07.医療ギルドと企業健診
真人と直樹は医療ギルドの受付へと向かう。
先ほど一度来たばかりではあるが、今度は企業歯科健診について相談するためだった。
医療ギルドの中へ入ると、カウンターにいたマイクが2人に気づいた。
「あれ、インチョーとナオキさん……どうしたんですか?」
「さっきぶりですね……。えっと、実はサムさんに新たな分野の相談をと……」
マイクは少し首を傾げる。
「……先ほどの訪問と学校健診とは別ですか?」
「はい……というのも、最初は考えていなくて……とあるツテでお話に上がったものでして……」
真人は説明する。
訪問診療と学校健診について話し合った時点では、企業歯科健診の話は出ていなかった。
ルイが琴吹家へ来て、その場で相談されたことで新たに浮かんだ話だった。
「なるほど……マスターは今別件対応中なので……終わるまで応接室でお待ちください」
マイクは真人と直樹を応接室へ案内するため手招きをする。
「すみません……忙しいときに」
「いいんですよ。どうせ暇なんで」
マイクは笑いながら答える。
真人は、マイクなりに気を使ってくれたのだろうと思い、苦笑いを浮かべる。
マイクの後について応接室へ入ると、2人はソファへ案内された。
「じゃぁ、お茶でも飲んで待っていてください」
マイクはそう言うと応接室の扉を閉める。
真人と直樹はソファに座り、用意されたお茶を飲む。
すぐにサムが来るわけではないため、2人はそのまま待つことにした。
真人はお茶を一口飲んでから、ふと思い出したように直樹を見る。
「……そういえばルイさんの商会ってなんてところだろう」
「………あすかさんと大和くんに聞くの忘れてましたね」
直樹も今になって思い出す。
白穀を扱っている商会。
会長がルイということまではわかった。
だが、商会そのものの名前までは確認していなかった。
「本人が来てたけど、いたことに衝撃を受けすぎて聞きそびれちゃった……」
真人は苦笑いを浮かべる。
家に帰ったら、知らない商会の会長がリビングにいた。
そのあともタコ料理やタコ焼き、企業歯科健診の話まで続いた。
商会名を聞く機会はあったはずだが、完全に抜けていた。
真人と直樹はそんな他愛のない会話をしながら、サムを待つ。
しばらくしてから、応接室の扉が開いた。
サムが中へ入ってくる。
「すまんな。……で、どうした?新しい分野ってのは」
サムは挨拶もそこそこに本題を切り出す。
真人は座り直し、サムへ説明を始めた。
「実は、ルイという商会会長さんがえっと………ちょっとした用事でうちに来たときに相談されまして……」
「あぁ、あいつのところ。……なんでほほえみデンタルに??………いや、まあいいや。で?」
サムはルイの名前を聞いて反応する。
なぜルイがほほえみデンタルへ行ったのか気になったようだったが、今はそこを聞く話ではないと判断したのか、そのまま続きを促した。
「そこの商会に行って従業員の口の中の状態を診てほしいってお話をいただき……」
真人が概要を伝えると、直樹も続ける。
「治療ではなく、口の中に悪いところがないか診てほしいだけなんですが……。まぁいわゆる企業歯科健診というものでして……」
「ふむふむ……」
サムは頷きながら2人の話を聞く。
治療のために患者がほほえみデンタルへ来るのではなく、真人たちが商会へ行き、そこで働いている人たちの口の中を確認する。
その説明を聞きながら、サムは続きを待った。
「こちらとしては願ってもない話なので前向きに検討しようと思っているのですが、新しい分野なので、いったん医療ギルドに相談してからお返事をしようと思いまして………。説明もかねて」
サムは何度か頷く。
「なるほどな………。確かに良い試みだな……。ルイのところで成功したら他の商会から声も掛かるだろうしな。医療ギルドとしてはどういうものか把握しておいた方がいいな」
真人も頷く。
今回だけで終わるとは限らない。
ほほえみデンタルのことが広まれば、同じような相談が別の商会から来る可能性もある。
「企業健診は治療せずに、悪いところがないか、口の状態を確認するものなので金額としては一人3300円になります」
「悪いところが見つかったら?」
サムがすぐに聞く。
「うちに予約を入れてもらって治療を始めます。まあ、悪いところがなくても定期的に来てほしいですが……そこはおいおい」
サムは真人の説明を聞きながら考える。
口の中を診てもらう。
悪いところがあれば治療する。
悪いところがなくても、その状態を保つために定期的に診てもらう。
この国にはこれまでなかった流れだった。
「なるほどな……それはいいな。悪い話じゃないと思うぞ」
「日程は一度サムさんに相談してから医療ギルドを通じてのお返事。……ということにしています。今後に備えて」
直樹が今後の流れを説明する。
今回だけなら、ほほえみデンタルとルイの商会だけで日程を決めることもできる。
だが、同じ依頼が増えた場合まで考えるなら、医療ギルドにも内容を把握してもらっておいた方がいい。
「そうだな。もし他のところでも同じ話になった時に、うちが間に入った方がいろいろいいだろうな。ルイのところみたいに穏やかな商会ばかりじゃないからな」
「へ……へぇ……そうなんですね」
真人は少しだけ言葉を詰まらせる。
商会といっても、それぞれ違う。
今回ルイから依頼された時は話も穏やかに進んだが、どこも同じとは限らないらしい。
サムは真人の反応を見て笑う。
「安心しろ。変なところは紹介しないから」
サムは笑いながら答えた。




