06.笑って学べる口腔ケア
「劇を見るのは好きやけど……」
志帆は腕を組みながら言う。
「自ら演じるのは……」
智子も続ける。
「ミュージカルはよく観てたけど………」
すずは少し考えながら言った。
「新喜劇はよく観に行ってたわ」
志帆も同じように返す。
見るのは好きでも、自分たちが舞台に立つとなると話は別だった。
「う~~ん」
全員が揃って唸り声をあげる。
演劇。
口腔ケアを子どもたちに伝えるための方法として出た案ではあるが、誰も経験があるわけではない。
「でも、たしかに劇にした方が子どもたちには伝わるかもしれないですね」
大地は天井を見ながら言う。
壇上に立ってただ説明するよりも、劇にした方がよいだろう。
口腔ケアという概念そのものがない以上、言葉だけで説明するよりも、見てわかる形にした方が伝わりやすい。
「唸ってても患者さんが増えるわけじゃないからね。やってみようか」
智子が言う。
いつまでも考えているだけでは何も始まらない。
やるなら、子どもたちに伝わるものにする必要がある。
「どうせやるなら笑い要素も入れたいですね」
あすかが言う。
「硬すぎてもダメですしね」
しおりも頷く。
ただ説明するだけではなく、見ていて楽しめる内容にした方がいい。
「やるならどんな感じの劇にしようか」
志帆がみんなを見る。
やるなら徹底的に。
面白く。
口腔ケアについて伝わるように。
どんな内容にするか、みんなで話すことにした。
「どんな役が必要かはあとで精査するとして、ある程度形にしておこうや」
「そうですね。……う~~ん……」
智子はまた考え込む。
すると再び、リビングに「う~~ん」という唸り声が広がった。
「口のお手入れをサボる子を主軸にして、歯磨きをしてもらおうと説得する側と、させないように説得する側と対立する話は?」
大地が口を開く。
子どもが中心なら、見ている子どもたちも話に入りやすい。
歯磨きをする側と、しない側。
そこを対立させれば、口腔ケアの大切さも説明しやすい。
「歯医者さん役と衛生士さん役が解説しながら進行する?」
陽菜が続ける。
「まぁ、説明しないと通じないところもあるやろうからな……」
志帆は頷く。
この国には口腔ケアという概念がない。
歯磨きや口の中を清潔に保つ意味も、最初から説明しなければならない。
「子ども役、歯医者さん役、衛生士さん役は確定。ほかは……」
ゆかが指を折りながら必要な役を考える。
「歯磨きさせようとする側とその反対側……音響係は欲しいよな」
志帆が言う。
演じる人だけではなく、裏で動く人も必要になる。
「衣装は各々用意するとして……」
あすかも具体的な準備を考え始める。
「笑いあり涙ありの劇になったらいいっスね」
大和が楽しそうに言う。
「さて、あの2人が帰ってくるまでにある程度形にしとくよ」
志帆の掛け声とともに、劇の内容についてさらに熱が入る。
やるなら子どもたちにも分かるように。
堅苦しくならないように。
楽しんでくれるように。
誰がどの役をするか。
どこで説明を入れるか。
どんな流れにすれば理解しやすいか。
みんなで思いついたことを出し合っていく。
さっきまで唸っていた空気は、少しずつ具体的な話へ変わっていった。
その頃、真人と直樹は再び医療ギルドの前にいた。
先ほどまで来ていた場所へ、また戻ってきたことになる。
真人は建物を見上げてから、隣にいる直樹を見る。
「さて、サムさんにまた相談に行きますか」
「そうですね」
直樹は頷く。
2人はそのまま医療ギルドの中へ向かった。




