01.それぞれの休日
朝から白穀の香りがリビングに漂っていた。
炊き立ての白穀。
わかめの味噌汁。
そして梅、昆布、おかかなど様々な具のおにぎりが食卓に並べられている。
今日は休診日だった。
診療の準備に追われる必要もなく、どこかゆったりとした空気が流れている。
朝からのんびり過ごしている者もいれば、出かける準備を進めている者もいた。
あすかと大和は白穀を追加購入するための準備をしている。
智子、美里、つむぎと大地は市場へ行き食材を買い足す予定だった。
本日の朝ごはんは白穀おにぎり。
昨日までは主食の心配をしていたのが嘘のようだった。
みんなおいしそうにおにぎりを頬張っている。
真人も梅のおにぎりを手に取った。
一口食べる。
白穀の甘みと梅の酸味が口の中へ広がった。
「ほんま、おいしいなぁ」
「やっぱり米はいいねぇ」
志帆も頷く。
真人も笑う。
白穀を見つけてきたあすかと大和も嬉しそうだった。
そんな中、真人と志帆は今後のクリニック運営について話している。
今日は医療ギルドへ行く予定だった。
「今日はサムさんのところに行こうか」
「そうやね」
志帆が頷く。
直樹も同行する予定になっていた。
「僕も同行します」
「おっ、直樹くんも行く?」
「はい」
その話を聞いていた陽菜が手を挙げる。
「わたしも行ってみたいです」
しおりも続いた。
「私も!」
医療ギルドがどういうところなのか気になっていた。
真人は笑う。
「じゃあ一緒に行こうか」
一方で、ゆかとすずはお留守番だった。
忙しくてなかなか手を付けられていなかった細かい掃除をする予定になっている。
朝食を食べながら、みんなで今日の予定を話し合っていた。
「学校があるから、学校で口腔ケアについて教えるとかできたらいいよね」
「いいですね。それ」
ゆかが頷く。
「まぁ、学校検診とまではいかないですけど……入口になってくれればいいですね」
智子も続いた。
「それも兼ねてサムさんに相談しよう思ってな」
志帆が言う。
子どものころから歯を守る大切さを知ってもらう。
そういった活動も必要になるかもしれない。
そんな話をしながら朝食は続いていく。
その時だった。
あすかが美里へ声をかける。
「美里さ~ん。白穀どれくらい買ってくる?」
美里は少し考える。
「う~~~ん……大人がこれだけいるからねぇ……。お店の方に在庫があればいいけど、とりあえず30キロは欲しい」
「大和に持たせるから問題ないわ」
大和はすぐに反応した。
「あすかさんも持ってくださいよ!!」
あすかは笑う。
「10は持つわよ」
「まぁ、それならいいっスけど」
その返事を聞いて。
「いいんだ~……」
「いいんだ~……」
あすかと美里がつぶやく。
「なんスかその反応」
大和は首を傾げるが、二人は笑うだけだった。
その様子を見ながら、ゆかがすずへ声をかける。
「すずちゃん。今日、天気いいからお布団干そうか」
「いいですね!皆さんが出かけたらさっそく干しちゃいましょう」
「いやぁ……人がいないタイミングでいろいろできるっていいね」
「ですね」
すずも頷く。
「ほんまごめんね~……真人さんとわたしの家やのに」
志帆は苦笑した。
「いえいえ……。今はみんなの家ですから」
ゆかは首を横に振る。
その言葉に何人かが頷いた。
「家ごと転移してよかったね~」
真人はおにぎりを食べながら、のんびりとした声で言う。
その言葉に無言になる。
いやあ……よかったと言えばよかったんだけどさ……。
結果ね。結果論としてはいいんだけど。
食卓に静かな空気が流れた。
「………みんなの家ってどうなったんでしょうね……」
あすかがポツリとつぶやく。
転移前の大地震。
あの時のことを忘れた者はいない。
なんで自分たちが。
そんな気持ちもある。
向こうに残っている家族は無事なのだろうか……。
「………母は……どうなったんでしょう…」
直樹が静かに口を開いた。
「そっか直樹君はお母さんの介護のために……」
志帆は直樹を見る。
直樹は親の介護のために家から近いここに事務員として就職した。
「お父さん……お母さん……」
すずも俯く。
「………くそ兄貴の結婚式出たかったな……」
つむぎはおにぎりを食べながら呟いた。
おにぎりを食べながら、みんな少し意気消沈する。
そんな空気を換えるかのように。
突然、大和が叫び声をあげた。
「あ~~~~~~~~!!」
全員が驚いて大和を見る。
「あんた……うるさい」
あすかが呆れたように言う。
大和は本気で頭を抱えていた。
「どうしよう……。いまさら気づいたけど、オレ、マンションの暖房付けっぱなしかも……」
「は?」
あすかが聞き返す。
「うっわ~~~………。電気代とか考えたくない」
大和はさらに頭を抱える。
本気で悩んでいる様子だった。
その姿を見てみんな笑顔になる。
「まぁ………電気代の額にもよりますが、少しくらい出してあげますよ」
直樹が苦笑した。
「まぁ、その前に家賃滞納してるけどね」
大地も続いた。
「それはそう」
しおりが即座に頷く。
食卓に笑いが広がった。
しんみりした空気が少しだけ軽くなる。
大和はまだ頭を抱えたままだった。
「いやほんとに……付けっぱなしだった気がするんスよ……」
「今さらどうしようもないでしょ」
あすかが呆れながら言う。
再び笑いが起きた。
休診日の朝。
それぞれの予定を抱えながら、穏やかな時間が流れていた。




