとすずも、キッチンの様子を見ていた。

ルイはリビング側から、身を乗り出すようにして見ている。


「いやぁ楽しみだ」


ルイは何ができるのか期待しながら待っている。

悪魔の化身と呼ばれていたものが、料理になる。

それがどんな味になるのか。

その場にいる全員が、智子の手元へ視線を向けていた。


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