12話:自分が変わりたくて
薄暗い教会で立ち話もなんなので、旭さんを含めた俺たち3人は近くの洋食屋(この世界の食べ物は大体洋風だが)に寄った。
「んで、なんの用?」
注文を終えた俺は旭さんに向かって率直な質問を飛ばした。
教会にいた俺たちの前に突如現れた彼女いわく、相談をしたい、との事だった。
「その……えっと、相談というかなんというか……」
「……」
「……」
三つ編みで眼鏡の典型的な目立たない少女は、緊張して二の句が継げない様子だ。思えば教会でもこちらを覗き見ていただけで自分からは話しかけてこなかった。
「知り合いだけどまずは自己紹介でもしましょうか。私は花秦しぐれ。『鍛錬組』で、いつか魔王討伐を狙ってるわ」
沈黙に耐えかねたのか花秦が話題を変える。アイスブレイクだ。
「まあ花秦は目立つからクラスメイトなら知ってるだろ。俺は片渡佑翔。目立たない男子生徒Aだ」
「え、ええと……片渡くんもけっこう目立ってると思うよ……」
「マジ? うそぉ」
「そりゃそうでしょ。先生からあんたへの説教で授業がいちいち止まるんだから、みんなから疎まれてるわよ」
「あ~、確かに目立つかアレは」
「い、いや、そんなに悪い風には思ってないけど……」
「……」
「……」
再びの沈黙。俺たちは旭さんの自己紹介待ちで目線を彼女に向けているが、当の本人はきょとんとした様子だ。
「それで、あなたは?」
「あ、ああ、私か、そうだよね、はい……私は、旭美雪です。ええと、こっちの世界では『はじまりの宿組』で……まあ、そ、そのう、ボランティアとか、やってます」
「おお、そういえばおれの組を言ってなかったな。俺も『宿組』だ。何もやってない」
バツが悪そうに自らの身の振り方を告白した旭さんに対し、俺は堂々のニート宣言。
「……こいつは私が魔王討伐に引っ張り込む予定よ」
「え……スゴい、片渡くんをやる気にするつもりなの!?」
「驚きすぎじゃない? そんな前人未到のチャレンジに見えてる?」
「そうね、無理難題だけど仲間にした方が良さそうだから」
失礼な奴らだ。俺のやる気をどれだけ低く見積もっているというんだ。
「そこまで無気力じゃないぞ、俺も」
「じゃあ私とパーティ組みなさいよ」
「それはちょっと……」
「なんなのよ!」
「……ふふっ」
旭さんが笑顔を見せる。今日一日緊迫した表情だった彼女が見せた初めての綻びだった。
「それじゃあ、今度こそあなたの話を聞かせてくれる? 旭さん」
今だとばかりに花秦が優しい声色で彼女の話を引き出そうとする。
俺に対してそんな声出したことなかったぞ?
「えっと、その……まずは私、昨日あった襲撃事件の現場にいて、それで……」
アイスブレイクの甲斐あって、旭さんはたどたどしく話し始めた。言いにくいことなのか、話の時々で詰まったりすることもあったが、俺たちはゆっくり彼女の話を聞いた。入った洋食屋がチルい雰囲気のカフェのような内装だったのもあったのかもしれない。
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バター風味の肉やら豆が入ったスープやらをほおばりながら、俺たちは事件から今日までの旭さんの動向を一通り聞いた。
「ほへー。逃げれたんならラッキーだったじゃん」
「い、いやその……」
「あんた、ちゃんと聞いてた? 友達を置いて逃げちゃったから自責の念で苦しいって話だったでしょ」
「う、うぅ……はい……」
花秦の直球の要約で旭さんに100のダメージ。国語の授業なら良い要約だが、コミュニケーション的には良い立ち回りではなかったようだ。
「でも、友達は怒ってないんだろ? ならこれからも普段通り過ごせばいい」
「正論で片づけられるならわざわざ第三者に相談しに来たりしないわ。旭さん自身が感情の折り合いの付け方を身につけないといけないのよ」
「ぐっ……! ……」
俺への反論のつもりだろうが、旭さんがぐうの音も出し切れずに黙っちゃったぞ。俺より花秦のほうが
刃を振り回しているような気がする。
「……でも、言う通りだ……私、自分が変わりたくて2人に相談したのかも」
「そうね。こういうのは時間が経つほどやりにくくなるわ。旭さんはすぐにでも自分の気持ちに……」
「私、2人みたいに強くなりたい! 私も魔王討伐に参加して、変わりたい! だから、弟子にしてくれませんか!?」
「え?」
豆のスープを食らいながら話を聞いていた花秦は、今まさに豆鉄砲を食らっている。
何言ってるのこの子?




