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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第10章『ほほえみデンタル、暮らしと仕事の種まき』

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08.訪問診療の条件

サムは少し考え込んだあと、真人たちを見る。


「訪問診療もやってもらいたいな……」


その言葉に、真人はすぐに頷いた。

訪問診療。

通院が難しい人のもとへ行き、口腔内を確認して必要な治療やケアを行う。

それは日本にいたころも必要とされていた分野だった。


「大地君とあすかさんの2人は、訪問診療のプロなんですよ」


志帆も続いた。


「前の職場でも訪問診療をメインにしていたんですよ」


サムは身を乗り出す。


「ぜひお願いしたい」


真人は少しだけ表情を引き締めた。

必要とされるのはありがたい。

だが、こちらが一方的に押しかけて治療するわけにはいかない。


「とはいえ、やってもらいたいという希望がないとできませんからね」


「まぁ、本人がいらんって言ったらそうだな……」


サムもそこは理解しているようだった。

医療ギルドとしてできることは多い。

けれど、本人が望まなければ始まらない。

マイクが考えながら口を開く。


「……まずは数人、そういうことに興味がある人に協力してもらいますか?」


「そうだな……」


サムは短く頷いた。

真人は少し首を傾げる。


「そんな人いるんですか?」


「元職員」


サムは短く答えた。

元職員なら確かに協力してくれるだろう。

医療ギルドに関わっていた人なら、サムたちの言葉にも耳を傾けるかもしれない。

しかし、本人の了承も得ずに勝手に決めていいものだろうか。

真人たちは少し言葉を探す。

その様子を見て、サムが声をかけた。


「問題ない」


真人は周りを見る。

マイクも頷いている。

ギルも反対している様子はなかった。

志帆はサムを見る。


「まぁ、そこはサムさんを信じるわ」


志帆の言葉にサムは頷く。

任せろと言っているようにも見える。

真人もそれ以上は口を挟まなかった。

マイクは紙を手元へ引き寄せる。


「訪問診療の注意点は他にもあるのかな?」


真人は少し考えながら答える。


「保険点数に関してはこっちの確認だするとして……。しいていうなら、患者さんや家族、あとは施設職員の方との連携・コミュニケーションが重要ですね」


陽菜も頷く。


「あとは、医院に来てもらってやるのとは違うから時間もある程度余裕が欲しいです」


直樹は続ける。


「こちらも感染対策は十分にしていきますが、それでもクリニックと違いますから……。施設の衛生環境もある程度は」


「それは任せろ。大丈夫だ」


サムは即答した。

施設の環境。

職員との連携。

患者本人の状態。

訪問診療は、診療室で行う治療とは違う部分が多い。

すべてを同じようにはできない。

真人はそこも伝えておく必要があると思った。


「できる治療とできない治療とは出てくると思いますよ」


「それはそうでしょう」


マイクは当然のように頷く。

医療ギルドの職員なだけあって話が通じる。

何ができて、何ができないのか。

そこを無理に押し通そうとはしない。

真人は少し肩の力を抜いた。


「なら、ほかに特にないかな」


真人がそう呟くと、サムは満足そうに頷いた。

訪問診療についての大枠は共有できた。

あとは、実際に大地とあすかがどう受け止めるかだった。

訪問診療の経験があるとはいえ、ここは異世界である。

設備も環境も違う。

それでも、できることがあるかもしれない。

真人は応接室の机を見つめながら考える。


(う~ん……とりあえず、数名だけでも口腔機能訓練ができればってところかな。舌圧検査もせっかく来たからね)


ほほえみデンタルには、日本から一緒に来た機材がある。

使えるものもある。

まだ使い方をこの世界の人たちに説明しきれていないものもある。

けれど、口から食べることを支えるために役立つなら、使わない理由はなかった。

食べ物を噛む。

飲み込む。

口の中をきれいに保つ。

それは歯科の範囲であり、生活そのものでもある。

真人はほほえみデンタルの可能性に思いを馳せる。

応接室では、経営の相談についての話し合いが続いていた。


次章

第11章 『ほほえみデンタル、悪魔の化身と白穀を囲む』は、

7月21日 (火)17時より投稿を開始します。


どうぞ、お楽しみに。

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