01.疲労と段取り
アンナとサムの診察が終わり、受付にスタッフが集まっていた。
それぞれが立ったまま、あるいはカウンターに手をつきながら、その場で動かない。
診療室の音が落ち着いたあとに残るのは、機械音ではなく人の息だった。
真人が額に手を当てるようにして口を開く。
「この後来るのって……?」
つむぎは画面を確認してから答える。
「えっと……今日はギルさんとマイクさんです」
すずも続けて口を開く。
「明日は朝一番にジョージさんが来ます」
志帆はカウンターの横に寄りかかりながら、視線を落としたまま言う。
「おかしい……たった2人しか診ていないのにこんなに疲れるなんて……」
大地は少しだけ笑いながら言葉を返す。
「まぁ……何も知らない人たちに一から説明しての診療ですからね~」
その言葉のあと、誰も続けなかった。
代わりに、空気が抜けるように、全員が深く息を吐く。
声にはならないが、同じタイミングで同じ動きが揃う。
大和がその空気を崩すように声を出す。
「午後からは俺も頑張るっスよ~」
美里が横で腕を組み直しながら言う。
「わたしも腕を振るってないからね~」
智子とあすかは同時に短く返す。
「午後は任せた」
大和と美里もすぐに返す。
「任された!」
しおりが受付側へ顔を向ける。
「つむぎちゃんとすずちゃんはどうする?午後も受付する?」
つむぎは少しだけ考える間を置く。
「う~ん……いや、午後も受付します」
すずも迷わず続ける。
「はい。私も受付します」
ゆかが軽く手を叩く。
「オッケ~。じゃぁ二人は明日がアシスタントね」
つむぎが即座に返す。
「ラジャ!」
すずも頷く。
「はい」
直樹が一歩前へ出る。
「院長。パノラマの動画を撮影したいのですが……」
真人が顔を上げる。
「あ、そうだそうだ。誰か~モデルして」
つむぎが首を傾げる。
「モデル?」
真人は手振りを交えて言葉を足す。
「いや、パノラマの機械がグルグル回るでしょ?興奮しちゃって」
つむぎが短く返す。
「あ~ね……」
真人が言葉を止める。
「あ~……ね?」
ゆかが横から補足する。
「若者言葉で、あ~なるほどね。って意味ですよ」
真人は少しだけ間を置く。
「へぇ……。あ、……で、直樹君が動画をとってあそこのモニターに流してくれるから……それで誰かお願いできないかな?」
その場に沈黙が落ちる。
誰もすぐには動かない。
視線だけが隣へ流れ、また戻る。
お互いに顔を見合わせて、誰が行くのかを探るような空気が広がる。
美里が一歩前に出る。
「仕方がないなぁ……。僭越ながら私が……」
大和が横で呟く。
「美里さんかぁ……」
美里の視線が向く。
「ああん?!文句あるの!!」
大和はすぐに背筋を伸ばす。
「ないです!!」
真人が頷く。
「じゃぁお願いしようかな」
真人、美里、直樹はそのままレントゲン室の方へ向かう。
足音が離れていき、扉の向こうへ消える。
残ったスタッフはその後ろ姿を見送る。
誰も言葉を出さず、視線だけがその動きを追っていた。
智子が小さく声を落とす。
「………きっとパノラマだけじゃないですよね」
大地が同じ方向を見たまま返す。
「……歯周検査とかう蝕処置とか上げたらキリがないですよね~」
志帆が腕を組み直す。
「まぁ、それはおいおい追加していけばええねん」
陽菜がカウンターの中から顔を出す。
「……今のうちにピックアップしておきます?」
あすかが頷く。
「そうだね」
志帆がその場をまとめるように言う。
「今できそうなことを中心に考えようか」




