05.無茶な遊びの代償
診療室のチェアに横になった子どもの様子を見ながら、大地が一度だけ周囲を見回す。
視線を戻し、口を開く。
「えっと……いろいろ聞きたいことがあるけれど、とりあえず」
大地は咳ばらいをしてマリアに向き合う。
「レントゲンを撮らないと根っこのところはわからないですが……。なぜ歯をぶつけたんですか?」
マリアは息を整えながら話し始める。
学校のドラゴンスライダーで遊んでいたら、着地に失敗して顔面をぶつけた。
そのまま泣き出して、口元を押さえたまま戻ってきたのだという。
大地が言葉を返す。
「ドラゴンスライダー?」
智子が少し首を傾げる。
「滑り台かなんかでしょうか?」
大地が曖昧に頷く。
「まぁ、たしか日本にもあったような………?」
マリアが補足する。
「立ったまま滑りかっこよく滑り落りるというのが流行っているらしく……」
ゆかが小さく声を出す。
「男の子って感じ」
大地が軽く笑う。
「危険な遊び大好きですからねぇ。わかりますよ。僕も小学生のころ木に登って飛び降りるって遊びしてましたから」
智子がすぐに返す。
「なぜ?」
大地は肩をすくめる。
「度胸試しみたいなものですよ。誰が一番高いところから飛び降りて着地できるかって」
ゆかが声を上げる。
「あぶない!!」
大地はそのまま続ける。
「蛇捕まえて振り回してたりとか……」
智子が名前を呼ぶ。
「大地先生?」
マリアが小さく息を吐く。
「本当に無茶ばっかりして……」
大地は軽く笑ってから、視線を子どもへ戻す。
「ははは……。とりあえず、レントゲン撮りにいきますね。僕、お写真撮りに行くよ」
子どもは小さく頷き、大地の後ろへ回る。
そのままついていくように歩き出す。
診療室の奥へ向かう足音が離れていく。
その間に、受付では別の動きが始まる。
ゆかが思い出したように声を出す。
「あ、慌てて中に入ったからカルテ作ってない。お子さんのカルテを作るので、すみませんがこちらの問診票と、保険カードをお願いしてもいいですか?」
マリアが頷く。
「あ、はい」
マリアは受付へ移動し、カードを取り出して機械へ通す。
カードが読み取られ、画面が切り替わる。
つむぎが画面を確認する。
「えっと………クレイくん……10歳……」
マリアが軽く頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしますね」
すずが画面を見たまま口を開く。
「いえ……サムさんほどでは………あ」
言葉が途中で止まる。
マリアの視線がゆっくりと向く。
「…………あらぁ……今朝うちの旦那が診察に来ていたようなんですが……何か問題でも?」
すずが視線を泳がせる。
「あ、いえ……えっと……その…」
マリアはそのまま笑みを崩さずに言う。
「大丈夫ですよ。少々きつくお灸を据えておくだけですから」
つむぎが横から口を挟む。
「初めての機械に大興奮してなかなか診察が進まなかったんです」
短く、事実だけが伝えられる。
マリアはゆっくりと頷く。
「あらあらあら……。これはあとで家庭裁判でもしないといけないですね」
その言葉と同時に、背後の空気が一瞬だけ重くなる。
視線の先にあるものは変わらないが、圧だけが残る。
すずが小さく笑う。
「あはは………」
その頃の医療ギルドでは。
サムが書類を手に叫び後を挙げていた。
「あかん!!なんかすごくピンチな気がする!!」
「はいはい。さっさと書類にハンコを押してください」




