7話:異世界ってこんなに『変』なの?
クラスメイトの女子に誘われ、連日で採取クエストへの付き添いのお仕事をしていた俺こと片渡佑翔だが、奇妙な現象を目撃した。
ブリーチ・クローバーとやらの採取をしていたクラスメイトの女子こと花秦しぐれが、突然レインボーに輝きだしたのだ。一体なんなんだ?
「来たわ! 確変よ!」
確変だそうだ。
虹色の女子高生は周辺をきょろりと見渡したあと、
「あっちに当たりが多いわね。行ってくるわ」
と言って、妖しく揺らめくクローバー畑の奥へと駆けていった。
なんというか、異世界ってこんなに『変』なの?
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キュインキュイン。
山奥でもスイスイ繋がる、かみさまお手製のスマホはまさに神キャリアである。俺は、クローバー刈りを続ける花秦を横目にネットサーフィンを続けていた。
トップレアである虹色のクローバーを引いた人間は確変状態に入り、当たり率の高い激アツクローバーを目視で判別できるようになるらしい。確変レインボー少女・花秦しぐれは、あっちだこっちだと畑を駆けずり回っている。
キュインキュイン。
「もうちょっと音小さくならないのか?」
彼女が大当たりを引くたびに、畑には爆音が鳴り響く。こうもキュイキュイなっていてはネサフ(ネットサーフィンの古語)にも集中できない。
キュインキュイン。
「ならないわよ。居るだけでいいんだから我慢しなさい」
「お前が確変に入ってからとんでもな キュインキュイン い頻度で鳴ってるじゃん。うるさいから俺、あっちの方に行っとこうかな」
そう言って畑の入り口側にあるトンネルを指さす。
「一人で行ったら死ぬわよ」
「え? 死にゃしないだろ」
何を急に言い出すんだ。街ー畑間は、山道の傾斜を除けばのどかな散歩道だろう。
「この辺、本来はレベル30くらいの魔物が棲んでるのよ。いくらスキルの無効化ができるあんたでも、ステータスと数の暴力で即やられるわ」
「そうなの? 魔物なんか異世界に来て一回も見たこと無 キュインキュイン いけど。」
「私と一緒に居るからよ。私レベル74だから、この辺の魔物は怖がって近づいてこないの」
知らなかった。彼女が魔除けになってくれていたのか。ありがたや、拝んだりした方が良いのかな。
「ところであんたがトンネルを指さしてくれたおかげで、意外な穴場に気付いたわ」
ゲーミング花秦はそう言って、トンネル付近の土壁へと赴くと、壁面に生えたクローバーを1本引き抜く。キュインキュインとそろそろノイローゼになりそうな音が鳴り響き、抜かれたクローバーは赤く変色した。虹、金に次ぐ3番目の当たりカラーらしい。良かったね。
壁面に生えてまでたくましく生きるクローバーを容赦なく引き抜いていく虹女は、壁面の上の方を見上げると、突然作業を中断して俺に話しかけてきた。
「あんた、台になってくれない? 肩車して」
「なんだよ急に。何もしなくていいんじゃなかったのかよ」
「いいじゃないちょっとくらい。確変に入ったから今日で必要分は取り切れそうなのよ」
それがどうして俺が働かないといけないことに繋がるのか。俺の腰の重さを舐めてもらっては困るぞ。
「完全栄養食のぶんってことで、お願い」
むう。栄養食は今日も貰ったし、確かにタダで2食も貰うと後が怖いか……
この女に借りを作るといつしか無茶ぶりをされそうである。肩車でチャラになるなら安いもんだろう。
「肩車か。……なあ、お前に触ったら死ぬとかないか? 無敵状態みたいになってるけど」
「ないわよ! 確変はいつ終わるかわかんないから早く! あとお前って呼ぶな!」
そっちは『あんた』なのに。
「まあそう焦るなって。転んだら危ないだろ」
壁面に向かってしゃがみ込み、花秦に肩に座るよう促す。
「私くらいレベルを上げれば転げ落ちるくらいじゃケガしないわ」
俺はケガしうるじゃん、と思いながら肩に彼女を乗せて立ち上がる。意外とスックと立ち上がれて、逆にバランスを崩しそうになる。
「それなりの重量は覚悟してたけど、なんか軽くね? 飯食ってる?」
「前置きが失礼ね! ……あんたのために『軽業』のスキルを発動してあげてるのよ」
またもやスキルか。便利なこった。
「俺ってスキル無効化するんじゃないっけ? なんで軽く感じるんだ?」
「『軽業』は自身に掛けるバフスキルだからでしょうね。素早さが上がったり、体重が落ちたりする効果が私にかかってるのよ。あんたには関係なくスキル効果が完結してたら無効化されない、ってことよ」
「ほーん」
実際に体重も落ちるなんて、なんだか女子人気が高そうなスキルだな。
キュインキュイン。
俺の献身の甲斐あって、いくつかの当たりを引けているようだ。
「左に移動して」
「はいはい」
「ストップ」
「はいよ」
彼女の足として移動もこなす。
面倒な仕事だが、実際にやってみると”ある利点”に気が付いた。
「よ……いしょっと!」
彼女が遠くのクローバーを取ろうとするなどして力むたびに、彼女の脚が俺の首から上をちょうどいい具合に締め付けるのだ。
「むほほ」
マゾ性感の趣味は無いが、女体の柔らかい感触を感じられるのは役得である。身体が1677万色に輝いているが、ホットパンツから伸びる地肌のすべすべ感も心地いい。
「大丈夫? なんか変な声出してない?」
「いや、問題ない。脚に挟まれて気持ちいいだけだ」
「え? キモ!」
「うわっ! おい! 暴れるな!」
花秦が暴れたせいで2人ともドシン、と派手に転ぶ。
「いつつ……おい、危ないだろって」
「あんたがキモいこと言うからじゃない」
俺の上から転げ落ちたとは思えないほどピンピンしている彼女が、立ち上がりながらジト目で俺を見る。
「大丈夫か聞かれたから正直に答えたまでだろ」
「正直すぎるのよ!」
「ムッツリ隠し通しておいたら良かったか?」
「いや、それも……微妙ね」
「だろ?」
俺はアメリカンジョークを吐いたがごとく、肩をすくめてヤレヤレといったポーズをとる。
「何誇らしげにしてるのよ……はあ。意思の薄いあんたは性欲なんか無いと思ってたわ」
「なわけ無いだろ。性欲のない男子高校生なんてよっぽどの特殊個体だ」
男の性欲を甘く見るなんて、意外に危なっかしい所もあるんだなお嬢ちゃん、HAHAHA。
「だいぶ特殊個体でしょ、あんたは」
「え?」
普通だろ。俺は一般的男子高校生だ。体重の分の失礼ポイントはチャラだな。
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なんやかんやして確変演出も収まり、必要分のクローバー刈りを終えたらしい彼女を追って帰路につく。早めに切り上げたので、昨日と違いまだ日も落ちていない。
やはり太陽光のある山道は下りやすい。昨日の帰路は歩きにくくて仕方なかったからな。
花秦になぜか魔力を纏いながらの歩行を強く勧められたので、言われたとおりにしながら下山する。
「なんでまだ体力レベルを上げないといけないんだ? 俺はもう冒険には金輪際出ないぞ」
「……体力が上がったら何かと便利でしょ。あんたのためを思って言ってるのよ」
こいつ、また何かと理由をつけて俺を連れ出すつもりじゃないだろうな。俺はそういうことには敏感なのだ。
ティロンティロンティロン!!
本日何回目か、異世界に似合わない音がこだまする。
「な、なんだ!? また確変か!?」
「違うわよ! これは……緊急連絡よ!」
どうやら花秦のスマホの通知音だったらしい。音デカいぞ。
「内容は……『はじまりの街に最上位魔物』!? うそでしょ!?」
「なんだって?」
「非常事態よ! 猛ダッシュで帰るわよ!」
へ?




