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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第8章『ほほえみデンタル、主食を探して』

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01.主食を求めて

白米底つき事件の翌日。

あすかと大和は、主食不在の朝ごはんを食べたあと、冒険者ギルドに向かっていた。

朝ごはんといっても、いつものように白米があるわけではない。

テーブルの上に並んでいたのは、昨日の残りや簡単なおかずだけだった。

智子はいつも通り落ち着いた顔で準備していたが、炊飯器の中に白米はなかった。

あの白米がない。

それだけで、朝はどこか物足りなかった。

あすかと大和は、その現実をしっかり確認してから、冒険者ギルドへ向かうことになった。

智子からは、袋に入った一握りの米を預かっている。

米といっても、この世界でそのまま通じる可能性は高くない。

名前を伝えても、同じものを探してもらえるとは限らない。

だから実物を見せる。

同じものとは言わない。

せめて似たものがないか。

それを確認するための情報収集だった。

そして情報収集の場所として選ばれたのが冒険者ギルドだった。

冒険者ギルドなら、街の外の情報も集まりやすい。

食材に詳しい者や、各地の植物に詳しい者がいる可能性もある。

ついでに小遣いも稼がせてもらう。

なんせ昨晩、院長先生から直々に『休んで冒険者ギルドで情報収集』という診療よりも大事な厳命を承ったからだ。

大和は歩きながら、頭の後ろで手を組んだ。


「……でも、米に似たようなものってあるんっスかね?」


あすかは腕を組みながら歩いていた。

智子から預かった袋は、あすかがしっかり持っている。

中に入っているのは一握りの米。

ほほえみデンタルに残された、白米の手がかりだった。


「さぁ?……でも、テンプレの異世界物と同じと考えるなら……ないと思うけどね……」


「そうっスよね~」


大和は頭の後ろで手を組み返事をする。

あすかも腕を組みながら歩いている。

仕事を休むことに後ろめたい気持ちも多少ある。

今日はギルさんが来る。

診療所に残っている衛生士は大ベテランの智子さんがいる。

中堅のあすか、お調子者の大和が抜けたとしても問題ない。

残ったスタッフも優秀で何より信頼できる仲間だ。

それでも、診療日であることに変わりはない。

チェアが動き、受付が動き、患者が来る。

そこにいないというだけで、妙な落ち着かなさがあった。

大和はそんな空気を振り払うように、少し明るい声を出す。


「そういえば、ドワーフとかってものづくりの達人じゃないっスか。ドワーフに技工物を頼むってのは……」


あすかの足が少しだけ止まる。

そのまま大和を見る。


「……武器を作るメインの人に、人体の口の中に入れる物を作れと?」


「………何でもないっス」


大和はすぐに視線をそらした。

あすかはそのまま腕を組み直す。


「仮にできたとしても材料は?パラ?銀合金?コバルト?……いやまぁ、日本の保険ルールで可能なものがあるか不明だけど……。自費の技工物だとしてもその材料は何ですか?ってなるじゃない」


大和は口を少し尖らせる。


『名案だと思ったんだけどな~』


あすかはため息をついて笑う。

技工物問題は、簡単にどうにかなるものではない。

この世界に歯科技工所はない。

材料も不明。

保険ルールで扱える材料なのか、自費として扱うのか。

そもそも口の中に入れて安全なのか。

どれも、思いつきで進めていい話ではなかった。

大和もそれ以上は食い下がらない。

勢いで口にしただけで、本気で任せられると思っていたわけではなかった。

あすかは前を向く。


「ま、なんにせよ技工物問題は院長と副院長にお任せよ!わたしたちは現状、できることだけに集中するのよ」


「は~い」


大和は素直に返事をする。

今できること。

それは米に似たものを探すことだった。

袋に入った一握りの米。

それを手がかりにして、冒険者ギルドで情報を集める。

この世界に米があるのか。

米に似た穀物があるのか。

主食になりそうなものがあるのか。

わからないことばかりだった。

けれど、何もしなければ白米は戻ってこない。

ほほえみデンタルの食卓から、白米が消えたままになる。

あすかは袋を握り直す。

大和も少しだけ背筋を伸ばした。

道の先に、冒険者ギルドの建物が見えてくる。

人の出入りは朝から多い。

武器を持った者。

荷物を背負った者。

依頼書らしき紙を手にしている者。

受付へ向かう者。

外へ出ていく者。

その中に、あすかと大和は歯科衛生士としてではなく、主食を探すための情報収集役として向かっていた。

大和はギルドの扉を見上げる。


「なんか、こういうの冒険者っぽいっスね」


あすかは横目で見る。


「目的は米探しだけどね」


「それはそれで大冒険っスよ」


大和は軽く笑う。

あすかも小さく息を吐く。

冒険者ギルドの扉の前に、2人は立つ。

診療室ではなく、ギルド。

スケーラーでもミラーでもなく、袋に入った米。

今日の仕事は、歯石除去ではない。

白米に代わる主食を探すための情報収集だった。

あすかは扉に手をかける。

大和も隣に立つ。

2人は冒険者ギルドの扉をあけた。

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