6話:え、ゲーミング女子高生!?
「ふぅ……こんなもんね」
今日もSNSでは絶えず喧嘩が起こっている。率先して発言をしなければ良いだけなのになあ。
「終わったから帰るわよ。もう18時過ぎだし、帰る頃には真っ暗ね」
この投稿面白いな。最近流行ってるこの構文好きなんだよな〜。
「おいっ!」
「うわ! な、なんだ!?」
突然聞こえた大きな声に驚きスマホから顔を上げると、クラスメイト・花秦しぐれが居た。周囲には幻惑のオーラが漂っており、空を見ると夕暮れに差し掛かっている。
ここは確か、異世界のクローバー畑だ。スマホを見るのに熱中していると、自分がどこに居るのか失念してしまうことがある。
「はぁ……帰るわよ」
「おお。はーい」
採取作業を終えたらしい花秦が、来た道に向かってスタスタ歩いていく。スマホを見ながら彼女について行っていると、歩きスマホはやめなさい! と叱られてしまった。ぐぬぬ。
クローバー畑と山林地帯を繋ぐトンネルを、スマホのライトで照らしながら歩く花秦は、なんだか少し早足だ。様子を見るに、何か考え事をしているようだ。
「ちょっと早いぜ。俺が一般人なのを忘れたのか?」
「ああ、ごめんなさい……いや、よく考えたら私が謝ることでもないわね。あんたが遅刻しなかったらもっと余裕を持って採取に時間を使えたんだし」
軽口を言う彼女は、歩調を緩め、やはり考え事をしながら歩く。
「暗いとこをボーっと歩くと危ないぞ」
「歩きスマホしてた奴に言われたくないわよ」
「そんなに何を考えてるんだ?」
「あんたの事よ」
「え!? マジ!?」
一日一緒に行動しただけで惚れてしまったんだろうか。俺も罪な男だな。
「変な勘違いしてない? あなたの≪固有能力≫の事よ、私が考えてるのは」
「ほーん」
「やっぱりどう考えても強いわ。だからあんたを全力で勧誘するわね」
「おーん……え、絶対やだけど」
「運が悪かったと思って諦めるのね。私はしつこいわよ」
その後、歩きながら宣言通りしつこく勧誘してくる花秦。だが、今日だけで往復6時間歩くハメになる経験をした俺には、ちょっとやそっとの勧誘はなかなか通じなかった。絶品スイーツを再び奢ってもらうという案も、さすがにダルさが勝つのであった。勧誘・セールスお断りである。
しばらく歩き、すっかり辺りも暗くなった。下山も終え、俺たちは川沿いの草原まで戻ってきている。勧誘のネタも尽きてきたころ、彼女はふとこんなことを言った。
「そうだ。あんたの場合は、常に魔力を出して歩くのが良いんじゃないかしら。体力レベルを上げときましょう」
「はあ?」
急になんだ? たいりょくれべる?
「あんた装備が効かないでしょ? だからあんた自身の体力レベルを上げないとまともに冒険ができないじゃない」
「いや俺、冒険に出ないし。そもそも魔法? 魔力? の出し方もわからんぞ」
「スマホ貸しなさい。私がやってあげるわ」
「え、やだ……」
「いいから」
しぶしぶ花秦にスマホを差し出す。まさか1日で2回も他人の手に愛機を握らせることになるとは。
「はい、魔力放出ON。放出量は最小で継続ね。あとはこのまま帰るだけで修行になるわよ」
「え、何? なんか変な感じするんだけど。転移してきたときの小さい版みたいな」
なんかこう、フワッとした何かに包まれていって、少し気持ちいい感じ。転移当時ほど眩しいというほどではないが、ほんのり光を感じる……ような気がする。気のせいと言われれば納得する程度だが。
「へえ、知らずにそこに気が付くのはセンスあるわね。魔術師として結構いい線行くんじゃない?」
花秦の説明によると、例のクラス転移は俺たちの魔力を利用した超上位魔術だったらしい。かみさまの手によって無理やり魔力を操作・増幅・放出させられていたので、当時は眩しいような感覚になったとのこと。勝手に何してくれてんねん。
「で、かみさま謹製のアプリの操作でも自分の魔力を操作できると」
「そういうことよ」
「うわ、なんか……キモいな。身体機能がアプリのボタン一つで操作できるなんて、ロボットにでもなったような感覚だ」
心地よかったはずの魔力の光(?)が、この情報を知ることでかみさまに全身をまじまじ見られているかのような不快感に変わってしまった。
「さっきも言ったけど、魔力を自分の身体機能として捉えられるのって、結構繊細な魔力センスがある証拠よ。私なんて鑑定を使わないと自分が魔力を纏ってるかどうかも判別つかないもの」
「褒められても冒険には出ないぞ……これ、OFFにしないか? なんか鳥肌立ってきた」
「けどONにして帰るだけで、明日はちょっとくらい楽になると思うわよ。体力レベルはスキルツリーの基礎項目だしすぐ上がるわ」
またスキルがどうとか言ってる。要素が作りこまれてると事前に必要な知識が多くて俺の食指は伸びないぜ。
って、前半何か言ってたな。
「ん? 明日何かあるのか?」
「何って……また私とクローバー畑に行くんでしょ。さっき約束したじゃない」
「してないけど」
「さっきしっかり頷いてたでしょ! さてはろくに聞いてなかったわね、もう!」
またもや花秦の説明によると、どうやら俺は今日の遅刻の詫びとして、明日も同じクエストに付き合わされるらしい。
俺の耳には飽きた話を右から左に受け流す機能が付いている。勧誘の狭間にそんな重要なことをポロっと言って頷かせるとは、この女策士である。
「まあ、遅刻は悪いとは思ってるし、もう1日くらいなら付き合っても……はっ!」
「何よ」
「まさか、明日も遅刻したら明後日も行かなきゃいけなくなるのか!? そんなの無限ループじゃないか!!」
「遅刻しなきゃいいでしょ! ……はぁ、じゃああたしが直接起こしに行ってあげるわ。どうせ電話しても起きないんでしょ」
「直接って、またドアをバカ殴りするのか? 近所迷惑だぞ」
「フロントで合鍵を貰っとくわ。良いわよね?」
「嫌だけど」
「……じゃあ1人で起きられるの?」
むぅ……完全論破か。俺の負けである。
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して、翌日の朝8時半頃、もはや歩きなれた草原。花秦に叩き起こされて引きずり出された俺は、なんだか歩くのが楽しかった。
「心なしかしゃっきり歩けるぞ。これが体力レベルの力か」
無尽蔵の体力というわけではないが、歩行による呼吸の乱れや慢性的な足の痛みがかなり軽減されているのを感じる。昨日の筋肉痛もほとんど感じない。ふむ。散歩を趣味にするのも悪くないかもな。
「しっかりレベルが上がってるみたいね。じゃ、早歩きで行くわよ」
「え?」
そう言ってずんずん歩き出す花秦を追っていると、10分、20分と経つうちに少しずつ疲れてきた。
前言撤回。しんどいっす。
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こうして約2時間でいつもの畑(2回目)にたどり着いた俺たち。ルーティン通り(2回目)、花秦はクローバー刈りに、俺はネットサーフィンに勤しむこととなった。
「よく飽きないよな。1本1本刈るのだるいだろ」
「飽きるけど、これが一番割のいい仕事なのよ」
「へえ。にしては同業者は誰もいないみたいだが」
街から山林地帯までの間は冒険者らしき人影もあったが、この畑方面では誰一人見かけたことがない。昨日も今日も貸し切りのクローバー三昧である。
「私とそれ以外じゃ効率が段違いだもの……あ」
ペカーン! キュインキュイイイイイイーン!!
「え!?」
アレ過ぎる爆音とともに、俺は信じられないものを目の当たりにした。
花秦の全身が虹色に輝いていたのである。
え、ゲーミング女子高生!?




