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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第6章『ほほえみデンタル、日常と非日常』

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07.僕のヒーロー

チェアの上で口を開けていたクレイの口元から器具が離れると、大地はそのままライトの角度をわずかに上げ、歯の状態をもう一度だけ確かめたまま手元の動きを止める。


「………はい。これで処置はおわったよ」


落ち着いた声がかけられると同時に、クレイはゆっくりと体を起こしかけるが、口元に触れようとした手を途中で止め、そのまま少し戸惑ったように視線を上げる。


「すごい……魔法みたいだ」


その言葉を受けても大地は特に動じることなく、わずかに口元を緩めたまま視線を合わせて応じる。


「はは……そうかな?」


クレイはそのまま視線を逸らさずに大地を見上げ続けると、思いついたように言葉を続ける。


「おじさんは僕のヒーローだ!」


その一言で大地の手が止まり、器具を戻そうとしていた動きがわずかに遅れる。

そのまま顔だけを上げ、言葉を繰り返す。


「……え?……おじさん……」


横で一連のやり取りを見ていた智子は、口元を押さえたまま視線を外し、声を出さないまま肩だけを小さく揺らしている。


マリアがクレイへ視線を向ける。


「クレイ?失礼よ」


その声にクレイは姿勢を正し、慌てて言い直すように言葉を繋ぐ。


「あ、ごめんなさい。お兄さん……」


言い直された言葉を受けて、大地は一度だけ視線を外してから戻し、短く返す。


「あ……うん……。大丈夫だよ」


その流れをそのまま拾うように、智子が横から口を挟む。


「まあ、30なんておじさんおばさんですよ」


間を置かずに大地が言葉を返す。


「慰めになっていないですよ」


智子は表情を変えないまま、さらに続ける。


「うん。慰めてはいないからね」


そのやり取りのあと、クレイは再び大地の方へ視線を戻し、少しだけ間を置いてから口を開く。


「僕……僕もハイシャさんになれますか?」


問いかけられた大地は、すぐには答えず一度だけ視線を動かして言葉を探し、そのまま少し考えてから口を開く。


「……えっと……そう……だねぇ……」


言葉が曖昧なまま止まりかけたところで、智子が横から補うように続ける。


「歯医者さんになるためのお勉強とかしないと」


その言葉にマリアが静かに重ねる。


「そういう知識はこの国にはないですからねぇ……」


クレイは迷う様子もなくそのまま言葉を返す。


「じゃぁ、作ってよ」


その無邪気な言葉に、マリアは小さく息を漏らしながら口元だけで苦笑する。


一瞬の間のあと、大地が視線を少し外したまま話題を変えるように口を開く。


「……そういえばこの国にお医者さんはいるんですよね?」


マリアはすぐに頷く。


「はい」


そのまま大地が続ける。


「どのような手順でなるんですか?」


マリアは間を置かずに説明を始める。


「学校で基本的な知識を勉強していただきます。そのあとは現場で実習して試験を受けて合格したら医者になれます」


その説明を聞きながら、智子が小さく呟く。


(そこらへんは日本と同じかしら?)


大地はそのまま言葉を繋げる。


「………でも、医者になっても基本的に開業医には……」


マリアがその言葉を引き取る。


「教会で医療技術が没収されていますから……」


その会話の流れの中で、クレイがぽつりと口を開く。


「なんであいつらとっていくんだろうね。お母さん」


マリアは一度だけ視線を落とし、そのまま静かに答える。


「……新しい技術が出るたびに神の意志に背くと言って……」


智子が短く返す。


「神の意志ねぇ……」


マリアはそのまま言葉を続ける。


「教会には教会の矜持があるんでしょうけど……我々医療ギルドだって………」


その途中を大地が繋ぐ。


「患者さんの健康のために……」


その言葉を受けて、マリアは軽く首を振りながら表情を戻す。


「あ……ごめんなさいね。こんな暗い話……」


大地は短く否定する。


「いえ……あ、今から計算するので受付で待っていてください」


マリアは頷き、クレイの肩に手を添えて診療室を出ていく。

扉が閉まる音とともに、二人の足音が受付の方へと移っていく。


その少し前から、受付ではつむぎが外の様子を気にしていた。

手を止めたまま入口の方へ顔を向ける。


「ねぇ、なんか外さわがしくない?」


その声にすずも動きを止め、耳を澄ませるようにして同じ方向を見る。


「そういえば………あと、なんか暗いような…?」


つむぎはそのまま入口の方へ視線を向ける。


「雨でも降るのかな?」


ゆかが横に並び、外を覗くようにして言う。


「というか、風強くない?」


三人は顔を見合わせると、そのまま入口へ向かって足を進め、外の様子を確かめようとする。

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