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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第10章『ほほえみデンタル、暮らしと仕事の種まき』

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03.食材探し、初めての市場

智子たちは大きめのエコバッグを手に持ち、市場へと向かっていた。

今日は開業してから初めての休みだった。

開業前は準備に忙しく、ゆっくりとした休みを取ることはできなかった。

口腔ケアを知らない人たちに何をどうしたら伝わるか。

分かりやすくするにはどうしたらよいのか。

そんなことを色々考えていて、ゆっくり休むなんてできなかった。

予約の患者はほぼいない。

それでも、できることを少しずつ着実にすすめていく必要がある。

だが、それはそれ、これはこれである。

腹を満たすものがなければ生きていけない。

空っぽの冷蔵庫を満たすために、市場でいろいろ買い物をする。

異世界に転移して初めての市場。

何があるのかわからない。

それでも、とりあえず似たようなものを見つけて帰るしかなかった。

市場に近づくにつれて、人の声が増えていく。

食材を並べる店。

足を止める人。

店先でやり取りをする声。

知らないものばかりが並んでいるのに、どこか市場らしい空気だけはよく知っているものだった。


「活気があるねぇ……」


智子が周囲を見ながら言う。


「ですね……」


美里も頷いた。

つむぎはすでに周囲の店を見ている。

大地はのんびりと歩きながら、並んでいる食材に視線を向けた。


「同じものがあるとは限らないけど、白米に似た白穀があったくらいだし……。なんかあるでしょ」


「お肉ほしいです」


つむぎが即答する。

智子はつむぎを見る。


「若いねぇ……」


「智子さんもまだ30代……」


美里がそう言いかける。

智子は真剣な顔で美里を見た。


「………あのね、急に来るよ」


「なにが?」


「脂が重くなる日が」


智子の真剣なまなざしに、美里は何も言えなくなる。

市場の音が一瞬遠くなったような気がした。

つむぎはその空気を見て、少しだけ視線を泳がせる。


「あ、魚も好きですよ」


つむぎが空気を読んで話題を無理やり変えた。

大地はその様子を微笑みながら見ている。

智子は小さく息を吐き、市場の先へ視線を向けた。


「さて、まずは何があるかプラプラ見て回るか」


「は~い」


美里が返事をする。

その横で、つむぎはすでに別の店に向かっていた。


「おじさ~ん。このお肉何~?」


「あの子は言ったそばから……」


智子が呟く。

つむぎが声をかけた先には、焼かれた肉の串が並んでいた。

匂いだけなら、かなり食欲をそそる。

店のおじさんは慣れた様子で笑った。


「これはオーク肉の串焼きだよ」


「へぇ……。1本くださ~い」


「つむぎちゃん?」


智子が声をかける。

つむぎは振り返り、何の迷いもなく言った。


「味見です」


智子は呆れながらお金を支払う。

つむぎは串焼きを1本もらって、そのままかぶりついた。

焼きたての肉から湯気が立つ。

つむぎは口の中で肉を噛みしめる。

そして、すぐに頷いた。

美里はその様子を見ながら少し眉を下げる。


「というか、よく食べれるね」


「え?オークっていわゆる豚肉でしょ?」


大地は苦笑する。


「まあ、ゲームとかで言うならそうだけど……」


「おいしいですよ。普通の豚肉。どうです1つ」


つむぎは串を差し出す。

智子、美里、大地はそれぞれ残りの肉をもらう。

智子はひと口食べる。

焼かれた肉の香ばしさ。

脂の感じ。

肉の味。

たしかに、知っている豚肉に近かった。


「うん。普通の豚肉と変わらないね」


「ですね」


美里も頷く。

大地も肉を食べながら、店に並んでいるものを見た。


「この調子なら似た食材も見つかるかもですね」


大地の言葉に智子と美里がうなずく。

白穀が米に似ていたように、オーク肉が豚肉に似ているなら、他にも見つかる可能性はある。

異世界だからといって、すべてがまったく違うわけではない。

似ているものを見つけて、いつもの食事に近づけていく。

そのための市場だった。

智子は串焼きを食べ終え、つむぎの方を見る。


「ま、その前にどんどん前へと突き進む小娘を止めないとね」


「怖いもの知らずというかなんというか……」


美里もつむぎの背中を見る。

つむぎはすでに次の店の前にいた。

並んでいる食材を覗き込み、店の人に声をかけている。

その距離の詰め方に迷いがない。

気になった食材があればすぐに聞く。

試食できるものがあれば、すぐに食べる。

智子たちは少し離れた場所からその様子を見ていた。


「どんどん食べてるね」


智子が呟く。


「あの子朝、おにぎり5個くらい食べてましたよ?」


美里が言う。

大地はのんびりと笑った。


「いやぁ……若い」


つむぎは別の店の試食を口に入れ、満足そうに頷いていた。


「ん~……どれもおいしい」


智子はエコバッグを持ち直す。

美里も隣で頷く。

大地はつむぎの後ろ姿を見ながら、市場の奥へ視線を向けた。

空っぽの冷蔵庫を満たすための買い物。

それは、思っていたよりも賑やかなものになりそうだった。


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