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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第15章『ほほえみデンタル、広がる治療と変わらない想い』

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02.補綴物と知られざる事情

「へぇ……このホテツブツというものにも色々種類があるんですね~」


ギルは手元の資料に目を落としながら、感心したように声を上げた。

真人と直樹から補綴物についての説明を受け、資料に載っている写真を改めて見比べていた。

先ほどまで聞いたことのなかった言葉も、説明を受けたことで、それぞれが何のために使われるものなのか少しずつ分かってきた。

リンも自分のメモを眺めながら頷く。

そこにはクラウン、ブリッジ、入れ歯についての説明が書き留められていた。

神経、被せもの、部分入れ歯など、これまで知らなかった言葉も並んでいる。


「説明してくれた内容を見返しても、目的は一緒なのに全然別ものなんだなってわかりますね」


リンはメモと資料を見比べていた。

写真だけでは分からなかった違いも、実際にどのような治療で使用するのかを聞くことで理解できた。

サムも資料に目を向けながら口を開く。


「いやぁ、まさか歯に神経があるとは……」


マイクもその言葉に頷いた。

歯の中に神経があるという話も、今回の説明で初めて聞いたことだった。

それだけでなく、虫歯などで大きく欠けてしまった歯にも、治療の方法があるということに驚いていた。


「それもびっくりですが、インレーとは違い大きく欠けた歯だったとしても、このクラウンというものをかぶせればまた、噛めるようになるって言うのもすごいですね」


マイクはクラウンの写真を指さした。

ギルも別の写真に目を向けながら会話に加わる。


「いやいや、それだけじゃないぞ。このブリッジと呼ばれるもの。無くなった歯の両隣を土台にして、橋を渡すように固定するって言うのもすごいな」


ギルが示した写真には、複数の歯がつながった形の補綴物が載っていた。

失った歯の部分を補うために、その両隣の歯を利用する。

説明を聞いたあとで写真を見ると、先ほどよりも形の違いが分かりやすくなっていた。

リンも資料の別の写真を見ながら口を開いた。


「入れ歯も、歯がなくなった部分や、歯が全部なくなった場合に、それを補うための取り外し可能な装置って言うのも……」


リンは言いながら、入れ歯について書いたメモを確認した。

歯がなくなった部分を補うという目的は同じでも、ブリッジとは違い、自分で取り外すことができる。

その違いも、資料の写真と説明から確認できた。

真人は皆の話を聞いていたが、ひとつ付け加える。


「……まあ、その分お手入れをしっかりしないといけないんですけどね……」


「それは………そうだろうな」


サムも頷いた。

直樹は資料を確認している職員たちに向けて、続けて説明する。


「一度治療したからと言って、一生大丈夫という訳でもないんですよね」


「そうなのか?」


サムが真人と直樹を見る。

歯を補うために作ったものでも、治療が終わればそのままずっと使えるというわけではなかった。

真人はサムの問いに答えた。


「食べる物によっては、これらが取れたり、壊れたりする場合もあります。……え~っと、意外にかむ力って強いから、詰め物とかが緩んできたりして、その隙間から虫歯になったりとかもするので……」


真人は資料に載っている補綴物を示しながら説明した。

一度治療を終えた歯であっても、そのあと何も起こらないとは限らない。

詰め物や被せものが緩んだり、壊れたりする場合もある。

直樹も真人の説明に続けた。


「入れ歯も割れたり、口に合わなくなってきたりするので……。やはり何もなくても定期的な受診はお願いしたいですね」


「歯の掃除だけじゃないんですね………」


マイクは腕を組みながら頷いた。

これまで説明を受けてきた歯の掃除だけでなく、治療したあとの状態を確認することも必要になる。

ギルは資料を見ながら、ふと疑問を口にした。


「………これだけのことができるのに、なんで今まで言ってこなかったんだ?」


ギルは真人に尋ねた。

これまで、ほほえみデンタルは訪問診療や企業健診など、色々なことを始めようとしていた。

医療ギルドにも協力を求め、その内容について説明してきている。

それなのに、今回紹介された補綴物については、これまで詳しい話がなかった。

真人はギルの質問を聞いて困ったような顔をした。


(だよねぇ……。そう思っちゃうよね)


どう説明したものかと考える。

技工物を作ることができなかった事情を、そのまま話すわけにもいかない。

真人が答えを考えていると、直樹が代わりに口を開いた。


「実は、これらを作るのはうちではないんですよ」


「そうなのか?」


サムが聞き返す。

直樹は頷きながら説明を続けた。


「これらを作るために、型取りをするんですが……。問題はその型を取った先なんですよね……」


「と、言うと?」


「開業直前になってお願いしていたところと連絡が取れなくなってしまっていて……。新しいところを探すにもなかなか見つからなくて困っていたんですよ」


真人は直樹の発言に驚いた。

まさか、そのように説明するとは思っていなかった。


(嘘は言ってない。嘘は言ってないけど……すごいな。この土壇場でこの発言……。やっぱ将来事務長を任せようと思っている人物って肝が据わってるなぁ~)


真人は直樹を見る。

直樹は特に慌てる様子もなく、サムたちへ説明を続けていた。

サムは話を聞いて頷く。


「そいつは大変だったんだな……」


リンも直樹の話を聞いていた。

今まで補綴物について説明がなかった理由が分かり、今回資料を持ってきたことにも納得した。


「じゃぁ、今このタイミングで教えてくれたってことは……」


「はい。連絡が取れるようになって、問題が解消しました」


直樹はにこやかな笑顔で答えた。

真人は隣に立つ直樹を見ながら、心の中で呟いた。


(直樹君を見る目が今後変わりそうだ……)


一方の直樹も、笑顔のまま考えていた。


(嘘は言ってませんからね……嘘は)


マイクは直樹の説明を聞いてから、真人へ別の質問をした。


「ちなみに、これらを作るための期間ってどれくらいなんですか?」


真人は少し考えた。

技工物を依頼してから納品されるまでの期間については、以前に説明を受けていた。

ただし、製作するものによって必要な工程が異なるため、すべて同じ期間で完成するわけではない。


(たしか、技工指示書を向こうに渡して、納品されるのに電波状態によって1週間ほどって言ったよなぁ……。単冠とブリッジは印象とバイトを同日にやるからいいとして、義歯だけは印象とバイトを別々にするときもあるし……試適もしてとなると……う~~~ん)


真人は頭の中で、それぞれの製作手順を確認した。

単冠やブリッジと違い、義歯の場合は型取りのほかにも確認する工程がある。

製作するものによっては、完成までに何度か来院してもらう必要があった。

真人は少し考えてから答える。


「そうですねぇ……ものによりますが……型を取り始めてから、装着するまでは……だいたい1週間から4週間ほどかかるかもしれないです。まぁ、あくまでも型取りを始めてから、の目安なので、その前に別の治療をしていたとしたらもっと時間がかかります」


真人は、あくまでも目安であることを念押しした。

型取りができる状態になるまでに別の治療が必要な場合もある。

その場合は、説明した期間より長くなることもある。


「別の治療……」


リンが聞き返した。

真人は先ほどまでの説明を思い返しながら答える。


「それこそ、さっき簡単に説明した神経の治療とか、抜歯手術の治療とか………色々ありますね」


「なるほどな~……」


サムは頷きながら、再び手元の資料に目を落とした。

インレー、クラウン、ブリッジ、入れ歯。

それぞれの写真を見比べながら、真人と直樹から聞いた説明を確認していた。


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