06.感謝の言葉
「……なんかしんみりしちゃいましたね……。えっと、自然なことや物事から感じられる現象、その目に見えないものを『神様』として考えてたから、別に魔法の有無なんて関係ないんだよ」
大地は少し困ったように言う。
直樹も白穀を見ながら口を開いた。
「つまり『感謝を忘れることなかれ』ってことですよ。……ちなみに『ごちそうさま』は多くの生き物の命を、また良い"ごちそう"を食べられたことへの感謝の言葉……ですかね」
「ふ~ん……ただ、なんとなく『いただきます』と『ごちそうさま』って言ってたけど、そう考えると深いですね」
つむぎは箸を持ったまま頷く。
「じゃぁ、ちゃんとした言葉で言わないとですね」
ゆかが少し背筋を伸ばす。
直樹は小さく首を横に振った。
「べつにちゃんとした言葉じゃなくてもいいと思いますよ」
「といいますと?」
「言い方というよりも、その言葉に込められた気持ちの方が大事です」
真人と志帆はうなずきながら聞いている。
食卓の上には白穀と生姜焼き、豆腐の味噌汁、キャベツの千切りが並んでいた。
白穀の湯気がまだ立っている。
大和は茶碗を見ながら、ぽつりと呟いた。
「白穀でこんな話になるとは……」
直樹は箸を手に取った。
「さ、食事の続きを。……うん、本当においしい」
直樹の言葉にみんな箸を進める。
白穀を口に運ぶ。
噛めば噛むほど甘みが出る。
味噌汁を挟む。
生姜焼きと一緒に食べる。
さっきまでしんみりしていた食卓に、また箸の音が戻っていく。
つむぎは白穀を食べながら、ふと直樹を見る。
「直樹さん」
「なんでしょう」
「さっき、88の工程って言ってたけど……なんで88?」
直樹はつむぎの素朴な疑問に目をぱちくりさせる。
そして、優しく微笑むと丁寧に説明する。
「88の由来とされているのは、『米』という字を分解すると「八」「十」「八」の三文字になるからです。……もちろん、その三文字も、お米を作るまでに八十八の手間暇がかかることが語源になっているからです」
「へぇ………何事にも意味があるんですね……」
つむぎは感心したように白穀を見る。
「言葉一つ一つの意味を紐解いていくと面白いことがわかったりしますよ」
直樹はそう言って、また白穀を口に運ぶ。
つむぎは少し考えるように箸を止めた。
「白穀が魔力を帯びているのは、この世界には空気にも水にも土にも魔力があるからなのですかね?」
「その可能性は高いかもしれないですね……。魔法がある世界ならその粒子が自然界に存在していても不思議ではないですから」
つむぎはなるほど~。と頷きながら白穀を頬張る。
噛めば噛むほど甘い。
よく知っている味。
つむぎは食べながら笑顔になる。
直樹もその様子を見て微笑み、白穀を食べる。
白穀を作ってくれた人、それを流通させてくれた人、それを調理してくれた智子さんと美里さん、そして見つけてくれたあすかと大和に感謝を込めて。
「いただきます」
次章
第10章 『ほほえみデンタル、暮らしと仕事の種まき』は、
7月2日 (木)17時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




