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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第16章『ほほえみデンタル、訪問診療はじめました』

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05.患者は一人、見物客は多数

大地とあすかが診療の準備を進めていると、部屋の外から声が聞こえてきた。


「ローランさん連れてきました~」


事務の人がローランを連れてくる。

大地は手元の作業を止め、入口へ目を向けた。

いよいよ、異世界で初めての訪問診療を受ける患者との対面だった。

先ほど聞いた年齢のことも気になっていたが、まずは挨拶から始める。


「お待ちしていました」


大地が立ち上がり、にこやかに挨拶をする。

あすかも笑顔になり、ローランを迎える。

二人はローランの姿を確認すると、あることに気が付いた。

ローランが座っているのは、日本で見慣れたものによく似ていた。


(車いす……的なのあるのか)


大地は思わず、その乗り物へ目を向ける。

日本で訪問診療をしていた頃にも、車いすを利用する患者を診察する機会は多かった。

先ほど準備をしていた時も、車いすがあるかどうか分からないと話していたばかりだった。

実際に目の前にあるものを見て、あすかも似たようなことを考えていた。


(なんていうか、ところどころ日本と似ているところあるんだよな~)


もちろん、何もかもが日本と同じというわけではない。

それでも、こうして見慣れたものに似た道具があると、これまでの経験を生かせる部分もありそうだった。

二人がローランの様子を確認していると、事務の人が大地へ尋ねた。


「ローランさんはどうしましょう」


ローランをベッドに寝かせるか、椅子に移動するかを尋ねているらしい。

先ほど大地とあすかが相談していたことでもあった。

ベッドも椅子も用意されているため、患者の状態に合わせて診察する場所を決めることができる。

大地はローランの座っている様子を確認し、そのまま答えた。


「あ、このままで大丈夫ですよ」


大地が笑顔で答える。

車いすのようなものに座ったままでも、口の中を確認することはできる。

無理に場所を移してもらう必要はないと判断した大地は、そのまま診察を進めることにした。

事務の人も、その返答を聞いて頷いた。


その時、あすかがふと扉の向こうへ視線を移す。

ローランを連れてきた事務の人だけではない。

扉の向こうには、こちらの様子をうかがっている人たちがいた。

あすかは少し戸惑いながら、事務の人へ声をかける。


「………あの、あの人たちは……」


事務の人も視線を移し、困った笑みを浮かべる。

どうやら、あすかが何を気にしているのかは分かっているらしい。

事務の人は扉の向こうを見ながら、事情を説明した。


「えっと……実は、今日新しい治療をする人が来るって言う話が、いつの間にか広まっていて……。ローランさんは別に気にしていないようなのですが……」


事務の人が困ったように伝える。

新しい治療をする人が来るという話を聞き、興味を持った人たちが集まっていたらしい。

歯科という医療分野がまだ知られていない世界なのだから、どのようなことをするのか気になるのも分からなくはない。

しかし、実際に診察する側としては、少々気になる状況だった。

事務の人とは対照的に、ローランは特に気にしていない様子だった。

周囲に人が集まっていても、落ち着いて座っている。


そんな状況を見て、ギルが口を開いた。


「絶対にサムさんのせいだ」


先ほど医療ギルドで聞かされた話が、大地とあすかの頭をよぎる。

サムは今回の訪問診療にリンを同行させ、取材した内容を冊子にまとめるつもりだった。

その計画を勝手に決めていたため、マリアにこってりと絞られていたはずだった。

そして今度は、訪問先にまで新しい治療の話が広まっている。

ギルがサムを疑うのも無理はなかった。


「帰ったらマリアさんに報告ですね」


「お説教リターンしてもらいましょう」


リンとギルは頷きながら言う。

どうやら二人の中では、医療ギルドへ戻ったら報告することが決まったらしい。

大地は先ほど聞いたお説教部屋の話を思い出しながら、苦笑いを浮かべた。


「……ははは……是非、お願いします」


「こってりと絞っておいてください」


あすかも遠慮なく続いた。

突然同行者が増えたことに加え、今度は見物客まで集まっている。

サムの行動力には感心するものの、実際に診療する側としては困ってしまうことも多かった。


事務の人も困ったように謝る。

そして、扉の向こうにいる人たちを見ながら、扉を閉めようとした。

しかし、大地がそれを制止する。

ローラン自身が特に気にしていない様子であることを、大地は確認していた。

周囲にいる人たちも、新しい治療がどのようなものなのか気になっているのだろう。

それならば、無理に追い払う必要はないかもしれない。

大地は周りを見ながら、事務の人へ伝えた。


「まぁ、見てもらった方が安心するかもしれないので、今日はこのままでいいですよ。……ローランさんが気にしていないようなので」


事務の人も大地の言葉を聞き、扉を閉めるのをやめた。

大地は改めてローランの方へ目を向ける。

患者の状態を確認することが、今日の訪問診療で最初に行うことだった。

そのための準備はすでに済ませてある。


そして、あすかの方を見る。


「……さてと、はじめようか」


大地はあすかの方を見て言う。

あすかも準備を終え、大地へ顔を向けた。


「ギャラリーは気になりますが、問題ないでしょ」


あすかも笑顔で答える。

二人とも日本で訪問診療を経験してきたことに変わりはない。

ただ、これだけ人に見られながら診察するとなると、いつもとは少し勝手が違う。

大地は扉の向こうにいる人たちを意識しながら、内心でつぶやいた。


(まぁ、でもやりづらい)


あすかも同じように周囲を気にしていたが、それとは別に、目の前のローランについて考えていた。

先ほど聞かされた年齢を思い返し、改めてその姿を見る。

五万歳を超えるエルフ。

日本で培ってきた高齢者への診療経験が、どこまで当てはまるのかは分からない。

それでも、目の前のローランを見ている限り、その年齢を実感するのは難しかった。


(う~ん、五万かぁ……。見えないなぁ……さすがエルフ)


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