23話 楽しいケンカ
~~~グリル村~~~
リク「んじゃ、行ってくる。応援頼むぜ!」
マナ「任せて!全力でやれる機会なんて、そうないんだから楽しんできて!」
ハル「んじゃ、行ってくるよ。応援頼んだよ」
ナギ「ああ。楽しんでこい」
リクとハルはそれぞれ控え席の方へと向かって歩いていく。リクはその途中で戦いを終えたルカとすれ違う。
リク「ルカ。お疲れ様!カッコよかったし勇気もらったぜ」
ルカ「ありがとう。二人の戦い楽しみにしてるから頑張ってね」
リク「おう!任せろ」
リクとルカはすれ違いざまにハイタッチする。
マナの元へ戻ったルカはマナに頭を撫でられ頬を赤らめる。そこにナギも合流し、フードを被った少年とクルトの父、ヤルクの試合を観戦している。ヤルクは1村人と呼ぶには実力がありすぎた。巧みな槍裁きで小さなゴーレム達を次々と砕き、攻め続けた。しかし、少年の岩属性の守りは強固であり結局一撃も致命傷を与えられないまま、ヤルクは敗北してしまったのであった。奇跡も何も起こらず盤はひっくり返らない。
土マスター「いよいよ、第1回戦も最終試合だ。火と雷の格闘家リク。氷と岩の剣士ハル」
リクとハルを空間が包み込み、フィールドが完成していく。
リク「もっとカッコイイ紹介してほしいのよな」
ハル「ほんとだね、なんか僕たちに興味無い感じ出てるよね」
リク「それなぁ。てかなんだっけタイプの女性の髪の長さだっけ?」
ハル「あぁ。ロング一択のやつだね」
リク「ショートが1番だろ、まぁいいや皆が俺たちに興味持つぐらいアツイ戦いにしようぜ」
ハル「うん、そうだね」
土マスター「試合開始!!」
試合開始早々猛速で接近したリクの肩に閃斬を放ったハルだったが、リクの左足裏で止められた。ハルはすぐに剣を引き、リクが左足を地面につける瞬間に攻撃に転じて蹴り伸ばした右足を一歩引いて回避する。体を後ろに引いた反動で前に出し、剣を振り下ろすフェイントをかける。それに釣られそうになって体勢が前屈みになったリクの頬をハルの剣が触れる。追撃の為に、上から下に振られた剣をリクの回し蹴りがヒットしハルの手元から剣は離れ飛んでいく。回し蹴りを成功させたことで更に回転力を高め、回転蹴りへと繋ぎハルが横顔を咄嗟に守った腕へ直撃する。
蹴り飛ばされた勢いに任せ、蹴りを受けた腕で受け身を取りながら地面を回転し剣を拾う。
両者は少し距離を置いて顔を見合せ笑顔を見せあった。
ハル「(リクを倒す算段は立ててきた)」
ハルは早速剣に岩の盾を纏う。
リク「(どういう意図だ?機動力を落とすなんて良い策とは思わねえけど、ただ俺のスピードだとナギに劣るからハルには通じないかもしれないな)んまっ、いっか」
リクは体内で火魔法を貯め、全身に雷魔法を纏いスピードを底上げする。
リク「火雷瞬走」
ハル「(来た)」
ハルは狙い通りと言わんばかりにリクの正面に出した岩の盾から更に岩を延長させて立方体を作り、ハル自身を完全に包囲する。
ハルは岩のキューブの上部四つの頂点に小さな穴を開ける。そしてそこからハルのフルートの音色が漏れだしてくる。
リク「(寒汰美冷[カンタービレ]か、俺を冷やすつもりだな!)」
リクはハルが入っている岩のキューブの前で高速に横回転を繰り返し勢いを十分につける。その勢いのまま右足で岩を蹴る。砕き割るつもりだったが想像よりもハルの岩の壁は固くヒビを入れるだけに留まってしまう。
リク「ここまでヒビが入れば割れるぜ、なぁハル!!」
岩の壁に背を向けて強く左足を地面に踏み込み右足を後ろに伸ばす。今のリクの最高速で放つ蹴り、その威力はハルの岩を軽々と砕くものだった。
リク「華槍貫!」
リクは、足を伸ばしきるまでハルの演奏が止まっていることに気づいていなかった。演奏が止まっているということはフルートから剣に持ち替えていることを意味していた。リクは咄嗟に足を引こうとするがそれより先に、岩の箱の中でハルの剣が足を斬っていた。
リク「(中から外は見えない。一か八かのカウンターだったのか)」
ハルがリクの蹴りを躱し、即座にカウンターを決めれたのは必然であった。その要因はハルの特技にある。聴覚が他人より少し優れている程度にしか思っていなかった特技だったが、ハルは屋外で無ければ自身の奏でる声やフルートの音波の反射で地形や人物の位置を把握することができるのだ。
この特技は屋内でしか本領を発揮しない、今までの旅では水城で強制ワープさせられはぐれた際にリクとマナと合流する為に使用していた。
今回はリクを冷やす為に使用していると思い込ませる為に氷魔法を乗せた音を奏で、実際の目的はキューブの内側からリクの位置を特定し確実に躱せる状況を作ってから剣に持ち替えてカウンターに転じる狙いであった。
リクは10年前に父を闇柱に殺されたと聞いてから必ず自身の手で仇を討つ事を子供ながらに決意した。それからは育った平和な村を抜け出し火国中心都市ティーの炎飛燕流道場に通いつめて体術を数年習っていた。兄弟子が旅にでて数年経ったある日、リクは道場から逃げた。都市一番の鍛冶屋と仲良くなり自分だけの剣を打ってもらい、ティーからどんどん離れてサワラ砂漠へと向かった。リクは、自分が逃げたと認めて後悔している。火城が柱と呼ばれる魔物に占領されている事を知った彼は、一刻も早く外へ出て兄弟子の様に経験を積まなければならないと思った。
お世話になった師範を置き去りにして出た旅は散々だった。中心都市から城に乗り込む気でティーを飛び出し遠い南のサワラ砂漠で迷ったのだ。魔物と戦ううちに修行を途中で辞めた自身の実力を理解し旅を続けることに決めた。逃げた罪悪感で寝れない夜も多々あった。師範ともう1人、親のいない自分に居場所をくれた母代わりの様な女性にも申し訳なさではち切れそうになった。仲間と旅をつづける今でも、ふと罪悪感と自己嫌悪に潰されそうになる。それがたとえ消えなくても、道場に戻り深い謝罪と感謝を述べる事を誓った。
リクは右足に集中的に火を纏い体を回転させ、ハルがいるであろう向きに伸ばした膝裏を向け全力のスピードで曲げる。回し蹴りという膝を曲げながらあげて腰を捻り勢いを付けながら伸ばす技があるが、それの応用である伸ばした足を曲げることで攻撃する裏回しという蹴りを即座に放ったのであった。
ハルは防御が間に合わずキューブの中でもろ顎に蹴りを喰らってしまう。リクは当たった事を察知し何度も伸ばしては曲げを繰り返す。火雷瞬走でスピードの上がった蹴りの連撃は狭いスペースで満点とはいえない出来だが、十分に大ダメージを与えつづける。
リク「裏十花繚乱!」
リクの百花繚乱は、ハクガン戦で見せた雷属性を纏い高速の蹴りの乱れ打ちである。回し蹴りと裏回しに加え前蹴りに、踵落としと鞭の様に次々と狙った相手を襲う。今回は裏回ししかできるスペースがなく手数が少ないので謙遜も兼ねて「十」に留めている。
ハル「(さすがリク想定してたより何倍も強い)」
ハルは堪らず自分に1番近い岩の壁を外し、キューブから脱出する。
ルカ「今、岩の箱の中見えなかったけど…」
ナギ「きっとあの体勢から蹴りを連発していたな」
マナ「その前は多分ハルの剣が当たってたよね」
ナギ「あぁ。剣が当たるまでは、ハルの策の上でリクが操られていたが、その作戦を受けた後のリクの動きがよくてむしろリク優勢になったな」
ルカ「あ、ハル箱からでてきた!」
マナ「あれ?でも、リクは岩の壁に右足いれたままだよ?どうしたんだろ」
ナギ「ハルがリクの足になんかしたな」
リク「(やべぇ、岩の壁の向こうで足に岩の重し付けられて足抜けねぇ)」




