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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第11章『ほほえみデンタル、悪魔の化身と白穀を囲む』

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03.悪魔の化身の正体

「ただいま~~~」


「たくさん買ってきたよ~」


「戻りました~」


「今日はピーマンの肉詰めです」


智子、美里、大地、つむぎの4人は自宅に戻ってくる。

それぞれの手には、市場で買ってきた荷物がある。

肉。

野菜。

見たことのあるものに似た食材。

見たことのない食材。

袋の中身はかなり増えていた。

玄関で靴を脱いで、4人はリビングへと向かう。

つむぎは野菜の入った袋を持ちながら、今日の夕食をすでに決めている顔をしていた。

美里は荷物を持ち直しながら、リビングの扉の方を見る。

大地はのんびりとした顔で、両手の荷物を支えていた。

智子はリビングへ向かって声をかける。


「あ、おかえりなさい」


ゆかがリビングの扉を開ける。

その向こうから、あすかの声も聞こえた。


「おかえりなさ~い。いっぱい買ってきましたね」


「まぁ、ね……」


智子たちはテーブルの上に買ってきた荷物を置く。

袋がひとつ置かれるたびに、テーブルの上が市場帰りの状態になっていく。

野菜の袋。

肉の包み。

名前を聞いたけれど、まだ完全には覚えきれていない食材。

つむぎが気になって買ったもの。

智子と美里が必要そうだと判断して買ったもの。

大地がずっと持っていたもの。

リビングのテーブルは、すぐに袋でいっぱいになった。


「おやぁ、いっぱい買って来たんですね~。うちの商会を通せば荷物の運搬もやっているのに」


「市場というワクワクする場所で買うからいいんですよ」


つむぎはすぐに答えた。

荷物を置きながら、当たり前のように言う。

市場には見たことのないものがたくさんあった。

店の人に聞けば食べ方もわかる。

試食できるものもあった。

その場で見て、選んで、買う。

それが楽しかった。

つむぎにとって、運搬の手間よりも市場そのものの方が大事だった。


「なるほど……」


「まぁ、子どもの子守をしながらの買い物も楽じゃないけどね~」


智子は荷物を置きながら言う。

つむぎはすぐに顔を上げた。


「子どもって誰の事ですか?」


「目を離すとす~ぐどっか行った小娘はどいつだい?」


「美里さん」


「つむぎちゃんだよ!」


美里がすぐに突っ込んだ。

つむぎは何食わぬ顔をしている。

智子は呆れたように息を吐いた。

市場でのつむぎは、食材を見つけるたびに足を止めた。

肉を見つければ聞く。

野菜を見つければ買う。

試食があれば食べる。

冷やしイチゴのようなものまで見つける。

買い物としては助かった。

だが、目を離すとすぐに別の店へ行くのも事実だった。


「おやおや」


「……ん?」


大地が先に異変に気付く。

荷物を置いて、会話をして、いつものようにやり取りをしていた。

その中に、普段聞かない声が混ざっていた。

大地はゆっくり顔を向ける。

続いて智子も荷物を取り出す手を止めて首をかしげる。

美里も何か違和感に気付き手を止める。

つむぎは違和感の方へ顔を向ける。

リビングには、知らない男がいた。

湯呑みを前にして座っている。

そのそばには壺があった。

つむぎはその男を見て、まっすぐ聞いた。


「……おじさん誰?」


「あっと……この人は白穀を取り扱っている商会の会長でルイさんっていうの」


あすかが少し慌てて説明する。

ルイがぺこりとお辞儀をする。

4人もつられてお辞儀を返す。

智子も一度は頭を下げた。

美里も大地もつむぎも、それにつられて頭を下げる。

だが、挨拶を返したからといって、状況が理解できたわけではなかった。

白穀を取り扱っている商会の会長。

それはわかった。

だが、その人物がなぜ自宅のリビングにいるのかは別の話だった。

智子は顔を上げた。


「って、違う!なんでそんな人がここに?」


大和は少しだけ背筋を伸ばした。

あすかの隣で、視線を泳がせながら答える。


「智子さんと美里さんに見てもらいたいものがあるみたいっス」


「わたしと智子さんに?」


美里は自分と智子を交互に見る。

智子はため息をついて、あすかと大和を睨む。

あとで来な。

声には出していないが、目が訴えていた。

あすかと大和は小さく答える。


「うっす」


「うっす」


2人の声は小さかった。

ゆかはその様子を横で見ていた。

すずも少し離れた場所にいた。

ルイはリビングでにこにことしている。

そのそばには、問題の壺がある。

つむぎは壺を見て、それからルイを見る。

来てしまったものは、もう仕方がない。

つむぎは前に出た。


「来てしまったものは仕方ないので、何ですか?見てもらいたいものって」


「あんたって子は……」


智子はがっくりとうなだれる。

順番というものがある。

まずは状況確認。

なぜ来たのか。

誰が連れてきたのか。

どうするつもりなのか。

そういう話をするべきだった。

だが、つむぎは一気に本題へ進めた。

ルイは壺へ手を伸ばす。


「これです」


ルイは壺の蓋をあけ、手を突っ込み中身を取り出す。

壺の中から出てきたのは見たことのある軟体動物だった。

丸い頭。

足。

ぬめりのある体。

見間違えることはなかった。

それはタコだった。

ルイだけはニコニコ笑って、そのタコをつかんでいた。

つむぎはすぐに声をあげる。


「タコだ!」


「タコですね」


「タコだねぇ」


「そうですね」


「やっぱり」


「やっぱり」


あすかと大和が同時に言う。

ゆかも壺から出てきたものを見て頷いた。


「うん。だよね」


すずは少し距離を取りながら、そのタコを見る。


「悪魔の化身……。まぁ、そうですよね」


リビングの中で、悪魔の化身と呼ばれていたものの正体が判明した。

見たことがない人にとっては、そう見えるのかもしれない。

ぬめぬめしていて、足があって、壺から出てくる。

それを悪魔の化身と呼ぶ感覚も、わからないわけではなかった。

だが、日本から来た面々にとっては食材だった。

タコ。

唐揚げ。

たこ焼き。

酢の物。

いろいろな料理が浮かぶ食材だった。

つむぎはタコを見つめたまま、智子の方を向く。


「智子さん!タコの唐揚げが食べたいです!」


「ピーマンの肉詰めじゃなかったのかい!!」


「それはそれで食べたいです!」


「誰がタコの処理をするんだい!」


智子の声がリビングに響く。

タコは食べられる。

食べればおいしい。

けれど、目の前にあるのは壺から出てきたばかりのタコだった。

スーパーで売っているものはすでに下処理されたもの。

一から全部を処理することなんてほぼない。

ゆかもタコを見ながら小さく呟く。


「………まぁ、ですよね」


智子も美里もタコを見る。

大地もタコを見る。

あすかと大和も見る。

すずは少し離れて見る。

ルイはにこにこしながらタコを持っている。

その中で、つむぎだけがまっすぐ手を上げた。


「あたしできますよ」


つむぎが胸を張って答える。

その言葉に智子たちは驚いた。

智子はつむぎを見る。

美里も目を丸くする。

大地もゆっくりとつむぎへ顔を向ける。

ゆかとすずも、あすかと大和も同じようにつむぎを見た。

ルイだけは、タコをつかんだままにこにこ笑っていた。


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