01.タコ料理の代表
「ただいま~~。お留守番とお買い物ありがと~。なんかいいの見つかった?」
真人たちは玄関のドアを開けながら、家の中へ声をかけた。
奥から智子たちの「おかえりなさい」という声が聞こえてくる。
真人は靴を脱ぎながら、リビングの方へ顔を向けた。
続いて志帆、直樹、陽菜、しおりも玄関へ入る。
美里がリビングから出てきて、玄関まで迎えに来た。
「おかえりなさ~い。まぁ、色々と買い物できました」
美里は5人を見ながら答えた。
市場で買ってきた食材は、すでに家の中へ運び終えている。
冷蔵庫へ入れたものもあれば、まだリビングやキッチンに置かれているものもあった。
「ありがとう……。なんかリビングの方騒がしいけど……?」
志帆は靴を脱ぎながら、リビングの方へ顔を向けた。
話し声が聞こえている。
出かける前よりも人数が多いような声の重なり方だった。
「あぁ……えっと……」
美里は歯切れの悪い返事をした。
すぐに事情を説明するでもなく、真人たちとリビングの方を交互に見る。
真人と志帆は顔を見合わせた。
留守番をしていたスタッフと、市場へ出かけていたスタッフしかいないはずだった。
それにしては、美里の返事が引っかかる。
「………見たことのない靴があるようですが……」
直樹が見慣れない靴を指さして言う。
玄関には、スタッフのものではない靴が置かれていた。
真人たちが出かける前にはなかったものだった。
直樹の言葉に、陽菜としおりも靴を見る。
美里は一度リビングの方を見てから、5人へ向き直った。
「実は、白穀を取り扱っている商会の会長さんがいらして……」
「なんで?」
真人はすぐに聞き返した。
白穀を買いに行ったとは聞いている。
だが、買い物へ行った結果、商会の会長が家にいる理由まではわからなかった。
「……白穀の調理方法を教えてほしいというのと、タコをもってきて……」
「タコぉ!?」
しおりの声が玄関に響いた。
白穀の商会の会長という話を聞いていたはずが、突然タコの話が出てきた。
しおりは美里を見たまま、次の説明を待つ。
「つむぎちゃんがタコを処理したり、さばいてくれて。実は魚も三枚下ろしもできるみたいで………」
「待って待って待って……情報量が多すぎて処理できない」
陽菜が美里の話を止めた。
商会の会長がいる。
白穀の調理方法を教えている。
タコを持ってきた。
つむぎが下処理をした。
ひとつずつならわかるが、まとめて聞くと何が起きたのかわからなかった。
美里もどこから説明すればいいのか迷い、少し考える。
「とりあえず、偉い人が来て家でお昼を食べてる」
「ギュッとまとめましたね」
直樹は美里の説明に答えた。
事情はすべてわからないが、家に客がいることだけは理解できた。
5人はとりあえず中に入り、リビングへと向かう。
リビングからは食事をしている声が聞こえている。
キッチンの近くには料理の入った皿が並び、テーブルにはおにぎりが置かれていた。
リビングには、おにぎりとタコ料理に舌鼓しているスタッフがいる。
その奥には片眼鏡をかけた青い髪の男性が座っていた。
真人たち5人は、その男性を見る。
美里が言っていた商会の会長は、この人物なのだろう。
真人は一歩前へ出た。
「えっと……いらっしゃい。はじめまして、院長の真人です」
真人はとりあえず挨拶をする。
自宅のリビングで初対面の相手へ、いらっしゃいと声をかける状況にはなったが、何も言わずにいるわけにもいかなかった。
ルイもにこっと笑い、真人たちへ顔を向ける。
「すみませんね、突然お邪魔して。わたしはルイといいます。これからもご贔屓に」
「あ、はい……これからも白穀をお願いします」
真人はルイへ頭を下げた。
白穀は今後も必要になる。
商会の会長本人が目の前にいることには戸惑うが、白穀を取り扱っている相手であることに変わりはなかった。
「はじめまして。白穀ありがとうございます。本当においしかったです」
志帆が間に入って挨拶をする。
昨日食べた白穀も、今朝のおにぎりも、日本で食べていた米とほとんど変わらなかった。
主食としてこれからも食べていけるものだった。
ルイは満足そうに頷いている。
志帆はリビングに並ぶ料理を見てから、ルイへ視線を戻した。
「ところで、今日は……」
「白穀のかわった食べ方をしているということなので教えてもらおうと思い……。あと、この悪魔の化身……タコというのですか?これの食べ方も教えていただこうと……。タコの唐揚げと酢の物、煮物……実においしい」
ルイは満足そうに頷いていた。
ルイの前には、それぞれ少しずつ減った料理が並んでいる。
唐揚げ。
酢の物。
煮物。
どれも、つむぎが下処理をしたタコを智子と美里が料理したものだった。
「タコ……」
志帆はまな板の上にあるタコの切り身を見る。
料理に使ったあとも、まだ切り身は残っていた。
志帆はその場でタコを見たまま止まる。
そして何を思ったのか、何も言わずに奥へと消えた。
真人たちは志帆の背中を見る。
ルイも志帆が消えた方へ顔を向けた。
「おや、なにかあったのだろうか?」
しばらくすると、奥から志帆が戻ってきた。
両手には調理器具が抱えられている。
志帆はそのままキッチンへ向かった。
「智子さん、美里ちゃん!!タコ焼きつくるで!!」
志帆がタコ焼き機を持ってくる。
智子は志帆の手にあるものを見た。
異世界へ来てから確認していなかったが、タコ焼き機は家の中にあったらしい。
「タコ焼き機あった………」
「さすが……」
美里も志帆とタコ焼き機を交互に見る。
タコを見た直後に迷いなく取りに行った志帆の行動に、ほかのスタッフもタコ焼き機へ視線を向けた。
「タコ焼きですか……」
ルイは初めて聞く料理名を繰り返した。
志帆はタコ焼き機を置きながら答える。
「タコ料理の代表と言っても過言じゃないです」
「それは言い過ぎでは?」
智子がすぐに返した。
タコ料理はタコ焼きだけではない。
すでに唐揚げ、酢の物、煮物を作って食べている。
「ほぉ~……そうなんですね」
ルイは志帆の言葉を聞き、納得したように頷いた。
「ほらぁ……信じちゃった」
美里はルイと志帆を見ながら言った。
ルイはタコ料理について何も知らない。
志帆が代表料理と言えば、そのまま受け取ってしまう。
「タコ焼き食べずしてタコを語るのは違法やで」
「そんなわけないでしょ!」
智子の声がリビングに響いた。
タコ焼きを食べなければ違法になるはずがない。
志帆は智子を見ながら、タコ焼き機へ手を置いた。
「いや、ここのルール」
「……」
智子は何も言わず、志帆を見た。




