11話:魔法のような力
旭美雪は逃げ出した。
ボランティアに行った教会に魔物が現れたからだ。
魔物は見るからに強かったが、≪固有能力≫が『逃避』だから、自分だけは簡単に逃げ出せた。
どんな状況からでも逃げられるという、魔法のような力だ。本当に魔法の力だ。
逃げ出した後、『はじまりの宿』の自室に隠れていた。逃げ隠れていれば、どうにかなると思った。
実際、どうにかなった。何者かが魔物を撃退したらしい。
遅れて到着した風間くん達が現地の兵士から『勇者様がやってくれた』と通達を受けたらしいが、なぜか誰が対処したのかはアプリ上のSNSでも不明なままだった。しかし、翌朝に花秦さんが命を投げうって撃退したと自らSNSに報告し、その謎は解けた。
街には再び平和が訪れた。花秦さんを含め、魔物に殺されたクラスメイト7名は翌朝に復活したし、現地人も門番や兵士が数名殉職したものの被害は最小限で済んだそうだ。
そして、美雪は詰んだ。どうしようもなくなった。
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「現場に落ちていた物でしたら、全て騎士団が保管しておりますよ」
自らのドロップ品を探し求める花秦しぐれと、その強制付き添いの俺こと片渡佑翔は昨日ぶりに教会にやってきたが、上記のように言われたので騎士団の本拠地へと身をひるがえした。
「魔物襲撃現場にあった物を見せて欲しいのだけど」
花秦が騎士団本拠地の受付にそう言うと、俺たちはへりくだる兵士Aに連れられて捜査本部へと招かれた。
この騎士団は『はじまりの街』の警察のような役割も担う大規模な組織で、昨日現場の前にいた兵士達はここの下っ端らしい。巡査が雑用をやらされていたといったところか。
刑事とか以上のレベルの連中は、昨日花秦が言っていたように街じゅうの要人の警護に回されていた。彼らが現場捜査に参加できたのは侍魔物の討伐(撃退)や他の不審者の潜入の痕跡がないことが確認された日没以降からだったという。警備機関と捜査機関が同じだとそういうバッティングが起こってしまうようだ。
まあ、魔王討伐を異世界の勇者に頼むような人手不足の世界なら致し方なしか。
「申し上げます! 勇者様をお連れしましたッ!」
「むッ! よくぞお越しいただきました! 全員、敬礼ッ!」
「ど、どうも……」
捜査本部はむさい男でぎゅうぎゅうになっており、とても暑苦しい。実際の温度・湿度に関わらず、暑くて苦しかった。
「現場にあった物品は、こちらになりますッ!」
手際よく差し出された物品の山から、花秦は自分の物をチャチャっと回収する。
「うん、過不足ないわね」
自己申告で事件現場の物を持ち帰っているが、良いんだろうか。
「こんなあっさり渡して大丈夫なんすか? この人が他人の物くすねたりしてるかもしれませんよ」
「大丈夫であります! 勇者さまがそのようなことをされるはずがございませんッ!」
「盗みなんて無駄にリスクの高いことしないわよ」
……リスクが低かったらやるの?
「ところで、あなたたちの捜査状況も一応聞いてみたいのだけど」
「こちらも、現場にいらっしゃった勇者様の証言をお聞きしたかったところでありますッ! 差し支えなければ、情報交換という形でお願いしたいです!」
「え、それ結構時間かかるんじゃ」
「良いわよ。もちろん私達2人とも」
「いや、俺は帰……」
「捜査協力、有難いですッ!」
俺の願いは大声でむなしくかき消され、1時間弱むさ苦しい空間に拘束されて質問攻めを喰らうのだった。
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「こんなところで良いかしら」
「疲れた……暑い……」
「問題ありません! 捜査協力、有難うございましたッ!」
捜査本部長は俺たちにビシッと敬礼を向ける。
「よっしゃ! やっと帰れる!」
「テンションがおかしくなってるわよ。あと、今から現場にも行くから」
「??????」
「最初から現場が目的地だったでしょ。私達でも検証するのよ」
「? ? ? ? ? ?」
「スペースを空けても無駄よ」
そ ん な あ 。
「それと、もしよろしければ、現場にいた他の勇者様たちにもご連絡をお願いしたいですッ! 彼女らからも証言をお聞きしたく!」
「ボランティアに参加してた子たちよね? 良いわよ、どうせ私も会う予定だし」
「俺は会わないので彼女に任せますよ! ええ、任せてやってください」
「……じゃあ、今度こそお暇するわ。あんたも行くわよ」
「は~い」
「お疲れさまでしたッ! 四天王を討ちし勇者様ッ!」
部屋にいる騎士全員が敬礼して俺たちを送り出す。討ってはないけどね。
騎士団本部を出て一息つく間もなく教会へ向かう花秦の尻を追いかけ、早歩きを続ける。
いくらなんでもキビキビしすぎてるぜ、この子は。
「着いたわね」
「そろそろお昼じゃないか? そこに飯屋が……」
花秦は俺の提案を無視して教会へ入る。昨日の今日だが特に立ち入り制限はされていない。騎士団は昨晩ザッと状況を捜査して物品を回収したらすぐ撤退したようだ。日本の感覚と違いすぎるな。
俺も中に入るが、ただの教会だ。さすがに今日はシスター達も出勤(聖職者の場合出勤と言うのか?)していないようで、照明に火が灯っておらずやや暗い。
「事件現場ったって別に何も無いだろ。帰って宿の飯食おうや。あそこの飯好きなんだろ?」
「静かにしなさい」
「……」
「……そうね。『鑑定』で見る限りでも何もないみたい。ワープのスキルの魔力残滓でもないかと思ったのに」
「ほら、無駄足だったって。成果なしで帰ろう、そういう日もある」
「何もないことが確認できた、っていう成果があるわ」
「ああ、はいはい」
「屁理屈だと思ってるでしょ。重要なことよ」
「思ってない思ってない。解散解散」
「雑になってきてるわね……はあ、分かったわよ、すぐ解散するから」
「よっしゃ! 帰ってゲームだ!」
俺は浮足立って扉へと向かったが、花秦は足を止めたままだった。
「何してんだ? 早く来いよ」
「まあそう焦らないで。解散はあの子の話を聞いた後よ」
「え?」
彼女が指さした窓の外には、うちの高校の制服を着た少女がこっそりこちらを覗いていた。
あれは確か、旭さんだったか。あまり目立たない同級生である。




