05.訪問診療と演劇
真人と直樹が医療ギルドに向かったあと、残された志帆はリビングにいるみんなへ医療ギルドでの話し合いの内容を共有することにした。
訪問診療については、すでにある程度話が進んでいる。
「訪問診療に関しては、医療ギルドが経営している施設の入居者数人でためすことになったわ」
志帆が説明すると、しおりが少しだけ言葉を付け足す。
「医療ギルドの元職員さんも何人か入っているらしくて……。その人たちなら理解も早いだろうし協力してくれるだろうってことで……」
「なるほど……それならまぁ、なんとか」
大地は頷きながら答えた。
「始める分にはお互い負担も少ないかもですね」
あすかも同じように頷く。
訪問診療となれば、大地とあすかがメインとなる。
大地は老人医療や口腔ケアを担当してきた。
あすかも以前の歯科医院では訪問診療を中心にしていた。
2人は志帆としおりの話を聞きながら、実際に訪問することを考えていく。
「サムさんには『通院困難な患者』が対象とは伝えてあるから……。そこは大丈夫だと思うけど」
陽菜がそう言うと、大地は少し考える。
「その施設ってさ……扱い的には特養とかになるのかな?」
「あ~~~……そこまではさすがに………」
志帆はすぐには答えられなかった。
医療ギルドが経営している施設ということは聞いている。
だが、日本の施設区分と同じように考えていいのかまではわからない。
「まぁ、そこはあとで考えましょう。というかそもそもこの国に介護保険という制度があるかどうか怪しい」
あすかの言葉に、大地も頷く。
「ま、それもそうだね」
大地は頭をかきながら言う。
「……ここが異世界ってことを忘れて、介護優先か医療優先かで考えてたよ。アハハ」
「まぁ、ここが日本ならそれは大切なんですけどね」
「居宅療養か歯在管か大事やもんね」
志帆もその話に加わる。
訪問先の施設の種類。
介護保険の有無。
日本で訪問診療をするなら、確認しなければならないことはいくつもある。
だが、ここは異世界だった。
日本と同じ制度があるとは限らない。
「………行ってから考えてみようかな」
大地はそう言って、あすかを見る。
「準備はできてますしね」
あすかも頷いた。
必要なものはすでに準備している。
あとは実際の施設を確認し、その場所でどう診療するかを考えることになる。
「あとは、メインで行く僕たち2人でサムさんのところに改めて行ってから話を詰めようか」
「そうですね。今度行きましょうか」
大地とあすかの間で話がまとまる。
志帆は2人を見てから、軽く手を合わせた。
「訪問診療については以上やな」
志帆は笑顔で言う。
訪問診療についての共有が一段落すると、智子が次の話を聞く。
「学校健診の方はどうなったんですか……?」
「あ~~~~……それなんやけど……」
志帆は頬をかきながら、歯切れ悪く言う。
さっきまで訪問診療について説明していた時とは違い、すぐに続きが出てこない。
美里はその様子を見て首を傾げる。
「……???なにか問題でも?」
志帆はしおりと陽菜の顔を見る。
しおりと陽菜もお互いの顔を見て、それから志帆を気まずそうに見つめる。
「いや、問題はないんだけど……」
陽菜も言葉を濁す。
「問題というほどの事でもないんだけど……ちょっとその……」
しおりも続ける。
3人はそろって天井を見つめる。
どう説明するべきか考えるように、それぞれ黙り込んだ。
(う~~ん……どうしたもんか)
志帆は天井を見たまま考える。
(見るのは好きなんだけど)
陽菜も同じように考える。
(紙芝居だったら考えたんだけどなぁ……)
しおりも黙ったままだった。
3人の様子を見ていたつむぎが、先に口を開く。
「……学校健診という概念がないから、口腔ケアについて講演してほしいとか言われました?」
「講演ならどれだけよかったことやら」
志帆はすぐに答える。
つむぎは頭に?マークを浮かべる。
講演ではない。
だが、そこまで3人が言いづらそうにする理由もわからない。
すると、大和が笑いながら口を開く。
「案外劇をして説明してほしいとか言われてたりして」
「いやいや、まさか。ただの歯科医院に演劇とか」
美里は笑いながら否定する。
歯科医院が学校へ行って口腔ケアについて説明する。
そこまではわかる。
だが、演劇までやるとなると話は別だった。
「そうだよ。さすがに……え?」
大地も笑いながら答えていたが、途中で志帆の顔を見る。
志帆は笑っていなかった。
しおりと陽菜も気まずそうな表情のまま、大地たちを見ている。
大地の表情が変わった。
大和も笑ったまま、志帆を見る。
志帆は短く答える。
「大正解」
「子どもたちに口腔ケアについて教える方法が……演劇はどうか?って、提案があって」
陽菜が説明する。
「その、強制ではないけど、一つの案として検討してほしいとのことで……」
しおりも続けた。
リビングにいたみんなが、それぞれ言葉を止める。
智子は少し考えたあと、ぽつりと言う。
「え……演技かぁ……」




