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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第6章『ほほえみデンタル、日常と非日常』

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09.穏やかさのその先

クレイがひとしきりロックの首元や背中を撫で回し、その手を止めたところで、ようやくその場の空気が少し落ち着く。


マリアがふと思い出したように口を開く。


「……あ、お会計……」


その言葉を聞いた大地も、同じように動きを止めてから思い出したように口を開く。


「あ、カルテ入力しないと……」


そのまま大地は踵を返し、慌てた足取りで院内へ戻っていく。

それを追うように、すずも受付の方へ戻っていく。

すぐに対応できるよう、手元の準備を整えに入る。


外にはつむぎとゆかが残り、目の前にいるアースドラゴンを見上げる。


つむぎがぽつりと呟く。


「………ドラゴン……」


その視線はロックの体の起伏をなぞるように動いている。


ゆかも同じようにロックを見ながら言う。


「………なんか、本当に異世界って感じ」


つむぎは視線を少しだけ下げ、背中の凹凸を見ている。


「背中……結構出っ張りあるんだ」


その言葉にクレイがすぐに反応する。


「うん。でっぱりを使って上るんだ」


ゆかが小さく呟く。


「ロッククライミング……」


つむぎも短く返す。


「………たしかに」


マリアがそのやり取りを見ながら、穏やかな笑みを浮かべる。


「うふふふ……ロックは学園のアイドルなんですよ~。ドラゴンなのにとても穏やかで……」


その表情のまま、クレイへと視線を移す。


「………クレイ~……」


呼ばれたクレイが振り返る。


「何お母さん」


マリアはそのまま歩み寄り、クレイの頭に手を置く。

何度も優しく撫でる。


「本当に心配したんですからね?」


ゆかがその様子を見て小さく言う。


「どの世界でもわが子を心配する親っていいね」


つむぎも視線を外さずに答える。


「………そうですね」


二人はそのまま、目の前の光景を見ている。

ロックの横で撫でられているクレイと、それを見守るマリア。


穏やかな空気がその場に流れる。


そのままの流れで、マリアがもう一度口を開く。


「………本当に……何度も何度も何度もやめなさいって……お母さん言ったわよね?」


ゆかとつむぎが同時に反応する。


「ん?」


クレイの体がわずかに強張る。


「ご、ごめんなさい!!」


その声を聞いた瞬間、空気が変わる。


マリアの手はそのままクレイの頭に置かれたまま、声だけがはっきりと変わる。


「なんであなたは無茶ばっかりするの!!」


先ほどまでの穏やかさはそのまま消え、言葉の勢いだけがその場に広がる。


ロックはその様子を見て、体を揺らすように後退る。

次の瞬間、翼を広げてそのまま空へと逃げていく。


つむぎがその動きを目で追う。


「あ、逃げた」


ゆかがぽつりと返す。


「………怒れる母は強し……」


その場には、マリアに叱られながら声を上げるクレイの姿だけが残る。

クリニックの前に、その声が響いていた。

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