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異世界でチートを貰ったけど能力者アプリの通知はガン無視してます  作者: 宮原 鱒寿司


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2話:まあいっか

 ある朝の教室から突然異世界に転移した俺たち2年3組のメンバー。

 どうやら、異世界転移やらなんやらを事前に知らなかったのはクラスで俺だけらしい。他の連中はというと、転移の前日の時点で能力者アプリとやらの通知を確認していたようだ。直接アプリに気が付かなくても、LEINやニンスタでの情報交換が行われており、例外(俺)を除いたみんなは次第にこの話題にお熱になっていった。ただのタチの悪いイタズラと切り捨てる者、ガチでウキウキのチート勇者気分でいた者など反応はさまざまだったが、なんにせよ俺だけはその盛り上がりから外れたまま当日を迎え、ヌルっと異世界まで来てしまった、というのがあらすじである。


 さて、現在の状況だが、異世界転移の日から時は経ち、1週間ほどが経過していた。


「ふあぁ……もう昼か……」


 時刻は13時を回っている。この世界はもといた地球とは全く違う場所だが、おおよそ地球と同じようなサイクルで時間が進んでいるらしい。転移者としてはありがたいことである。

 だというのにどうしてこんな昼間に起きているのか……と思われるかもしれないが、すこし事情があるのだ。


「あー、昨日は疲れたなあ……」


 俺はそう言いながら、朝風呂(昼風呂?)の支度をする。俺こと片渡(かたわたり)佑翔(ゆうと)は、昨日の深夜、ギルドメンバーと協力して約2時間にも及ぶモンスターとの激闘を演じたところであり、風呂にも入っていないのだ。

 俺は宿の個室の戸を開け、浴場に向かう。この世界にも風呂がある。これは現代日本人にとっては嬉しいことだ。毎日の風呂が体調・メンタルの保全に一番効く。キクったらキク。


「勇者様ですね。どうぞ」


 宿に併設された大浴場。その受付をする番台が俺の顔を見るなり入湯を許可する。能力者アプリを持つ我々勇者は、だいたいの公共施設がタダなのだ。


「ふぃ~……極楽……」


 脱衣やかけ湯を早々に済ませ、一番大きな浴槽にざんぶと入る。温かくて気持ちいい。やはり温泉は最高だ。しかも、今は貸し切り状態のようだ。昼間だもんね。

 え? 他のギルドメンバーはどこだって? 仕方ない。紹介しよう。ギルドメンバー一覧はアプリ内で確認できるのだ。


「えー、スマホやーい」


 びゅーん、と脱衣場からスマホが飛んでくる。異世界転移に際して、俺たちのスマホには紛失防止機能が付けられたとのこと。呼ぶだけでひとっとび、持ち主の元へ駆けつけてくれる。さながら筋斗雲である。


「ふんふふ~んっと」


 俺は陽気に鼻歌を歌いながら、自らの愛機を操作する。え? 温泉でスマホを使って大丈夫なのかって? 大丈夫。かみさまってのは完全防水機能もサービスしてくれたようで、どんな水魔法を食らってもスイスイ動くらしい。


 あ、浴場はスマホ禁止とかそういうほう? ……まあ、貸し切り状態だしいいでしょ。誰も来やしない来やしない。


※現代日本では、ほとんどの公衆浴場で脱衣所・温泉内でのスマートフォンの使用は原則禁止されています。マネしないようにしましょう。


 どれどれ……よし。俺はスマホを操作して能力者アプリを開く……と思いきや、お気に入りのソシャゲを起動する。

 これが昨日俺と戦いを共にしたメンバーだ。ギルドリーダーの『†Hiro†』、前衛アタッカーの『ミスター梅肉』、ヒーラーの『もも@泥up5』……昨日主にイベントレイドを回していたのはこの3人と俺こと『y』の4人だ。みんな、なんとなく今回は回すか……と集まっただけ。まあ、中級者の集まるギルドのモチベなんてこんなものだ。俺も興が乗った時しか参加しない。他ゲーもやってるし。


 さて、詳しいメンバー紹介だが、『†Hiro†』は限界社会人でこのソシャゲをβ版からプレイしており、新規にも優しく教えてくれたり……え、なんだって? うん。うん。ああ、はい、昨日の2時間の激闘っていうのはもちろんゲームの話ですよ。能力者アプリ? 異世界の勇者? あぁー、そういうのは他のクラスメイトに任せてます。


 俺は、普通にはじまりの街の宿でぐうたらニート生活を楽しんでますよ。


-----


 自室に戻り、ベッドに倒れこむ。宿のバスローブに身を包み、ホカホカでスマホをいじる。

 もはやこの異世界生活にも慣れてきた。というか、現世での休日となんら変わらない生活である。(なんなら現世より結構良いまである。)体感としてはもう、夏休み序盤の感じだ。最高。


 スマホゲームもいいが、なんとなく動画アプリを開き、雑多にスクロールする。好きなボカル曲だったり、配信者の切り抜き動画などのサムネイルが目を滑り抜けていく。その中に、目につく動画を見つけた。


 〇〇県H高校大量失踪の謎、という動画である。


『どうもみなさん、こんばんは。今日は巷を騒がせている、あの失踪事件について解説していこうと思います──』


「おー。やっぱずっと話題になってるなあ、俺たち」


 話題の移り変わりがヘヴィメタ曲よりも激しい令和のインターネットにおいても、日本国内での大量失踪というのは1週間も最先端を走り続ける衝撃的な話題のようだ。




 俺たちがこちらに転移した5月19日。昼前のネットニュースやテレビ速報に、信じがたいニュースが飛び込んできた。

 『〇〇県内の高校生41名が行方不明』『教室から突然消えた学生達』。そんな謎多き事件は、人々の関心を大きく取り込んだ。

 さらに、このニュースを大きく広めたのは、ネットのあちこちで散見されたこんな噂である。『失踪した生徒たちはSNSで家族や友人とやりとりを続けている』というもの。失踪という概念とはかけ離れたそんな噂に、人々の知的好奇心という台風はじわじわと成長していった。


『謎多き事件として十分話題になっていた本件ですが、さらに衝撃の展開が待ち受けていたのです──』


 俺は事件解説系TheTuberの動画を見続ける。自分たちのことなのに、彼の話がうまくてすっかり惹き込まれてしまっていた。

 次に世間にバラまかれた情報という名のエサは、『生徒たちは異世界で勇者としての資格を得て冒険をしている』というものであった。この情報が出たとき、本件の注目度はピークに達したと言えよう。もともと謎多き事件として、世間からは『神隠し』だの『学校の陰謀』だの好き勝手言われていたが、なにせ、警察からの()()()()で、勇者だのなんだのいう情報が出てきたのである。


『噂では県警幹部のお子さんであるMさんも2年3組に所属しており、異世界転移後にも父である幹部とのやりとりをしていたそうでして。なんと失踪から2日後の21日の夕方ごろ、〇〇県警から、この冗談のような発表が行われました──』


 失踪した高校生41名は、全員異世界へ転移した可能性が高い。19日以降に聞き取りを行った生徒親族らの証言する『子供たちからのSNSでの報告』はおおむね矛盾なく一致しており、異世界と我々の世界はなんらかの方法でインターネットでつながっているとされる。そして、その生徒たちは異世界で勇者として活動し、魔王を倒すことが帰還条件である。

 ここまでがおおまかな警察発表文の要約である。この発表には世間も大盛り上がり。慎重で事なかれ主義なイメージのある日本の警察がこのような発表をしたという珍事件は海外にまで広がり、『リアル・トラック・イセカイテンセイ!』『キンテンドーの肉体ダイブ型ゲームデバイスのベータテストじゃないのか!?』など、世界を巻き込んだカオス状態となっていた。逆に現実主義的な意見として、『拉致されてスマホを奪われ、生徒のアカウントからなりすましメッセージが送られている』『青春真っ只中の少年少女による狂言誘拐的な失踪』といった冷ややかなものも散見された。


『さて、ここからは生徒たちの親族や、さらには生徒本人の可能性が高いSNSのアカウントを紹介していきま──』


 ぐぅ~。

 突然、腹の虫が鳴る。そういえば腹が減ったな。昨日の深夜以来なにも食べていない。

 動画は途中だが、まあいっか。腹ごなしに食堂にでも行こう。


-----


 スマホが示す時刻は既に15時に差し掛かっている。すっかり間食の時間だが、この宿の食堂はしっかりと稼働中である。厨房にはコックさんがいるし、ぼちぼち客もいる。今はクラスメイトはいないようで、なんだかアッパーミドルな雰囲気で欧風情緒あるお召し物をした異世界人のお客様が、ナイフとフォークで厳かに食事を楽しんでいる。

 流石、自称かみさまが俺たちのために用意した宿である。ここは冒険者向けにも展開している宿としては最上級の場所らしく、気分はブルジョワだ。本来、A級冒険者でも上級国民でもない俺のような人間がタダで連泊していいようなお宿ではないのだ。


「お待たせいたしました。本日のランチセットでございます。こちら、お箸をつけさせていただきます」


 適当に注文した日替わりランチセットが俺のテーブルに届く。今日も立派な品々だ。なんか白身魚っぽいやつとか、うまそうなスープとか、いい感じにフワフワなパンとかが俺の食欲をかき立てる。


「それじゃ、いただきまーす」


 俺は実家での飯のように、(おそらく)そこそこの高級食材であろう品々を箸でつついてはもぐもぐと貪る。これは決して俺がマナ悪というわけではなく、勇者である我々はマナーやドレスコードを気にせずこの宿を利用していいとのことだったので、ご厚意に従っているだけなのである。俺と同じ『はじまりの宿組』や『鍛錬組』の面々がこの食堂にいるのを見かけたこともあるが、テーブルでの様子は今の俺と同じようなものであった。


 このサラダ意外とうまいじゃん、とパクついていたそのとき、()()は突然俺の向かいに座った。


「あー……あ?」


 サラダを口に運ぼうとしていた俺はアホみたいに口を開け、突然の相席者に呆然とする。ややオーバーサイズの長袖黒パーカーの上から軽い鎧風の茶色い胸当てを付け、下はホットパンツという、装備効果を優先した冒険者特有のやや歪なファッションの女と会う約束をした覚えは、俺にはなかった。


「お客様はいかがなされますか?」


「そうね、それじゃこの人と同じものを」


「かしこまりました。すぐにお持ちします」


「ありがとう」


 彼女はウエイターに向かってにこやかに返す。慣れたものだ。


「……」


 対して俺は、箸でつかんでいたサラダをゆっくりと口に入れ、この状況と葉野菜を同時に咀嚼していた。とりあえず話しかけてみる。


「何か用?」


「あなたに用がないと食堂に来ちゃダメなの?」


「他の席も空いてるだろ」


「私はいつもここに座ってるのよ」


「1週間でずいぶん厄介な常連客になったんだな」


「失礼ね! 窓から景色が見やすいのよ」


 この女は、俺と同じく異世界転移してきたクラスメイトである花秦(はなばた)|しぐれ。桃色に近い赤髪をもっさりとした短めのツインテールでまとめており、各テールの髪ゴムに2つずつウッドキューブがついているのがチャームポイントである。自由な校風でもこの髪型は目立つ。なお、俺との接点は数回話した程度。


「あなたは『はじまりの宿組』よね? 魔王討伐に興味は無いの?」


「無くはないけど、ソシャゲの方が楽しいし」


「え? ソシャゲ? ゲーム? うそ!」


「ほんと。昨日も徹夜だった」


「なんてメンタルなの……あんた、クラスメイトの目とか気にならないの?」


 意外とズケズケ話しかけてくるな、この女子。クラスだとやや高嶺の花っぽくなっていたから、もっとおしとやかなもんだと思っていた。『あんた』とかいうのか。


「他にも『はじまりの宿組』は居るし、別に何も気にしない。なんでそんなこと聞いてくるんだ?」


「別に、ただの世間話よ。せっかく相席してるんだし」


 俺側に相席の意図が無かったのは明白であるが、俺はその言葉を魚の小骨とともに飲み込む。


「じゃあお前はなんで『鍛錬組』なんだ? 魔王討伐にそこそこ興味があるからか?」


 オウム返し質問。単純ながら世間話のよくある一手である。


≪固有能力≫(ユニークスキル)が戦闘系じゃないから。魔王討伐は本気で狙ってるわ。いつか『冒険組』を追い越すか仲間にして、絶対に討伐するつもり」


「ふーん。異世界の危機にずいぶん肩入れするんだな」


「いや、そういうわけでも無いけど……あんたは逆にずいぶんドライなのね」


「俺にとってはスマホとゴロゴロする方がホットだからな」


「ドライとホットって対応してないでしょ……はあ、あんたみたいな人もいるのね。世界は広いわ」


 彼女は肩をすくめ、珍獣を見るような目を俺に向ける。


「まさか、()()()()()()()()()って言われてもここまで無気力な人がいるなんて……」

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