↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第11章『ほほえみデンタル、悪魔の化身と白穀を囲む』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/126

01.悪魔の化身、到着

あすかと大和は、ルイを連れてほほえみデンタルへ戻ってきた。

ルイの手には壺がある。

中身は見えない。

だが、ルイが商会で言っていた「悪魔の化身」が入っていることだけはわかっている。

あすかは隣を歩く大和を見る。

大和は壺から目をそらしていた。

あすかも壺を見ないようにしながら、ほほえみデンタルの建物を見上げた。


「えっと……ルイさん。着きましたけど……多分智子さんいませんよ」


「まぁまぁ。気にしない気にしない」


ルイはまったく気にしていない様子だった。

大和はその横顔を見ながら、そっと視線をそらす。

気にしないで済むのはルイだけである。

あすかと大和は、勝手に商会の会長を連れて帰ってきた側だった。

智子や美里がいないなら、なおさらどう説明するのかという問題がある。


(いやぁ……。絶対に俺らが怒られるッス)


大和は心の中でそう思った。

誰に怒られるのかはわからない。

だが、怒られる未来だけは見えた。

大和は隣のあすかを見る。

あすかは前を向いたまま、何かを考えている顔をしていた。


(どうやって大和だけが悪い方向に持っていけるか……)


あすかは真剣に考えていた。

ルイを連れてきたのは流れである。

だが、怒られるならできれば軽く済ませたい。

そして可能であれば、大和が前に出てくれた方が助かる。

大和はあすかの表情を見て、少しだけ嫌な予感がした。

あすかは何事もなかったようにクリニックの扉を開けて中に入る。

診療日ではないので、待合室は静かだった。

受付にも人はいない。

診療室の方も明かりは落ち着いている。

休診日のほほえみデンタルは、普段より少しだけ空気が軽かった。

あすかはルイを案内しながら歩く。

大和もその後ろをついていく。


(クリニックを通過しないと外に出れないのは面倒だけど、まぁ慣れてきたからそうでもないか……)


あすかはそんなことを思いながら、家の方へ向かう。

最初は違和感があった。

クリニックの中を通って、自宅側へ抜ける。

日本にいたころと同じ建物のはずなのに、異世界に来てからはその構造を意識することが増えた。

けれど、毎日通っていれば慣れるものだった。

あすかは廊下を進みながら、家の方へ意識を向ける。


(たしか……ゆかちゃんとすずちゃんが掃除してるんだよね~……。終わったかな?)


ゆかとすずは留守番だった。

みんなが出かけている間に掃除をする予定になっていた。

あすかはそんなことも思いながら歩みを進める。

クリニックを抜けて家の前につくと、玄関先ではすずが掃き掃除をしていた。

箒を持ち、玄関まわりを丁寧に掃いている。

その少し横では、ゆかが草むしりをしていた。

ゆかはしゃがみ込み、草を抜いてはまとめている。

2人とも掃除の途中だったらしい。

すずが顔を上げた。

あすかと大和に気づき、ほっとしたように口を開く。


「あ、あすかさん。大和さん。おかえりなさい………えっと……」


すずはあすかの後ろにいる人物を見て固まった。

知らない人がいる。

しかも、どこか身なりがよい。

ただの通行人ではなさそうだった。

ゆかも顔を上げる。

手についた土を軽く払いながら、あすかの方を見る。


「あすかさん。後ろの人は?」


「白穀を売っている商会の会長さん。白穀はこの後商会の人が持ってきてくれる」


ゆかは一瞬、言葉を飲み込んだ。

商会の会長。

白穀を買いに行ったはずなのに、なぜか会長本人が来ている。

ゆかは草むしりの姿勢のまま、あすかを見る。


「なるほど………。で、なぜそんな偉い人が?」


「うちの料理番長に見てほしい食材があるみたいっス」


大和が答えた。

答えながらも、自分で言っていて少しだけ不安になる。

料理番長は今いない。

智子と美里は市場へ行っている。

つむぎと大地も一緒だった。

すずは戸惑ったまま、ルイを見る。


「智子さんと美里さんに?」


ルイは穏やかに微笑んだ。


「はじめまして。ルイと申します。………こちらの料理人のかたに、白穀の他の食べ方や、これの食べ方を知りたくてね」


ルイは壺を持ち上げて言う。

ゆかとすずは、ルイの持つ壺を見る。

壺。

ただの壺に見える。

けれど、中に何かが入っている。

その中身を見てほしいと言っている。

すずは言葉を探した。


「料理人って言っても……」


「別に2人は一般家庭の料理しかしないけど………」


ゆかも続いた。

智子と美里は料理が得意だ。

みんなの食事を作ってくれている。

だが、料理人として働いているわけではない。

日本にいたころの一般家庭の料理を知っているだけである。

ルイはまったく困った様子を見せずに頷いた。


「それでいいんですよ。一般庶民に食の流通が広まればいいので」


「はぁ……」


「はぁ……」


すずとゆかは同時に返事をした。

意味はわかる。

白穀も、一般家庭でどう食べるかを知りたいのだろう。

けれど、今この家に料理番長はいない。

そして目の前には商会の会長がいる。

ゆかはゆっくりと立ち上がった。

草を抜いていた手を軽く払い、あすかを手招きする。

あすかは少しだけ嫌そうな顔をしたが、ゆかのそばへ近づいた。

ゆかは声をひそめる。


「あすかさん!どうするんですか!?」


「あたしに言われても困るよ!」


「困ることをしてるじゃないですか!!」


「だって~~~……」


「だってもへちまもない!」


「うっわ~~……大人になってひっさびさに言われた」


「あすかさん!」


「ごめんって」


あすかは小さく謝った。

ゆかの声はひそめられていたが、怒っているのはよくわかった。

あすかも悪いとは思っている。

ただ、ルイが行く気になってしまった以上、止めるのは難しかった。

大和は少し離れた場所で2人のやり取りを見ていた。

できれば巻き込まれたくない。

だが、あすかの視線が時々こちらに向く。

大和は何も見なかったことにした。

すずはその様子を見ながら、ルイを立たせたままにしていることに気づいた。

知らない人。

商会の会長。

壺を持っている。

状況はよくわからない。

それでも、玄関先でそのまま待たせるわけにはいかなかった。

すずは箒をそっと脇に置き、少し緊張した声で口を開く。


「あ……あの。とりあえず中に入って……お茶を……」


ルイはにっこり笑った。


「ありがとうお嬢さん。お家のお手伝いえらいですね~……」


そう言って、棒のついた飴をすずに差し出す。

すずは一瞬、固まった。

目の前に差し出された飴を見る。

それからルイを見る。

どう受け取ればいいのかわからない。

けれど、断るのも失礼な気がした。

すずは乾いた笑いをあげながら、飴を手に取った。


(こっちに来てからいろんな人から飴をもらう機会が増えたなぁ……。23なんだけどなぁ……)


すずは手の中の飴を見た。

子ども扱いされているのかもしれない。

ありがたいのかもしれない。

よくわからない。

ただ、もらった飴は飴だった。

大和はその光景を見つめていた。


(い~な~)


大和はただ一人羨ましそうにその光景を見ていた。

ルイは壺を抱えたまま、すずに案内されて家の中へ入っていく。

ゆかはあすかを横目で見た。

あすかは目をそらした。

大和も目をそらした。

掃除中だった玄関先に、予定外の来客がやってきた。

そして、その来客は料理番長を探していた。

今この家に料理番長はいない。

その事実だけが、玄関先に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。