10.診療の終わりに
受付の前で立ち止まったマリアに向かって、すずが手元の動きを止めることなく声をかける。
「お会計はあちらの精算機でお願いします」
視線を向けられた先にある機械を見て、マリアは小さく目を細める。
「あら、あの魔道具にお金を入れるのね」
そのまま微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと精算機の方へ足を運ぶ。
その隣には、目を真っ赤に泣きはらしたクレイの姿がある。
涙の跡が残ったまま、少し俯き加減でついていく。
その様子を見ながら、大地はゆかの横へ少しだけ寄る。
周囲に聞こえないように声を落とす。
「……ゆかさん。なにがあったの?」
ゆかは視線を外さないまま、短く答える。
「母は強しでも母は怖し」
その一言で大地は小さく頷く。
「あ……察し」
そのままクレイの方へ視線を向け、少しだけ声の調子を柔らかくする。
「えっと、クレイ君。完全に落ち着いたわけじゃないからまた来てね」
クレイは顔を上げずに小さく返す。
「……うん」
そのやり取りの横で、マリアは精算機の前に立ち、手元に渡された紙を見比べている。
一枚ずつ順に目を通し、ふと顔を上げる。
「ところで……この2枚の紙ですが……何がどう違うのですか?」
声をかけられた大地は、そのまま近づいて説明を始める。
「こっちは今日の診療の金額が書かれているもので、こっちは今日の行った処置の明細になります。まぁ専門用語で書かれているのでわからないかもですが……」
マリアは紙を見たまま、指で数字をなぞる。
「ここに書かれている数字を足してもこの金額にならないみたいですが……」
大地は一瞬だけ言葉を詰まらせる。
紙を覗き込みながら、説明を探すように口を開く。
「えっと……この数字は金額じゃなくて、う~ん……今日の診療の内容が………技術点です」
言葉を途中で切るようにして、そのまま説明をまとめる。
それ以上細かく説明することはせず、軽く笑ってごまかす。
その様子を見ていたゆか、つむぎ、すずはそれぞれ顔を見合わせる。
言葉には出さないまま、同じタイミングで心の中で突っ込む。
(説明をあきらめたな。でも、ある意味では技術点か……)
マリアは紙から顔を上げる。
「技術点……お医者様の技術に点数がつくんですか……」
大地は苦笑いを浮かべる。
「ははは……。その点数を足して、さらに患者さんが負担する割合を掛け算したものがその日のお会計金額になります」
マリアは目をぱちぱちとさせながら、その説明を受け止める。
ゆかが横から補足する。
「まぁ、端数は四捨五入しますけどね」
マリアはゆっくりと頷く。
「面白い仕組みなのですのね……。ふふ……あの人が面白がっていたわけだわ」
そのまま少しだけ視線を遠くに向ける。
サムの姿を思い浮かべているように、口元が緩む。
大地がその様子を見ながら言う。
「まぁ、サムさんにはいろいろお世話になってますし、これからもお世話になります」
マリアはその言葉に軽く頷く。
「あの人が迷惑を掛けたらいつでもわたくしにおっしゃってくださいね」
その言葉に、周囲から小さく笑いが漏れる。
「ははは……」
一通りのやり取りを終えると、マリアは小さくお辞儀をする。
そのままクレイの肩に手を添え、ゆっくりとクリニックを後にする。
クレイはその横に寄り添うように歩きながら、何度か後ろを振り返る。
扉が閉まり、外の音が少しだけ遠くなる。
その場に残った大地は、軽く息を吐く。
「いやぁ………。いろいろびっくりしたけど……」
ゆかが肩の力を抜く。
「無事終わってよかったですね」
つむぎはまだ外の方へ視線を向けたまま呟く。
「ドラゴン……を飼育」
すずがそれに続く。
「日本でいうとニワトリとかを飼育すると同じ感覚なんでしょうか?」
ゆかが少し考えるように言う。
「まぁ、色々できることが増えてきたら学校検診なんていいかもですね」
その言葉を受けて、大地は小さく頷く。
「そうだね~……。いろいろと課題は山積みだけど、一つずつ解決していかないとね」
つむぎがぽつりと呟く。
「……なんでうちだったんでしょうね?」
大地は少しだけ間を置く。
「………さぁ?」
次章
第7章 『ほほえみデンタル、改定のお知らせ』は、
5月12日 (火)17時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




