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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第8章『ほほえみデンタル、主食を探して』

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05.商業ギルド本部

アンナに連れられて、あすかと大和は商業ギルド本部へ踏み入った。

建物の中へ入った瞬間、あすかは思わず周囲を見回す。

広い。

人も多い。

行き交う人々は、冒険者ギルドとはまた違う空気をまとっていた。

荷物を運ぶ者。

帳簿を抱えて歩く者。

商談をしている者。

受付へ向かう者。

建物の中は慌ただしく動いている。


「大和ってば……こんなすごい施設に一回きたことあるのね」


あすかが周囲を見ながら口を開く。


「いやぁ……でも、あんときは医療ギルドに用事があったっスし………。なにより副院長もいたっスからね」


大和も少し落ち着かない様子で周囲を見回していた。

以前ここへ来たときは、志帆も一緒だった。

医療ギルドとの話が中心で、周囲を見る余裕などほとんどなかった。

しかし今日は違う。

自分たちだけで、商業ギルドへ来ている。

なんだか場違いな場所へ来たような気分にもなる。

アンナはそんな2人を気にする様子もなく、慣れた足取りで建物の奥へ進んでいく。


「こっちだよ」


「あ、はい」


「失礼しま~す」


2人は慌てて後を追う。

そのままアンナに連れられるまま、商業ギルド本部の応接室へ案内される。

部屋の中にはテーブルと椅子が置かれていた。

落ち着いた雰囲気の部屋だった。


「んじゃ、ここで待ってな。穀類関係に明るいやつを連れてくるから」


「は~い」


「お願いしま~す」


アンナはそう言うと、一度部屋を出ていく。

扉が閉まり、応接室にはあすかと大和だけが残された。

2人は椅子へ座る。

アンナには事前に米というものを簡単に説明していた。

自分たちの主食で、小さくて、よく噛むと甘くて、白くて。

そんな説明だった。

さらに、パンの原料と同じ穀物で……とも伝えていた。


「あの説明で伝わったんっスかね?」


「どうかしらねぇ……」


あすかはテーブルへ肘をつきながら考える。


「小麦ってこっちの国ではなんて言うのかしらね?」


「さぁ?……案外まんま麦とかだったりして」


「………まぁ、そもそも言葉が通じてる時点でなんかあるのかもね」


あすかは苦笑する。

異世界へ来てから、言葉で困ったことはほとんどなかった。

普通に会話ができる。

文字も読める。

おかしいと言えばおかしい。

大和も椅子へ座りながら頷く。


「お金もそうっスよね。精算機にはこっちの国のお金で入れてるのに……。売上金を抜き取ろうとしたらぜ~~~~んぶ日本円になってるんっスもん」


「あ~……」


あすかは昨日の締め作業を思い出す。

診療後。

精算機の締め作業をしていた。

すると、売上金をどうするのかという話になった。

銀行もない。

どう処理するのか。

みんなで頭を悩ませていた。

その時だった。

突然、受付のモニターが勝手についた。

そして画面には『売上金はこちらへ』と映し出されていた。

最初は誰も動かなかった。

しかし、真人が恐る恐るお金の入った袋をモニターに近づける。

すると、袋の中のお金が吸い込まれていった。


「もはや神の御業」


あすかは遠い目をする。


「ほんとっスよねぇ……」


大和も苦笑する。


「………まあ、もう何も考えないようにしようとはなったけどね」


「それが一番っス」


大和は素直に頷く。

理解しようとしても無理なものはある。

異世界転移そのものが、すでによくわからない。

そこへ診療報酬改定まで飛んできたのだ。

今さら何が起きても驚けない気もしていた。


「あれ?そういえばそのあとっスよね?……診療報酬改定のお知らせが来たのって」


「あ」


あすかが『そういえば』とつぶやく。

たしかにタイミングとしては、そのあとだった。


「もしかして、なにかしらの条件をクリアしたらいろんなことができるようになるんじゃ………」


「まぁ王道テンプレ的な展開を期待するならそうなんじゃない?」


「何っスかね?」


「……デンタルクリニックに何を求めるのかしらね?」


「さぁ?……ただ治療して、メンテしてって……面白味のかけらもないっスけどね」


「た~しかにぃ~」


あすかは笑いながら返す。

異世界で歯科医院。

改めて考えると、かなり地味だった。

剣も魔法もない。

魔王討伐もしない。

毎日、歯を削って、歯石を取って、説明して、メンテして。

それだけだ。


「まぁでも、それが仕事っスからね」


「そうねぇ」


2人が話していると、応接室の扉からノック音がする。


「は~い」


あすかが返事をする。


「連れてきたよ~」


アンナの声が聞こえる。

その声が終わると同時に、扉が開いた。

アンナの横には、眼鏡をかけた白髪の男性が立っていた。

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