02.白穀の毒見
智子は白穀の入った袋を持って、自宅へ戻っていた。
診療所の裏にある住居スペース。
キッチンへ入ると、智子はまず手を洗う。
水を止め、タオルで手を拭く。
そして、そのまま白穀の入った袋へ視線を向けた。
「さて……どうしたものか」
袋の中には白い粒が入っている。
見た目だけなら、本当に米だった。
しかし、本当に食べて大丈夫なのかは分からない。
智子は袋を見つめたまま、小さく息を吐く。
その時だった。
「智子さ~ん。晩御飯の準備を手伝いま~す」
後ろから美里の声が聞こえる。
智子が振り返ると、美里がエプロンを付けながらキッチンへ入ってきた。
そのまま冷蔵庫を開け、野菜や肉を取り出していく。
「どうします?今日のおかず」
美里は玉ねぎを持ちながら首を傾げた。
智子は白穀の袋を見る。
「……白穀の味が未知だからねぇ……」
「………豚の生姜焼きにします?少し味付け濃い目にしておいて」
「白穀が濃かったらどうする?」
「それはそう」
2人は同時に腕を組む。
白穀の味が分からない。
だから、おかずの味付けも決めにくかった。
智子は困ったように笑う。
「おいしい料理を大和から頼まれたからねぇ……」
「……あいつ……料理しないくせに」
美里は手に持っている玉ねぎを握りつぶしそうな勢いだった。
智子は思わず笑う。
「まぁまぁ」
「絶対あいつ、自分で作れって言ったらカップ麺しか作れませんよ」
「それは否定できない」
智子は笑いながら美里をなだめる。
そして、白穀の袋を持ち上げた。
「まぁ、とりあえず普通に炊いてみるから、おかずはいつものと同じ感じにしようか」
「は~い」
美里は返事をすると、そのまま慣れた手つきで料理を始める。
キャベツを切る音。
肉を切る音。
キッチンへ包丁の音が響く。
智子も白穀を袋から取り出す。
白い粒。
やはり、どう見ても米だった。
ボウルへ白穀を入れる。
水を流し込む。
すると、水が白く濁った。
智子は小さく目を丸くする。
美里もその様子を見ていた。
「……本当にお米みたいですね」
「ねぇ」
智子は白穀を研いでいく。
水を替える。
また研ぐ。
その感触も、見た目も、知っている米と変わらなかった。
智子は炊飯器へ白穀を入れる。
そして水を入れ、炊飯ボタンを押した。
炊飯器が静かに動き始める。
その間に、2人は晩御飯の準備を進めていった。
フライパンで豚肉を焼く音。
味噌汁の湯気。
キャベツの千切りも皿へ盛り付けられていく。
晩御飯は生姜焼きとみそ汁。
キャベツの千切り。
いつもの晩御飯だった。
そんな中。
ふわりと香りが漂い始める。
智子はぴたりと手を止めた。
「う~ん……。炊いてるときの香りはごはんそのもの」
「確かに」
美里も頷く。
漂ってくる白米独特の香り。
その匂いはよく知った香りだった。
智子と美里は炊飯器を見る。
しばらくすると炊飯器からメロディが鳴る。
白米が炊けた。
智子は炊飯器へ近づく。
そして、そっと蓋を開けた。
湯気が立ち上る。
「………おおおおお!!ごはんだ!」
智子は思わず声を上げる。
美里もすぐ横から覗き込んだ。
白く輝き立っている。
「まごうことなきごはんです」
美里も真顔で頷く。
智子は炊飯器の中を見つめながら、小さく口を開く。
「……ねぇ美里ちゃん」
「はい。智子さん」
「……まぁ、その未知の食べ物ではあるけれど、料理担当者の特権として……味……みんなの安全のために毒見しない?」
「確かに。みんなが安全に食べれるか。安全確認は大事ですよね。料理番として味見……毒見は大事です」
美里は真剣な顔で頷いた。
智子は棚を開ける。
「ここに梅干しがあります」
美里もすぐに取り出す。
「塩と海苔もあります」
2人は白穀を少量手に取り、おにぎりにしていく。
梅干し入り。
塩むすび。
海苔付き。
智子はおにぎりを見つめながら呟く。
「これは毒見」
「そう、これは毒見。味見ではないです」
2人は自分に言い聞かせて白穀おにぎりを食す。




