04.最新技術は安全第一
受付では、問診票を書き終えたサムが立ったまま周囲を見回している。
椅子に腰を落ち着ける様子はなく、呼ばれる前から足先がわずかに動いている。
カウンターの奥でゆかが順番を確認し、診療室側へ視線を向ける。
準備の合図が戻ってきたところで、ゆかが声をかける。
「サムさ~ん。3番チェアに案内しますね~」
「お、いよいよか!」
サムは待合を一歩で横切る勢いで前へ出る。
ゆかはその動きに合わせて進路を示しながら、横目で受付の中へ声を投げる。
「あ、直樹さん院長先生が呼んでいました」
「……?はい」
直樹は掲示物の説明を終えた位置から振り返り、診療室側へ向かう。
受付の空気はそのまま、診療と準備の動きへ分かれていく。
診療室の奥、レントゲン室の前で真人が足を止めている。
直樹が近づくと、真人は短く声を落とす。
「院長……どうしいました」
「……直樹君もしできるならでいいんだけど……。パノラマ撮影に関する内容を動画にとって、受付のテレビに流すことって可能かな?」
直樹は一瞬だけ間を置く。
視線がレントゲン室の扉へ向き、それから真人へ戻る。
「…………可能ですけど……急ぎですか?」
「できるんだ……。あ、いや急ぎじゃないよ。実はさっきアンナさんのパノラマ撮影に時間がかかってね……」
「……と、いうのは?」
真人はレントゲン室の方へ視線を送りながら言葉を足す。
「何回も動いてしまって……」
直樹は状況を理解したように小さく頷く。
「あぁ………そうですね。………わかりました。歯周検査とかスケーリングとかはどうしますか?」
真人は首を振る。
「う~ん……それ言い出したらあれもこれもってなっちゃうでしょ?とりあえず今はパノラマだけでいいよ」
「わかりました……構成を考えてから撮影開始します」
「ありがとう。パノラマ機械動かすときは僕とか志帆さんとか大地先生に声かけてね」
「はい」
二人がレントゲン室の前でやり取りをしている中、足音が近づいてくる。
サムが大地に連れられてやってくる。
「はい、サムさ~ん。パノラマ撮るからこの部屋に入って~」
「お~~~いよいよか!」
サムはウキウキしながら中に入っていく。
レントゲン室の中で機械を見上げ、あちこちへ視線を動かす。
あすかが防護エプロンを手に取り、サムの前に立つ。
「はい、この……防護エプロン付けますね~」
サムは受け取った重みを確かめるように肩へかける。
「……防護……重いな………これは?」
あすかはエプロンの位置を整えながら言葉を選ぶ。
「…………えっと……安全のためにつけてもらうものです」
サムは機械とエプロンを交互に見る。
「パノラマの機械は危険なのか?」
大地は機械の位置を確認しながら答える。
「危険ではないですけど、念には念のためです」
サムは少し首を傾げる。
「つけておかないと呪われるとか?」
大地はわずかな間を置く。
「……………うん。そういうかんじです」
ああすかは大地の横顔を見る。
(あ、これは考えるのをやめた顔だ)
サムは納得したようにエプロンを握り直す。
「最新の技術は魔道具の安全も考慮しているのか」
「はい」
レントゲン室の入口付近で様子を見ていた直樹は、機械とサムのやり取りを目にする。
(これは……そうとうわかりやすい動画にしなければ……)
室内ではパノラマの準備が進み、受付のテレビにはまだ何も映っていない。
最新技術を扱うための段取りは、説明と動きの両方を必要としていた。
開業初日の流れは、安全第一の手順を重ねながら続いていく。




