07.できること、またひとつ
今日の診療も無事に終わり、ほほえみデンタルではそれぞれが片付けを始めていた。
使った器具を片付け、診療室を整え、翌日の診療に備えていく。
待合室では直樹がモニターの電源を切るため、リモコンを手に持っていた。
モニターには、直樹が作ったパノラマ撮影についての動画が流れている。
初めてパノラマ撮影をする患者にも分かるように、どんな機械を使うのか、どのように撮影をするのかを映像で説明するために作ったものだった。
それ以外にも、しおりが描いたイラストを基に、P治療についてどんなことをしているのかを説明している動画も流している。
口の中を診ること自体に馴染みがなく、何をされるのか分からない患者に、診療前から少しでも知ってもらうためのものだった。
動画を流すようになってから、以前よりも多少診療がスムーズになってきている。
それでも説明しなければならないことは多い。
患者によって理解できる部分も違えば、疑問に思うところも違う。
動画を見てもらったうえで、実際の診療では改めて説明をする必要がある。
今後も内容を見ながら、動画はどんどんアップデートしていかなければならない。
直樹はそんなことを考えながらリモコンへ指を伸ばした。
そのとき、モニターの端が点滅していることに気付いた。
映像とは別の場所で、小さく点滅を繰り返している。
直樹は手を止めて画面を見る。
リモコンで点滅しているところを選ぶと『お知らせ』という文字が浮かび上がってきた。
直樹は一瞬画面を見つめたあと、真人を呼ぶ。
「院長!!お知らせがあるそうです」
真人を慌てて呼びに行く。
片付けをしていた真人が直樹の声に振り返り、そのまま待合室へやってきた。
「お知らせって何が?」
「モニターからそうメッセージが……」
「え~~~~」
真人もモニターを見る。
その声を聞いたほかのスタッフも手を止め、何事かと待合室に集まってくる。
やがて、全員がモニターの前にそろった。
直樹は全員が画面を見られることを確認し、『お知らせ』を選択する。
画面が切り替わった。
モニターには、ほほえみデンタルレベルアップと表示されていた。
「レベルアップ?」
直樹が画面を見たまま呟く。
「レベルアップして何ができるようになったの?」
真人の問いに答えるため、直樹は画面をスクロールしていく。
そこには続きの文章が表示されていた。
「えっと………。訪問診療と企業健診おめでとう。こちらもやっと色々準備ができたよ」
「準備ってなんのや?」
志帆がモニターを見る。
直樹はそのまま次の文章を読み上げる。
「……技工物の受注体制が整ったから今後は技工物もちゃ~んとできるようになるよ。受注体制が中々整わなくてね、メンゴメンゴ~~……」
「あ?」
志帆の声が一段低くなる。
直樹はすぐに志帆を見る。
「書いてある文をそのまま読んでいるだけですからね」
「あ、ごめんごめん。そうやね。続きは?」
直樹は気を取り直して読み進める。
「技工物の受注なんだけど、診療終わりにモニターに指示書を入れた箱を近づけてね。そしたら回収できるから。電波の状況にもよるから1週間後くらいって思って~。完成したらモニター前のテーブルに置いとくから。あ、あと生活用品そろそろなくなっちゃうよね。困るよね。知ってる知ってる~」
「あ?やんのかコラ」
陽菜の声が飛ぶ。
直樹がすぐに顔を向ける。
「ですから!」
「あ、分かってる。大丈夫大丈夫。落ち着いてる」
陽菜はそう答える。
直樹は一度黙り、それから再びモニターへ視線を戻した。
「………えっとでは、続きを。生活用品に関してはここから必要なものを注文して~。2日後に届くから。歯科材料はまだ待ってね~。こっちも色々と準備必要なんだからね!じゃ、バイビー……。だ、そうです」
最後まで読み終えた直樹が画面から目を離す。
「え?ぶっ飛ばしていい?」
大地が笑顔で言う。
「大地先生?」
直樹が大地を見る。
「あ、ごめんごめん。何でもない。気のせいだよ」
真人は集まったスタッフとモニターを交互に見た。
表示された内容を最初から思い返しながら、一度整理する。
「……えっと、なんかよくわかんないけど技工物問題なくなったのと、日用品の買い足しはできるようになったんだね」
真人は笑いながら話をまとめた。
直樹は眼鏡をかけなおして頷く。
その額にはうっすらと汗があった。
いつもご来院ありがとうございます。
ほほえみデンタルクリニックです。
【次回診療予定】
次回の診療は9月24日(木)17時を予定しております。




