04.買い物スタート
一通り市場を見て回った4人は、人の流れから少し外れた場所で足を止めた。
市場にはまだ活気があった。
食材を売る声。
値段を聞く声。
買ったものを抱えて歩く人たち。
並べられている食材は、見慣れたものに似ているものもあれば、まったく知らないものもあった。
智子は手に持ったエコバッグを軽く持ち直す。
「気になったものもあったね」
「じゃぁ、本格的に買い物スタートしますか」
美里が頷く。
その横で、つむぎがスマホを取り出した。
電波は繋がらない。
けれど、メモとしては普通に使える。
つむぎは画面を開き、そこに打ち込んだ内容を3人へ見せた。
「お肉なら、あそことあそことあのお店が気になりました」
大地はスマホの画面を覗き込み、少し目を丸くする。
「ただ食べ歩いてたわけじゃないんだ……」
「失礼すぎません?」
「ごめんごめん」
大地は笑いながら謝る。
つむぎはむっとした顔をしながらも、スマホのメモを閉じた。
智子はそのスマホを見て、小さく息を吐く。
「……スマホもねぇ……」
「電話はできないけど、普通に充電できれば使えるし……」
美里が言う。
地図も通信も使えない。
それでも、メモ帳や写真、時計としてなら使える。
つむぎはあっけらかんと答えた。
「まぁ、困らないですし」
「え~つむぎちゃんとかの世代だと、SNSが当たり前なんじゃ?」
「使えないなら使えないでいいです。死ぬわけじゃないんで」
智子は少し不思議そうにつむぎを見る。
「そういうものなの?」
つむぎはスマホをしまいながら、すぐに市場の方へ顔を向けた。
「そんなことより買い食………。買い物しましょ」
「今、買い食いって言いかけてなかった?」
「気のせいです」
智子はやれやれとため息をつきながら笑った。
つむぎは何事もなかったように市場の方を見る。
美里も苦笑しながらエコバッグを持ち直した。
「さて、まずは野菜からだよ」
智子が言って、野菜を売っていた一角へ移動する。
赤。
緑。
黄色。
色とりどりの野菜が所狭しと並べられている。
形だけなら見覚えのあるものもある。
けれど、名前が同じとは限らない。
味も同じとは限らない。
美里は並べられた野菜を見ながら唸った。
「う~ん……名前だけじゃ同じかどうかわかんないですね」
「見た目だけなら知ってるのと一緒なんだけどね……」
智子も腕を組む。
その隣で、つむぎは迷いなく一つの野菜を指差した。
「おばさ~ん。これくださ~い」
「ほんとこの子は……」
智子が呟く。
つむぎが購入したのはピーマンに似た何かだった。
つやのある緑色。
形も大きさも、知っているピーマンにかなり近い。
智子が諦めつつお金を支払う。
「ピーマンの肉詰めがたべたいです」
「つむぎちゃん。ピーマンと同じとはかぎらないんだよ?」
美里が声をかける。
つむぎは買った野菜を見ながら頷いた。
「はい知ってます」
「なぜ?」
「目の前に食べれるものがあるから。食べないのはもったいない」
つむぎはまっすぐ美里の瞳を見て答えた。
曇りなき眼を向けられ、美里は言葉に詰まる。
つむぎはさらに続けた。
「それに、お二人の料理はおいしいですから。どんな食材でもその魔法の手でおいしくできます」
つむぎのウソなき言葉に、智子と美里は少し照れる。
智子は視線をそらしながら、買った野菜をエコバックへ入れた。
「まあ、料理は得意だから……」
美里も少しだけ照れたように頷く。
「うちは親が居酒屋経営してたし……。その影響で料理は好きだから……」
「だからどんどん買いましょ~」
つむぎはこぶしを突き出し、市場を歩き出す。
その後ろを智子と美里がついていく。
大地はその様子をさらに後ろから見ていた。
「う~ん。すっかりつむぎちゃんのペース。ま、悪いことではないからいいか」
つむぎは気になった食材を見つけるたびに足を止める。
店の人に名前を聞く。
食べ方を聞く。
買える量を聞く。
そして、智子がお金を支払う。
美里はそのたびにつむぎを注意する。
「つむぎちゃん、ちゃんと何に使うか考えてる?」
「考えてます」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんって言ったよね?」
そんなやり取りを繰り返しながら、エコバッグの中にはどんどん食材が増えていった。
肉。
野菜。
見たことのあるものに似た食材。
見たことのない食材。
袋の重みが少しずつ増えていく。
大地は両手にエコバッグを持ち、3人の後ろを歩いていた。
最初は軽かったはずのエコバッグが、いつの間にかずしりと重くなっている。
(でも、そろそろ重くなってきたから買い物やめてほしいなぁ……)
大地はエコバッグを両手に3人を見つめた。
つむぎはまた別の店の前で足を止めている。
智子は財布を出す準備をしていた。
美里はつむぎへ何か言っている。
3人の買い物はまだ終わりそうにない。




