02.商会長、タコ焼きを知る
志帆はリビングのテーブルにタコ焼き機を置くと、手際よくタコ焼きのタネを作り始めた。
ボウルに材料を入れ、だまが残らないように混ぜていく。
その横では、残っていたタコを取り出し、タコ焼きの中に入るよう小さくカットしていく。
必要な材料も次々にテーブルの上へ並べられた。
紅ショウガ。
天かす。
ネギ。
どれもすぐに使える状態になっている。
智子は並べられた材料を見た。
(……紅ショウガと天かすが大量にあるなぁ……とは思ってたけど)
冷蔵庫や棚を確認した時から、なぜか紅ショウガと天かすだけは量が多かった。
ほかの食材が減っている中でも、そこだけ妙に充実していた。
美里も志帆の手元を見ながら考える。
(志帆先生の買い置きだったのか……)
志帆は材料の場所に迷うこともなく、必要なものを取り出している。
どこに何があるのかも把握していた。
智子は今日買ってきたネギを見る。
(まぁ、ネギも今日買って来てたからいいけど……。買ってなかったらどうしたんだろう)
志帆はタコ焼き機の準備を終えると、タネの入ったボウルを手元へ寄せた。
「さて、作っていくよ~」
志帆の掛け声とともに、タコ焼き作りが始まった。
タコ焼き機のくぼみにタネを流し入れ、タコを一つずつ入れていく。
その上から紅ショウガや天かす、ネギを加えていく。
志帆の手は止まらない。
つむぎはその動きを横から見ていた。
「手慣れてますね」
「一家に一台タコ焼き機は常識やろ」
「いや、別に?」
志帆の手が一瞬だけ止まった。
つむぎは何もおかしなことを言っていない顔で、タコ焼き機を見ている。
「え?ほんまに日本人?」
「タコ焼き機がないくらいで非国民扱いしないでください」
「冗談冗談」
志帆は笑いながら、再びタコ焼きを作り始めた。
焼けてきた部分を確認しながら、竹串で端を整えていく。
タネが固まり始めると、少しずつ形を丸くしていった。
ルイはテーブルの上に置かれたタコ焼き機を見ている。
唐揚げ。
煮物。
酢の物。
それまでに食べたものとは、作り方から違っていた。
志帆は慣れた手つきでタコ焼きを返していく。
半分だけ固まった生地を回し、はみ出した部分も中へ押し込む。
丸い形が少しずつ整っていった。
「ほぉ……タコが中に隠れている料理ですか」
ルイは丸くなっていくタコ焼きを見ながら言った。
外からはタコが見えない。
中に入れて焼く料理だということは、作るところを見て初めてわかる。
ゆかも志帆の手元を見ていたが、ふとタコ焼き機へ視線を落とした。
「……志帆先生……。ところで、なぜタコ焼き機が?」
「みんなでタコパするため」
「なるほど」
ゆかはすぐに納得した。
その横から、あすかが口を挟む。
「頻度は?」
「週1?」
「多いです!」
智子がすぐに声を上げた。
週に一度もタコ焼きパーティーをする予定だったとは聞いていない。
「タコパ楽しいで?」
志帆は当然のように答えながら、タコ焼きを返していく。
丸くなったタコ焼きが、鉄板の上で並んでいく。
大地はそのやり取りを少し離れたところから見ていた。
(……真人先生はみんなでBBQ。志帆先生はみんなでタコパ……似たもの夫婦)
真人はみんなで集まって食べることが好きだった。
志帆も同じように、みんなでタコ焼きを作るつもりでタコ焼き機を用意していた。
大地はにこにことしながら、焼き上がっていくタコ焼きを見ている。
志帆は全体の焼き加減を確認し、きれいに丸くなったものから皿へ移していった。
「へい!タコ焼きおまち!!青のりとかは好きにかけてや!」
志帆がタコ焼きを皿にのせて差し出した。
焼き上がったばかりのタコ焼きから湯気が上がっている。
志帆は皿を置くと、すぐに次のタコ焼きを焼き始めた。
空いたくぼみに新しいタネを流し入れ、タコを入れていく。
智子は出来上がったタコ焼きの皿を引き寄せた。
「じゃぁ、仕上げはわたしが……」
智子はタコ焼きの上にソースをかける。
続けて青のりを振りかけ、最後に鰹節をのせた。
熱で鰹節が動いている。
智子はルイ用にタコ焼きを小皿へ取り分けた。
「中は熱いので気を付けてください」
「ありがとう」
ルイは差し出された小皿を受け取った。
その隣では、つむぎがすでにタコ焼きを口へ運んでいた。
一口で食べようとした直後、つむぎの顔が動く。
「あっつ~~~~い」
「言ったそばから……」
智子は呆れて首を振った。
つむぎは口を動かしながら、熱さを逃がそうとしている。
それでも、タコ焼きを口から出すことはなかった。
「でも、おいしいです!」
つむぎは熱そうにしながらも、しっかりと噛んでいる。
外側は焼けているが、中はまだ熱い。
その中に、小さく切ったタコが入っていた。
真人たちもタコ焼きに手を伸ばし、食べ始める。
ソースと青のりのかかったタコ焼きを小皿に取り、熱さを確かめながら口へ運んでいく。
真人は一つ食べると、焼き続けている志帆へ顔を向けた。
「志帆さんおいしいよ」
「当たり前や!」
志帆はタコ焼きを返しながら答えた。
手は止めず、次の分を丸く整えていく。
ルイも小皿に取り分けられたタコ焼きを口へ運んだ。
智子に言われた通り、少しずつ食べる。
焼けた生地の中に、タコが入っている。
唐揚げとも煮物とも酢の物とも違う。
ルイは口の中のタコ焼きを飲み込み、小皿に残ったものを見る。
「……おいしい……。このタコ焼き、いいですね」




