02.説明のかたち
レントゲン室の前で真人が振り返る。
後ろにいる美里へ声をかける。
「美里さん大丈夫?緊張しない?」
美里は立ち位置を整えたまま返す。
「平気です」
真人は短く頷く。
「そっか」
美里は少しだけ視線を外してから言う。
「顔を映すなら化粧直ししたいですけど……」
直樹が機材の位置を確認しながら口を開く。
「セッティングからやるので映しますよ?」
美里はすぐに返す。
「化粧直してくるから待っててください」
真人は手を軽く上げる。
「わかったよ~」
美里はその場から離れていく。
機械の音もなく、室内は静かなまま保たれている。
直樹はパノラマの位置を確認し、モニターの向きを変える。
真人はその様子を横から見ている。
数分後、美里が戻ってくる。
真人がその姿を見て口にする。
「さすが……」
美里は表情を崩さずに言う。
「これでいいです」
真人と直樹は顔を見合わせて笑う。
短く息を抜くような笑いだった。
真人が言葉を続ける。
「ま、化粧は女性の戦闘装備ってことで」
直樹も続ける。
「写り映えはよくしたいですからね」
美里は頷く。
「そういうこと」
レントゲン室の中では機材の準備が進んでいく。
パノラマの位置を確認し、モニターの映りを調整し、撮影の流れを一つずつ揃えていく。
その頃、待合では話し合いが続いていた。
カウンターの前にスタッフが集まり、視線が紙や壁の空いたスペースへ向く。
志帆が口を開く。
「歯周検査とスケーリング……SRPはどうする?」
あすかは腕を組みながら答える。
「必要な人はいそうですけど………でも、動画は難しいですよね」
しおりが少し手を挙げるようにして言う。
「イラストでもよければ……」
志帆が顔を上げる。
「え?描けるの?!」
しおりは軽く頷く。
「イラストレーターで働いてたので……」
あすかが横で声を出す。
「へぇ……そうなんだ」
しおりは少しだけ口元を緩める。
「売れない……が頭につきますけどね」
しおりは自嘲気味に笑って答える。
そこへ大地が声を出す。
「CRは必要じゃないですか?」
志帆がすぐに返す。
「そ、そうだね!あれは技工ないからね!」
智子が続ける。
「口腔機能低下症はどうですか?」
大和が思い出すように言う。
「あ~……舌圧検査来ましたしね」
あすかも重ねる。
「口腔機能発達不全も必要ですよね!」
大地が少し間を置いて言う。
「そこは治療の説明っていうよりは……」
志帆が言葉を繋ぐ。
「どういった症状で、どういうことをするかの説明やね」
智子とあすかが同時に言う。
「う~ん……動画を流すほどじゃないですね……」
しおりが視線を壁へ向ける。
「待合室の院内掲示にします?」
大和が手を上げる。
「あ、どうせなら日替わり治療説明ボード作りません?」
あすかが聞き返す。
「日替わり?」
大和が説明する。
「動画は技術的なものを中心にして、院内掲示のここのスペース余ってるから、口の病気はどういうものがあるか紹介するんっスよ」
智子が頷く。
「いいね。それ」
志帆が少し考えてから言う。
「でも、日替わりはきつくないか?」
大和はすぐに返す。
「日替わりは例えっスよ。週でも、月替わりでもいいと思うっスよ」
しおりが続ける。
「それなら、今月は歯周病月間にします?」
志帆が短く頷く。
「……そうしようか」
しおりが言葉を重ねる。
「歯科用語の解説はお願いしますね」
智子が返す。
「任せなさい」
方向が固まり、会話の流れが一度落ち着く。
その中で、つむぎがぽつりと呟く。
「あ、今日、音楽かけるの忘れてた」
智子がすぐに返す。
「……そこは重要じゃないね」
つむぎは少しだけ姿勢を正す。
「午後はちゃんとかけますね」
志帆が軽く返す。
「うん。任せたよ」
つむぎが笑って言う。
「つむぎセレクトをお楽しみに」
志帆が短く返す。
「うん。好きにして」




