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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第16章『ほほえみデンタル、訪問診療はじめました』

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06.手のひらで交わす意思疎通

大地とあすかは、ローランの診察を始めることにした。

入口には相変わらず見物客がいるものの、まずは目の前の患者と向き合うことが大切だった。

大地はローランの方へ向き直り、にこやかに挨拶をする。


「はじめまして。僕は大地といいます。こちらはあすかさん。これからは僕たち2人でローランさんのお口の事を見ていきますね」


大地は初めての診察ということで、簡単に自己紹介をしていく。

これから継続して診療を行うことになるため、まずは自分たちのことを知ってもらう必要があった。

しかし、ローランは大地をじっと見つめる。

そのあと、事務の方へ視線を向けた。

事務の人はその様子を見て、何かを察したように頷く。

そして、ローランに紙とペンを渡した。

ローランは受け取った紙に何かを書き始める。

大地とあすかは、その様子を見ながら待っていた。

やがて、ローランが書き終えた紙を二人に見せる。


『わたしはローラン。あまりしゃべれないからこれで。耳は聞こえるから問題ない』


書かれた文字を見て、大地とあすかが頷く。

ローランは会話をすることが難しいものの、こちらの声は聞こえているらしい。

つまり、質問をすること自体に問題はないが、回答については筆談を利用する必要があるということだった。

あすかは患者シートを確認し、備考欄に“聴覚問題なし。要筆談”と書き込んだ。

今後も継続して診療することを考えれば、こうした情報は残しておく必要がある。

大地はその様子を見ながら、少し考える。

質問のたびに紙へ書いてもらうことはできる。

しかし、問診では確認しなければならないことも多かった。


(う~ん………。何か聞くたびに書いて答えてもらうのも大変だから……)


大地はローランを見ながら、やり取りの方法を考えていた。

筆談であれば細かな内容を伝えることもできるが、簡単な確認まで毎回文字にしてもらう必要はないかもしれない。

特に、これから口の中を調べることになれば、診察を続けてもよいかどうか確認する場面も出てくる。

そのたびにペンを持ってもらうのは、あまり効率的とはいえなかった。

大地は笑顔になり、ローランを見る。


「じゃぁ、ローランさん。いくつか質問をするので、もし分かった、理解した、いいよ。と言うのであれば手を一回叩いてください」


大地はジェスチャーを交えて説明する。

言葉だけで伝えるのではなく、自分でも手を動かしてみせた。

ローランも同じように手を動かす。

その様子を確認した大地は、説明を続ける。


「もし、分からない、いやだ。と言うのであれば2回手を叩いてください」


ローランは頷きながら手を2回叩く。

説明を理解したうえで、動作を確かめているようだった。

大地はローランの反応を確認すると、もう一つ付け加えた。


「それと、それでも説明がむずかしいようでしたら、先ほどのように紙に書いてもらえますか?」


大地の質問に、ローランが手を1回叩く。

大地はその回答に頷いた。

これで、簡単な意思表示は手を叩く回数で確認できるようになった。

もちろん、それだけですべてのやり取りができるわけではない。

詳しく説明してもらう必要がある場合には、これまでどおり筆談を利用すればよかった。

あすかも大地とローランのやり取りを見ながら、患者シートの備考欄に“Yesは1回、Noは2回手を叩く”と付け足した。

今後の診療でも同じ方法を使えば、ローランとの意思疎通がしやすくなる。

そんな二人の様子を見ていたリンは、手元のメモに目を落とした。


(ほえ~~……すごく簡単にやり取りするなぁ)


リンがメモを取りながら感心する。

最初は筆談を使うという話だったが、大地はそこからさらに簡単な方法を考えていた。

質問に対して肯定か否定かを伝えるだけなら、わざわざ文字を書く必要はない。

しかも、複雑な道具を使っているわけでもなかった。

ギルも、そのやり取りを見ながら考えていた。


(いや、すごいな。……そう言う方法もあるのか……もっと簡単に考えればよかったな)


大地が提案したのは、手を叩く回数によって意思を伝えるという単純な方法だった。

しかし、ローランが実際に応じている様子を見ると、それだけでも十分に意思疎通ができることが分かる。

二人が感心していると、入口にいるギャラリーが驚きの声を上げた。

それまで大人しく診察の様子を見ていた人たちも、ローランが手を叩いて返事をする様子に反応したらしい。

突然の声に、事務の人が入口へ顔を向けた。


「皆さんお静かに!」


事務の人が口元に指を当てる。

見物客たちは口元に手を当てて黙り、頷いた。

大地はその様子を見て苦笑する。

あすかも同じように苦笑いを浮かべた。

静かに見てもらえるなら構わないとは伝えていたが、診察中に声が上がると、どうしても気になってしまう。

そんな二人の様子を見ていたローランが、再び紙に何かを書き始めた。

大地とあすかが視線を向けると、ローランは書き終えた紙を見せる。


『すまない。気になるなら追い出すが……』


二人は目をぱちくりさせて笑う。

どうやらローランも、見物客のことを気にかけてくれたらしい。

大地はローランの方を見ながら答えた。


「大丈夫ですよ。僕たちは気にならないので。ローランさんが気にするなら別ですが」


「ちょ~っと静かにはしてほしいですが、問題ないです」


あすかも笑顔で答える。

確かに見物客がいると、普段の診療とは少し勝手が違う。

しかし、ローラン自身が気にしていないのであれば、無理に出て行ってもらう必要はなかった。

何より、診療を受けるローランの意向が大切だった。

ローランは二人の返答を聞くと、再び紙に文字を書いた。


『そうか。……ならこのままでお願いしよう』


「はい。わかりました」


「お願いします」


大地とあすかはローランに答えた。

筆談に加え、手を叩く回数で意思を確認する方法も決まった。

ローランとのやり取りに必要な情報は、あすかが患者シートに記録している。

二人はローランの様子を確認しながら、診察を進めていくことにした。


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