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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第5章『ほほえみデンタル、落ち着かない初日』

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03.落ち着けない人たち

直樹に色々案内されているサムは、貼り出された紙の一枚一枚へ視線を移していた。

説明の言葉に合わせて頷きながらも、待合に腰を落ち着ける気配はない。

壁際へ寄ったり、少し戻ったりして、どこかそわそわしたまま立っている。

受付の中では、つむぎがその様子を見ながら、声をかけるタイミングを待っていた。

直樹の説明がひと段落ついたところで、つむぎが一歩だけ前へ出る。


「サムさ~ん。志帆先生が時間早いけど診れるって」


「マジか!?」


サムの声が跳ねて、待合の空気が一瞬だけ明るくなる。

すずはその反応を見て、苦笑いしながら問診票を差し出す。


「これをまずは書いてください。それからですよ」


つむぎがすぐに言葉を重ねる。


「カードリーダーはもう通したしね」


すずは問診票を指で軽く叩くようにして、視線をサムへ戻す。


「サムさん面白がって3回も通すから困ったけど……」


サムは肩をすくめるように笑う。


「いやぁ……すまんすまん。面白くってつい」


直樹の声が間に入る。

丁寧ではあるが、線が引かれるような言い方だった。


「おもちゃじゃないので……今後はやめてくださいね?」


サムはさっきまでの勢いを少しだけ引っ込める。


「すまん……」


直樹は表情を変えずに言葉を続ける。


「………とりあえず、この後来るギルドの人に報告しておきますね?」


サムの反応は早かった。

両手が空中で止まったように固まる。


「それは困る!!副ギルドマスターに怒られる!!」


受付の中で、すずとつむぎは視線だけを動かして、同じところで止まる。


(怒られるんだ………)


直樹は一拍置いてから、譲歩するように口を開いた。


「………まあ、今回は初犯ってことで許しますが、次は報告しますからね?」


サムは唸るように息を吐いて、問診票を受け取る手を動かす。


「ぬぅ………わかった」


ペン先が紙へ落ちる。

待合に立ったまま、書き始める。

座るという発想がそもそも抜けているようだった。


診療室では、アンナが機器の前から離れ、真人と智子の方へ向き直っていた。

先ほどまでの動きの名残が、アンナの肩や視線に残っている。

位置合わせのために何度も同じ説明を繰り返したばかりで、室内の空気はまだ落ち着き切っていなかった。


「いやぁ……ごめんね?何回もパノラマ撮りなおさせて」


真人は短く息を吐いてから、言葉を選ぶように返す。


「いや……まあ仕方ないですよ。初めてですもんね……目の前をくるくる回る機械なんて」


智子は器具を戻しながら、言い方だけは変えずに落とす。


「何回も動くなって言ったのに……」


アンナは笑ってごまかすように肩を揺らす。


「あはははは……ついつい……気になちゃって」


しおりが間に入って、次の工程へ押し出す。

声は軽いが、手順を止めないための勢いがある。


「さ、さらに資料取りするのでチェアに戻りますよ~」


アンナは素直に返事をして、チェアの方へ向き直る。


「はいは~い」


智子は準備を続けながら、手順の残りを頭の中で並べ直す。


(……いやぁ………厳しい……歯周検査まで行けるか?)


真人はアンナの動きと機器の位置を確認しながら、別のことを考える。


(う~ん……直樹君にお願いしてパノラマの撮影動画撮って受付のテレビに流しておこうかな……)


診療室の隅では、次に控える段取りの名前が頭をよぎる。

大地は表情を崩さずに、次の呼び出しの流れを思い浮かべる。


(……このあとサムさんか……う~ん地獄な予感)


あすかは機器の位置と、患者の反応の差を見比べる。


(……アンナさんでこれか………今日どこまでできるかな)


アンナがチェアへ戻る動きに合わせて、しおりが立ち位置を整える。

真人と智子の手は止まらない。

受付側では、サムが問診票に向かったまま落ち着かず、直樹の視線がその様子を追っているはずだった。

初日の流れは、どちらの場所でも同じように落ち着かないまま進んでいく。

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