10話:全然わからん
花秦が生きているという衝撃の事実を知った俺は、顔を洗っていつもの無意味装備に着替えた後、彼女に着いて『はじまりの宿』併設の訓練場に行っていた。
「それで、魔物はなんか苦しみだして、バリアがどうとか言ってワープして行った。わけわからん」
「良かった。予想通りに保険が発動したのね」
「はあ。よく分からんが、やっぱり花秦が死に際になんかしてたのか」
自分で出した魔法の火球を頭上に飛ばし、落として自分にぶつける(無傷)という謎の行動をしながら俺と会話する花秦。つくづく意味がわからん奴だ。
「まずあの魔物を見たとき、普通に倒すか聖性エネルギーを浴びせて倒すかの2択を思いついたの。まあ、誰でも思いつくことだけど。だから後者の布石も用意しつつ普通に戦ってたんだけど、まさかあんなに早く殺されるとはね。でもやっぱりバリアを破壊するのは効果てきめんで良かったわ」
「???」
全然何言ってるか分からん。
「ちょっと話が先行しすぎたわね。ああ、どこから説明したらいいのかしら……あんたの場合はこの世界の一般常識すら知らないから、えっと……」
彼女は火球を浴びながら昨日起きたことを推定込みで要約してくれた。
まず、あの侍魔物は人間の街に潜入するため、特殊なバリアを張っていた。そもそも『はじまりの街』を含めた人間の巨大集落には聖性(聖なる属性)の結界が張られていて、どれだけ強力な魔物でも普通は侵入なんてできないらしい。入ると警報が鳴る上に、魔性(魔なる属性)である魔物たちは聖性のエネルギーと反発しあうため、大スリップダメージを負うようだ。
そのバリアの存在は鑑定スキルを使いまくったら分かったらしい。魔物が街に居るからには何かカラクリがあると睨んだ花秦は、1撃目を加える前に魔力を惜しみなく使って上級鑑定スキルで何度も侍を鑑定しまくった結果、きわめて薄い膜のような何かが見えたという。
接敵から1撃目って割とすぐだったと思うんだけど、判断早すぎじゃない?
薄い上に高度な魔術で巧妙に隠されていたためバリアの詳細性能は分からなかったが、バリア自体は聖性のエネルギーで作られていたという。そこに目を付け、花秦は1撃目の腕への攻撃で短剣に魔性のエネルギーを纏わせて攻撃してバリアに傷を付けた。バリア自体はすぐ修復されたが、魔性のエネルギーが腕部分のバリアの周囲に纏わりつき、魔性と聖性の反発によって微弱だがバリアはスリップダメージを受けていた。スリダメを回復するため、腕の部分のバリアは絶えず自己修復をし続けることになる。
腕を斬って普通にダメージを与えつつ、布石①の準備完了だそうだ。だから頭の回転早くない? 他のクラスメイトもみんなこんな感じで戦ってるの?
お次に例の魔法陣の登場。普通の煙幕+かく乱音を鳴らす一般的な魔法陣だそうだが、その煙は周囲にあるエネルギーを濃縮して作られているらしい。花秦はそこに目を付け、それを発動させた。布石②。
何がどう布石なのかわからん、と言うと、街中な上に教会だから周囲には大量の聖性エネルギーがあるのよ、と返された。花秦はそれで何かを説明したつもりの顔をしていたが、俺はだから何? という状態だった。
で、かく乱ついでに煙幕に紛れて普通に攻撃をしようとしたら、一撃で殺されてしまった。これは予想外だったとのこと。そりゃ自分の死を計画に入れるバカはいないとどこかの骨も言っていたしな。
予定していた布石③は未達成だった。しかし、最終的に偶然うまくいったという。『幸運』のスキルが効いたのかもね、と言っていたが、ここまで理論で流れを作ったのなら運勝ちでもない気はする。
ここからは推定多め。花秦の死後、俺は魔物と問答をした後に斬られそうになったわけだが、斬られなかった。これは『無視』のスキルのおかげだろうと。ああ確かに。敵の斬るスキルを無効化したのね。やるじゃん。ここで布石③と類似のことが起こった。プロセスは違うものの、バリアが一部消失したのだ。
俺の『無視』が、魔物の腕の部分のバリアの修復を無効化したのだろう、とのことだ。これ布石①で言ってたやつだ! ここテストにでるよ。
でも、自分へのスキルを無効化するスキルなのに、なんでバリアの修復が無効化されたんですか先生、と聞くと、花秦はさあ、とだけ言った。分からんのかい。
ともかくこれでバリアは割れた。自己修復もされずに割れたままのバリアは、一部が破れた宇宙服のようなもの。穴から布石②で用意しておいた特濃の聖性エネルギーが一気に流入し、魔物に大ダメージ。俺たちの勝利である。
「……みたいな感じよ。多分」
「結局全然わからん。推定ばっかりだし」
「しょうがないでしょ。現場検証もできてないんだし」
彼女はぶーたれながら俺に向けて火球を放った。俺に到達する前に火は消失した。え、やめてよ。何?
突然の加害行動の後しばらく黙って逡巡してから、やっぱりとっとと現場に行くのが一番という結論になったようでスタスタ歩きだした。快く送り出して俺だけ部屋に帰ろうとしたら首根っこを掴まれた。
「あ、そうだ。現場といえば、骨は拾ってくれた?」
「骨? ブルックの事か?」
「え? 違うわよ! なんで急にワンピース?」
ああ、ブルックの名言は俺の脳内で出ただけか。
「じゃなくて! 私の所持品とか採ったクローバーよ」
「ああ、忘れてた。置きっぱなしなんじゃないか?」
「ちょっと! 盗まれたらどうするの!」
「いやあ、気が動転してて……」
しょうがないじゃん。死んだと思ってたんだもん。




