5話:交換なんかできないわよ
トンネルを抜けると、そこはクローバー畑だった。
「山の中にこんな場所があるんだなあ。さすが異世界」
はじまりの街の西門から歩きで約3時間。川沿いの草原から森に入りさらに奥に進み、鬱蒼とした山林に似つかわしくない人工物すぎるトンネル内をトコトコ歩き、足が棒になってきた頃に俺たちはようやく目的地に辿りついた。
妖しく輝くクローバーっぽい植物が足元を覆いつくしており、現実感がない。幻覚を見ているかのような気分になる。
「もうとっくにお昼も過ぎてるわ。何か食べましょう」
俺に装備の体力増強効果が適用されていないと発覚してからは意外なことにスロー歩調に切り替えてくれていた少女・花秦しぐれは、カバンから何かを取り出して俺に寄越す。受け取ったモノの包装紙を剥がすと、真っ黒で固い羊羹型の何かが入っていた。軽っ。食べ物かこれ?
「なんだこれ? 木炭?」
「見た目は悪いけど、万能の完全栄養食よ。冒険者はみんな持ち歩いてると言っていいわ」
「ふーん」
とりあえずバクっとかぶりついてみる。食感はまんまカ〇リーメイトだ。お、素朴な甘さで意外と悪くない。
「もう一本ないか?」
「はやっ!? よく噛んで食べないと体に悪いわよ。あるけどあげない」
キビキビ効率厨なはずの花秦は、俺と同じものを少しずつゆっくり食べていた。シゴデキさんは飯を食うのも早いと聞いたことがあったが、例外はいるものなのだろう。
ていうか昼飯1本だけっすか? 少なくない? ダイエット女子基準とかですか?
「こんだけじゃ腹膨れないぞ」
「完全栄養食だって言ったでしょ。ちょっと待てば1食分食べたくらいの満腹感になってくるわ。スキル効果でもなくて単純に栄養価が高い食べ物だから、装備効果とは違ってあなたにも効くはずよ」
「すげえ。なんだそれ。ちょっと怖い」
スキルや魔法関係なく、単純な栄養パワーが高い万能食品。こんなものが地球にあれば食糧問題は爆速で解決に向かうんじゃないか。やはりここは異世界なのだ。
なんとなく、異界の食べ物を食べたらもう元の世界には戻れない、的な日本の伝承を思い出す。これ食ったせいで帰れなくなったら困るな。まあ宿の食堂で1週間くらいバクバクこっちの飯を食ってたからもう手遅れではあるが。
「それじゃ、休憩も終わったし早速狩っていくわよ」
「おう。頑張れよ〜」
「……分かってはいたけど、本当に働く気ゼロなのね」
当然だろう。クエストの人数合わせで着いてくるだけで良い、という契約で絶品フルーツパフェを頂いたのだから、俺にここで何かをする義務はない。なんもしない人としてレンタルされたのなら、俺はなんもしない。
かと言ってただ突っ立っているわけではない。俺はポッケからスマホを取り出し、SNS確認作業に勤しむのだった。
キュインキュインキュイン!!
「うわ! 何だ!?」
花秦の方から、幻想的な空間に似つかわしくない電子音(?)が聞こえた。
何これ? 三点方式でお馴染みの某電子遊戯みたいな音だったけど。
「当たりね。さっそくひとつ四葉が出たわ」
彼女の手元をよく見ると、金色に輝く四葉のクローバーが握られていた。
「え、何? どういうこと?」
「ブリーチ・クローバーは当たりがあるのよ。これは上から2番目の当たりね」
そう言って彼女は金クローバーを丁寧に手持ちのケースに入れた。
ブリーチ・クローバーとやらがこの幻妖たるクローバーの品種名のようだ。なんとも奇怪である。ダラダラ過ごして1週間、異世界に来た実感というものがようやく湧いてきた。
作業を続ける花秦は、採ったクローバーが白く脱色しシナシナと枯れていくのを確認すると、乱雑に腕にかけたバスケットに放った。すぐに2本目を抜く。白、ハズレ。3本目。白、ハズレ。
「一気に抜いた方が効率よくないか?」
「1本ずつじゃないと当たりが出ないのよ。面倒だけど、そういう性質だから」
「へ〜」
そうなんだ、と思い俺もクローバーをゴソッと引っ張り取ってみる。10数本採れたが、全て白く枯れていった。
「ちょっと! ……天然記念物だからあんまり雑に扱うと投獄されるわよ」
「え! 先に言ってくれよ」
「言う暇もなく引き抜くから!」
花秦はもう、と言い作業を続ける。基本的に白ばかりだが、たまに青いのが出たり、緑のがでたり。
緑は地球では普通の色だが、この品種では中当たりらしい。
「面白そうだな。俺もやろ」
「良いけど私ほどはポンポン当たらないわよ。1時間で1本色付きが出たら良いほうね」
「そうなの? なんで?」
花秦は2〜3分に1回当たりを出している。あまりに排出率が違いすぎないだろうか。
「はあ……来る途中で言ったでしょ。私の≪固有能力≫は『幸運』なの。だから当たりのクローバーが出やすいの」
「え〜、ズルくない? 俺のと交換しようぜ。そしたら帰りは装備で楽して帰れるし」
「交換なんかできないわよ! 1人ひとつの特殊な能力なんだから!」
そういうもんなのか。残念。
試しに1本抜いたクローバーは、色が抜けて枯れ落ちていった。
おとなしくスマホでも見ていよう。




