04.新しい健診のかたち
「えっと、とりあえず新しい試みなんで一旦医療ギルドと相談してからでもいいですか?」
真人はルイへ確認する。
企業歯科健診という形で商会へ出向いて診ることは、まだこちらに来てから一度も行っていない。
そのため、まずは医療ギルドへ話を通しておく必要があった。
「いいですよ」
ルイはすぐに頷いた。
「あと、診るとしたら少し広めの部屋で一人一人交代で見させてもらえれば……」
真人は実際に健診をする場合のことを考えながら伝える。
診る場所が狭ければ、器具を置くにも人が動くにも不便になる。
従業員を一度に集めるのではなく、一人ずつ交代で診る形なら進めやすい。
「わかりました。部屋は問題ないと思いますが、日程が決まったら準備しておきます」
ルイはそう答えると、椅子から立ち上がった。
真人たちもそれに合わせて立ち上がる。
ルイはお辞儀をして琴吹家を出ていく。
真人と志帆はルイを見送るため、一緒に外へ向かった。
智子たちは残った皿や小皿、使い終わったタコ焼き機などを手分けして片づけ始める。
真人と志帆はルイと一緒に外へ出た。
ルイは商会へ戻る方向へ体を向けてから、もう一度真人たちを見る。
「では、そちらの都合の良い日は医療ギルドを通じてお返事をもらうことにしましょう」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」
真人と志帆は深々とお辞儀をする。
ルイも軽く頭を下げてから、商会に向かって歩みを進めた。
真人と志帆はその場に残り、ルイの姿を見送る。
やがてルイの姿が見えなくなる。
真人と志帆はお互いに顔を見た。
「学校健診の話をしてたのに、まさか企業健診の話もくるとは……」
「ね~~~……。中の片付けが終わったらサムさんのところもう一回行こうか」
「ほんまやね」
志帆と真人は中へ戻る。
リビングでは、智子たちがほとんどの片づけを終えていた。
皿はまとめられ、食べ終わったものも片づけられている。
タコ焼き機も使い終わった状態で、テーブルの上が少しずつ元に戻っていた。
「片付けありがと~」
真人はリビングに入ると、みんなへ声をかけた。
「いえいえ……。ところで企業健診どうするんですか?」
智子は手を止め、真人を見る。
ルイから依頼された以上、何かしら返事をする必要はある。
ただ、今までやったことのない形だった。
「前向きに検討はしようと思うけど……。今後のためにも医療ギルドにこの後また行ってきて相談してくるよ……。説明もしないとだし」
真人の言葉に智子は頷く。
自分たちだけで決めるのではなく、医療ギルドにも話を通しておいた方がいい。
これから同じような依頼が来る可能性もある。
「健診の結果の用紙も準備しないとっスね」
大和が思い出したように言う。
診るだけではなく、結果を本人へ伝える必要がある。
虫歯があるのか。
歯周病の疑いがあるのか。
治療が必要なのか。
あとから確認できる形で残すなら、用紙も必要になる。
「ほんとだね……いやあ……やることがいっぱいだ」
真人は少し上を向きながら言った。
企業健診そのものだけでは終わらない。
事前の準備。
健診の進め方。
結果の記録。
治療が必要だった場合の案内。
考えることは次々に出てくる。
「テンプレート作成は任せてください」
直樹が眼鏡を直しながら言う。
「頼りにしてるよ」
志帆が直樹へ声をかける。
直樹が作るなら、必要な項目を整理したうえで形にしてくれる。
美里はルイから聞いた人数を思い出しながら考える。
「一人30分くらいとして……。でも丁寧に説明することを考えると」
「時間に余裕は持たせないとね」
真人は美里の言葉に頷く。
この世界には口腔ケアという概念がない。
歯科健診そのものも、商会の従業員たちにとって初めてのものになる。
ただ口の中を見て終わりではなく、何を確認しているのか、どういう状態なのかも説明する必要がある。
急いで人数だけをこなす形にはしたくなかった。
「さすがに1日では見れないっスよね」
大和が真人へ聞く。
「従業員の都合もあるから2~3日に分けようかなとは思ってる。そこで都合の良い時間に予約を入れてもらおうかな」
真人は30人という人数を考えながら答える。
全員が同じ日に仕事を抜けられるとも限らない。
時間を決めて順番に来てもらう方が、商会側も動きやすい。
美里と大和は真人の言葉に頷く。
その横で、直樹が真人へ声をかける。
「院長……」
「ん~?」
「とりあえず、サムさんのところに行きましょうか」
真人は一瞬止まった。
話しているうちに、医療ギルドへ行くことを後回しにしそうになっていた。
「あ、そうだね。えっと、直樹君と行ってくるから、志帆、学校健診のことみんなに説明しておいて」
「わかった」
志帆は頷く。
真人と直樹は再び外へ向かう準備をする。
先ほどまで医療ギルドにいたばかりだったが、今度は企業歯科健診の相談が増えている。
真人と直樹は家を出ると、再び医療ギルドに向かって行った。




