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異世界でチートを貰ったけど能力者アプリの通知はガン無視してます  作者: 宮原 鱒寿司


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4話:単純にアレなのね

 ドンドン!!


 ドンドンドンドン!!!!


 重く響く音で目が覚める。


「ふああ……なんだ?」


 ドンドンドンドン!!!!

 脳が覚醒していき、その音が自室のドアから鳴っていることに気が付く。


「なんなんだ一体……」


 ベッドの中でもぞもぞと動き、枕もとのスマホを点け、時計に目をやる。09:45。


「おお、俺がこんな時間に目覚めるなんて珍しい……」


 ドンッ!! ドンッ!!

 ノック音がヒートアップする。何かの緊急事態だろうか?


「あ」


 そうして俺は全てを思い出した。その残酷な真実に、背中がぞくりと冷え始める……


-----


「で?」


「はい、『で?』といいますと……」


 冒険者姿で桃色の髪をツインテールにまとめあげた少女、花秦しぐれは、俺こと髪ボサボサでパジャマ姿の片渡佑翔の胸倉を掴む。


「言い訳を聞いてあげるって言ってるの」


 奇麗な顔には青筋が浮かび、言い訳を聞いてくれる人の表情でないのは明らかだった。


「ゲームをしたり、動画を見たりしていたら、気づけば深夜になっていました」


「……」


「……誠に申し訳ありませんでした」


 俺は90°のオジギを敢行した。謝るのは早い方がいい。

 そうすると頭上の彼女は、ふう、と言うやいなや俺の頭蓋をひっつかんで頭を上げさせた。


「まあ、過ぎたことをグチグチ言う趣味はないから、このくらいにしといてあげる。10分あげるから準備をしなさい」


「はい、ありがたき……」


 俺がありがたき幸せ、と言いかけたところで彼女は俺の部屋から速足で出ていき、戸をバンッ!と閉めていった。自身の感情と切り離して合理的判断に切り替えられるのはクレバーな証拠である。伊達に学年1位の学業成績を収めてはいないということだろうか。

  出かける準備と言われても、制服を着てスマホをポッケに入れるくらいしかやることはない。異世界には通学カバンの準備がない分、極限遅刻戦士である俺には文字通り朝飯前である。

 1分後、着替えを済ませた俺はドアを開けた。


「では行きましょうか」


「はやっ!?」


 ドアを開けてすぐ花秦と目が合った。部屋の向かいの壁にもたれかかって待っていたようだ。

 虚を突かれたような表情の彼女は俺の全身を見定める。


「……いや、()()()すぎ!」


「ちゃんと制服に着替えてますが……」


 転移してからほとんど活動していない俺は、高校の制服、宿の備え付けのパジャマ、左に同じバスローブしか持っておらず、3種類のローテ生活だ。外出には制服が一番マシというわけである。


「服装はどうでもいいのよ! 髪ボサボサでよだれの跡も付いたままじゃない! みっともないわ」


「意外と他人は自分の恰好なんて見てないもんですよ」


「じゃあ私が見てて不快だから直してきなさい!」


「えー」


「えーじゃない!」


 俺はしぶしぶ部屋に戻り、備え付けの洗面台へと赴いたのだった……


 ついでにトイレに行ったりもしたので9分後、俺は再び彼女の前へと顔を出した。なんやかんやで10分という見立ては適切だったようだ。


「どうですか」


「とっとと行くわよ。時間が押してるんだから」


 バッチリ整えた俺の姿に見向きもせず、花秦はつかつかと階段へ向かっていく。

 3階にある俺の部屋から、1階のロビーへ。ずいぶん速足な彼女を必死のパッチで追いかける。ギリギリ走っているといっても差し支えない速さであった。


「……ちょっと、スピード落としてくれませんかね」


「気持ち悪いからその敬語をやめなさい」


「はいよ」


 一切スピードを緩めないまま、彼女は宿の扉を開いて出ていく。後に続くと、約1週間ぶりの太陽(?)が俺を照らした。


「眩し~」


「黙 っ てついてきなさい」


「……」


 怖いぜ。

 その後、俺は宿から徒歩2分の装備屋で適当な装備一式を買わされた(勇者なのでタダ)。この装備を着て目的地へ向かうことになり、じゃあさっき制服に着替えなくて良かったじゃん、と思ったが花秦が怒りそうだったので心に留めておいた。


 街に流れる大きい川に沿って上流方面へと向かう。30分ほど歩いて郊外と言える草原風景になったが、まだ人の往来もぼちぼちある。でっかい荷台を引く馬車とすれ違ったときは、つい感嘆の声が出た。異世界アニメの描写は正しかったのだ。

 そんな感じでさながら爽やかな散歩道だが、運動不足の俺には少々きつい道のりであった。単純にスピードが速いし。


「ふぅ……ふぅ……」


「ちょっと、大丈夫? なんでそんなバテてるのよ」


 俺がグロッキーに片足突っ込んでゼェハァ言っていると、花秦は不思議そうに俺を心配してきた。冷徹ロボットだと思っていたが、人を心配する機能があったのか。


「いや、はぁ、息を切らさず、ここまでノンストップで、小走りするのは、ふぅ、だいぶ超人寄りだと思う、ぞ」


 文武両道の天才美少女と一緒にされると困る。俺は一般的なインドア高校生なのだ。


「はあ? いやいや、超人じゃなくたって上級装備を着てたら普通よ。そのへんのおばあちゃんだってあなたの装備ならフルマラソン走れるわよ」


「んん? どういうことだ?」


「……装備の効果が出てないのかしら。まさか不良品……なわけないわよね。神の直営店で」


 花秦は訝しんで俺の身体……もとい装備品をベタベタ触り始める。あ、あんまり男子にボディタッチしないほうがいいですよ。そ、そこは……


「あふん」


「変な声出すな! ……うーん、そこそこ魔力も纏ってるし普通の強い装備にしか見えないわね……」


 ボディタッチを終えた彼女は、全く見当がつかないといった様子でブツブツ呟きだした。立ち止まってくれているので休憩になって助かりまくりだ。


「……なあ、この装備ってそんなスゴいものなのか? 俺には魔力なんて見えないし、ちょっと着心地が良いくらいなんだが」


 俺が着ているのはいかにも異世界の村人然とした服だ。全体的に茶色っぽく、質素なデザインで動きやすい長袖長ズボンにスニーカーっぽい青みがかった靴。剣や鎧なんて冒険者っぽい要素はない。彼女の言う神の直営店、とやらに()()()()()という方が俺には納得感があるくらいだ。


「魔力が見えるのは私が鑑定レベルを少し上げてるからよ。……詳しい鑑定はできないから断言はできないけど、やっぱり装備には問題ないと思うわ。問題があるとしたらあんたの方ね」


「失礼な。さすがにそのへんのおばあちゃんよりは体力あるぞ」


「わかってるわよ! そうじゃなくて、魔法的な問題。……あんた、≪固有能力≫(ユニークスキル)は何?」


「え? 知らんけど」


 花秦は煩わしそうにため息をつき、自身の髪を指先でいじくりながら言う。


「隠すことないでしょ。魔王討伐レースに参加する気ないんなら駆け引きも何もないじゃない」


「ゆにーくすきるって、俺たちクラスメイトそれぞれに与えられてる特別な能力だよな? 隠してるんじゃなくて、知らないんだって」


「……は? なんで知らないのよ」


「? なんでって、能力者アプリを開いたことないからだが?」


 理解できない、といった様子で彼女の表情が固まる。開いたことないものは仕方ないだろう。そもそもそんなアプリが俺のスマホに入っているかどうかも俺には定かではないのだ。探そうとしたこともないから。

 彼女は逡巡し、いくつもの疑問を飲み込んだあとに言葉を絞り出し、


「……あんたって、単純にアレなのね」


 と言った。なんだかすごい悪口であった。続けざまに彼女は言う。


「じゃあそういうアレだったのね。今朝、能力者アプリ内のトークで私のメッセージをフル無視してたのも。何回電話かけても出なかったのも」


「あー、俺常にマナーモードだし? どれだけ通知が溜まっても見ずに気にしないでいられるタイプだから」


「すぅー……ふぅ、よし。6秒、6秒、こういう奴だとわかって組んだのは私、これも私の確認不足……」


 ブツブツとアンガーマネジメントに勤しむ花秦。殊勝なものである。宿題を一切やらない俺への説教で何度も授業が中断された経験を持つクラスメイト達は、関わりが少なくても俺の人となりをなんとなくわかっているのだ。

 爽やかな風が吹く川沿いの草原での深呼吸は効果てきめんだったようで、その後どうにか笑顔を貼り付け、彼女は俺に手を差し出し言う。


「じゃあ、あなたのアプリを見せてもらえるかしら? そこでお前……あんたの≪固有能力≫(ユニークスキル)が確認できるはずだから」


 ぐちゃぐちゃの2人称で俺にスマホを要求する。しかし、誰しも自分のスマホをいじくられるのはちょっと嫌なものである。


「え、人にスマホ見せるのはあんまり……」


「はいはい、あんたも見ながらでいいから。とっとと渡しなさいよ」


 痺れを切らした花秦に半ばひったくられる形でスマホを取られた俺は、しぶしぶ彼女が俺のスマホを操作するのを見る。


「うわ、通知多っ。どれだけズボラなのよ」


「本題はそこじゃないだろ。早く返してくれよ」


「うるさいわね、わかったわよ……えーと……あったあった。能力者アプリがこんなスクロールしないと出てこないの、あんただけよ。今や私たちのSNSでもあるんだから」


「おお。俺のスマホにも入ってたんだなぁ。無いもんだと思ってたぜ」


 彼女はもうツッコむ気にもならない、といった様子で俺の顔をしばらく見た後、スマホに目を戻して慣れた手つきでアプリを操作する。


「はい。これがあんたのマイページね」


 そう言って見せられた俺のスマホには、俺の名前やレベル、ステータスが表示されている。まんまゲームだなこりゃ。


「なあ、俺アカウント登録とかしてないんだけど。IDとかパスワードは?」


「そんなん無いわよ! 勝手に登録されてんの! 転移してすぐにみんなでいろいろ確認したでしょ!」


「んん、あの青空教室は風景がのどかで、うとうとしちゃっててな。大半は聞いてるフリで流してた」


「ギギギ……もう!」


 もう! とだけ言って百の罵倒を嚙み殺したであろう彼女は、俺のステータスをざっと見てなんだかブツブツ言った後、マイページから≪固有能力≫(ユニークスキル)をタップした。画面にはデカデカと『無視』と表示され、その下にゴチャゴチャと文章が書いてある。


「『無視』? なんだこりゃ?」


「あんたの≪固有能力≫(ユニークスキル)名よ。効果は下に書いてあるわ。えーと……『スキル効果を無視する。これはあらゆる物理的・魔法的スキル効果に適用される』!? な、こんな能力があるのね! へぇ、これは……うーん、そうね」


「花秦って意外と独り言多いよな」


「あんたは余計な一言が多い! ……とりあえず、あんたに装備の効果がかからない理由はわかったわ。なるほど、装備にまで影響する能力ってわけね。デメリットも大きいけど、これは……」


「おい、一人で納得しないでくれよ。結局どういうことなんだ?」


「……話聞いてればなんとなくわかったでしょ」


「いや? あんまり聞いてなかったし」


「アアっ!! ええ、そうね。そういう奴だったわね、うん……はぁ……」


 暴れる情緒を抑えたあと、花秦先生は息を整えて説明を始めた。なんか俺よりバテてる気がするな。


 しばらくして、俺も理解した。


「……なるほど。つまり、≪固有能力≫(ユニークスキル)のせいでこの装備の体力増強効果が俺にかかってなくて、本来楽勝で全力ダッシュもできるはずのこの装備でも俺は素の体力でやっていかなきゃいけない、と。え? ヤバ。超ハズレスキルじゃん。無い方が楽って」


「いや、そうでもないわ」


「そうでもあるだろ! みんな勇者特典で無料のらくらく装備で冒険してる中、俺だけ素っ裸も同然じゃん! あー、こりゃ無理だわー、やっぱり宿でおとなしくしとくべき人材だわー、今日も解散してゆっくり帰った方がいいわー」


 俺がここぞとばかりに終了アピールをするのをジト目で見て本日幾度目かのため息をつき、真面目な顔で彼女は言う。


「帰さないわよ。 それに、そう感じるのもわかるけど、素のステータスさえ伸ばせばそこで装備効果は代用できるし、努力次第でいくらでも巻き返せるわ。スキルの無効化なんて、戦闘にとても役に立つ人材よ」


 ……ん? なんか、雲行きが怪しいぞ。なんだか高評価されてる匂いがする。良くない流れだ。


「良いから! 大丈夫だって、宿でゆっくりしとくからさ! ほら、不便の方が目立つって!」


「あんたの≪固有能力≫(ユニークスキル)はぶっ壊れよ。デメリットなんて余裕で消し去るレベルのね。……ねぇ、よかったら私とパーティを組んで魔王討伐に協力して欲しいんだけど」


 こうなると思った! 俺はニート生活したいのに!

 努力なんてコリゴリなんだって!

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