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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第5章『ほほえみデンタル、落ち着かない初日』

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07.削る人、耐える人

「アンナさん……見えますか?この白い塊」


智子は小さな鏡をアンナの口元へ向ける。

ライトが歯の表面を照らし、白く固まった部分がはっきりと浮かび上がる。

アンナは目を細め、鏡越しに自分の歯をのぞき込む。


「あぁ……なんかあるね」


「これが歯石っていうものです。今日は、ここの歯からここの歯までついている歯石を取ります。で、終わったらお家でもできる歯磨き方法について説明しますね」


智子は指で範囲を示しながら、どこからどこまで処置するのかを区切っていく。

一気に全部ではなく、今日はここまで、という線を引く。


「はいよ」


「しみるようでしたら手を挙げてくださいね~」


「わかったよ」


智子は器具を持ち替え、アンナの口元へ近づく。


「しおりちゃん、水の吸い取りたのんだよ」


「は~い」


器具の先が歯の表面へ触れる。

細かい振動と音が重なり、歯石の縁をなぞるように動いていく。

アンナは指示通り口を開けたまま、鏡を胸の上で持ち続ける。

水が流れ、しおりが吸い取る。

削る音と吸引の音が一定のリズムで続く。

智子は位置を少しずつずらしながら、白い塊を削っていく。

アンナは手を挙げずに耐えている。

ライトの光が歯の表面を照らし、削れた部分がわずかに変わる。


同じ診療室の別のチェアでは、あすかがカメラを手にしている。


「さ、サムさん。お口の中の写真とりますから、じっとしていてください」


「わかった……」


口腔内写真の撮影は、パノラマの時と違い、すんなりいく。

カメラの位置を合わせても、サムは体を動かさない。

レントゲン室でのやり取りが、今も残っている。


「ちょっとうがいしてください。お口の状態しらべますね」


「わかった」


「ゆかちゃん記録よろしく」


「は~い」


ゆかは記録用紙を手元に引き寄せ、ペンを構える。

あすかはライトを当て、視野を確保する。


「サムさん……動かないでくださいね」


「……はい」


あすかはサムの口腔内診査を始める。

歯の表面、歯と歯の間、歯ぐきの縁。

順に確認し、必要なところで視線を止める。

ゆかは言われた箇所を記録していく。


(……パノラマで困らせすぎたか……ことあるたびに動くなって言われる……)


サムは目だけを動かし、口はそのまま保つ。

先ほどのレントゲン室でのやり取りが頭をよぎる。

「今日の診察なし」という言葉が、まだ残っている。


あすかは別のことを考えながら、視線を動かす。


(………まぁあたりまえだけど、補綴物はないよねぇ……。虫歯か欠損か……あとは歯周病……)


器具を持ち替え、歯の状態を確認する。

補綴物がない分、見るべき箇所は単純だが、汚れや欠損の有無を逃さないように目を配る。

サムは動かない。

さっきまでの落ち着かなさが、今は止まっている。


ゆかは記録を続けながら、別のことが頭をよぎる。


(う~ん……今日って確かこの後も医療ギルドの人が何人か来るんだよね……。え、無理じゃない?)


診療室の中では、削る音と記録の音が同時に響いている。

アンナの歯石は少しずつ削られ、サムの口の中は順に確認される。

削る人と、耐える人。

測る人と、動かないようにする人。

それぞれの手と口が、同じ空間で別の動きを続けている。

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