↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第13章『ほほえみデンタル、それぞれの道と新しい一歩』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/127

01.あの日、あの看板を見つけて

ほほえみデンタルへの就職を決めた理由は、単純なものだった。

智子は真人と志帆の2人とは、前に勤めていた医院からの付き合いになる。

以前の医院そのものに不満があったわけではない。

ただ、自宅から少々遠く、毎日の通勤が大変だった。

このまま通い続けるのは厳しいかもしれないと考え、辞めようと思っていることを当時の院長へ相談していた。

そんな頃だった。

真人と志帆が開業するという話を聞いた。

どこで開業するのか場所を確認してみれば、自宅から近い。

それなら……ということで、ほほえみデンタルへの就職を決めた。

真人と志帆は、開業準備を進めながら以前の医院で勤務していた。

業者との打ち合わせが入れば休む日もあり、そのたびに少しずつ開業へ向けた準備が進んでいた。

智子も時々、今はどんな状況なのか話を聞いていた。

導入する機器についての話を聞くこともあった。

カルテに関しては、これまで使い慣れているということもあり、同じメーカーのものに決めたらしい。

レントゲンについてはデンタルショーを見に行き、実際にいろいろと見たうえで決めたと聞いた。

チェアについても同じだった。

いくつも見て回り、その中から良さそうなものを選んだらしい。

そうして少しずつ準備されていた、新しく開業する歯科医院。

自分もそこで働くことになった。

あの頃は、それだけだった。


(いやぁ……まさか異世界で新規開業するなんて………。誰も想像つかなかっただろうなぁ)


智子は隣で寝息を立てているつむぎを見る。

つむぎはすっかり眠っている。

しばらくすると、その口が小さく動いた。


「もう食べれない~」


智子はつむぎを見た。


「……まったく。夢の中でもなんか食べてるのかい?やれやれ」


智子は呆れながらも、つむぎの布団をかけなおす。

そのまま自分も横になり、目を瞑った。



美里は歯を磨きながら、ぼんやりと考えていた。

なぜ、ほほえみデンタルがここに来たのだろう。

考えたところで答えは出ない。

そもそも美里がほほえみデンタルで働くことになったきっかけも、最初から強い理由があったわけではなかった。

ほほえみデンタルの建築看板を見かけた。

その時に、なんとなく思った。

あ、ここに転職しよう、と。

当時勤めていた職場が悪かったわけではない。

仕事そのものにも問題はなかった。

ただ、衛生士内で派閥ができていた。

美里自身はどちらの派閥にも属していなかったが、その分どちらにも気を使っていた。

どちらかに寄っていると思われないようにしながら仕事を続けることに、精神的にも疲弊していた。

そんな中で見つけたのが、ほほえみデンタルの建築看板だった。

スタッフ募集中と書かれていたわけでもない。

ましてや、そこで自分が就職できるとも限らなかった。

それなのに、不思議と大丈夫だろうという気持ちになっていた。

そのまま面接を受け、ほほえみデンタルへ就職することを決めた。

今の職場を辞めると報告したあと、他の衛生士から無視されるようになった。

だが、別に気にはならなかった。

むしろ、これでこの職場からサヨナラできる。

そう思うと心が軽くなっていた。

ほほえみデンタルでは、開業前からいろいろな準備をした。

新しい医院が少しずつ出来上がっていく中で準備をするのは、とてもワクワクした。

開業したら、いろんな患者さんの口腔ケアをする。

実地指導もする。

そんな未来を夢見ていた。

そして実際に開業した。

ただし、場所は想像していたところではなかった。

美里は歯磨きを続けながら、今のほほえみデンタルのことを考える。


「………医療ギルドの尽力と、周りの口コミで患者さんが少しずつ増えてきてるけど……」


うがいを軽くすると、慣れた手つきでフロスをかける。

今、自分たちができることは限られている。


「ま、今は目の前のことと、出来ることを一生懸命するしかないか」



ゆかは肌の手入れをしながら、ほほえみデンタルで働くことになった頃を思い出していた。

ほほえみデンタルの看板を見つけた時、そこにはスタッフ募集と書かれていた。

ゆかには医療現場で働いた経験はない。

前職は飲食店だった。

その店の店長と大喧嘩をして、仕事を辞めた直後だった。

次も飲食店で働こうと思っていた。

経験もある。

だが、なんとなくやめた。

そんな時に見つけたのが、ほほえみデンタルのスタッフ募集の看板だった。

医療の医の字も知らない。

それでも、何ごとも挑戦だと思い、踏み込んだ。

働き始めてからは医療用語についても勉強した。

当然、最初から何でも分かるわけではない。

分からないことがあれば、院長や副院長、智子たちに聞いた。

みんな嫌な顔もせず教えてくれた。

電カルの患者登録方法についても、メーカーの人がしっかり教えてくれた。

それで何とかなった。

あとは開業を迎えるのみ。

そこまで来ていた。

そんな状態で迎えたのが、異世界での開業だった。

ゆかは肌の手入れを続ける。

そして、ふと手を止めた。


「………ん?化粧水どこで買えばいいんだろう」



つむぎは高校を卒業してすぐ就職した。

でも、そこは超絶ブラックだった。

だから半年足らずで辞めた。

そのあとはバイトを転々としていた。

親は何も言わなかった。

兄貴も特に何も口に出さなかった。

でも、分かってる。

ちゃんと安定したところで働いた方がいいって。

みんな心配してくれていた。

でも、それを口には出さず、いつも通り接してくれていた。

釣りにも連れて行ってくれた。

だからこそ、それが逆に心苦しかった。

バイトが休みの日、行ったことがないところに足を運んでみようと思った。

なんとなく電車に乗った。

降りたことのない駅で降りて、その辺りをブラブラと散歩した。

その時に見つけたのが、スタッフ募集の看板だった。

歯医者のスタッフって何するんだろう。

そう思った。

たまたまその場にいた人に声をかけて、どんな仕事なのか聞いた。

今思うと、その人が副院長だ。

内容を聞いて、ふ~んと思った。

それなのに、思わず口にしていた。

ここで働きたいなぁ、と。

副院長は笑って、履歴書持ってきてね。待ってると言ってくれた。

あたしは元気よく返事をして家に帰った。

そして面接を受け、ほほえみデンタルで働くことになった。

異世界に行ったことに衝撃は覚えた。

でも、まぁ、こんなこともあるだろうと思った。

それよりも異世界の食べ物がおいしい。


「智子さ~~ん………。ご飯美味しい……むにゃぁ……」


その横では智子が呆れた顔をしていたことをあたしは知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。