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ノートクエスト  作者: 伊達柴紫
3章 封印とダンジョン
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21話 ルカの過去

~~~12年前~~~

 ルカは母と会えなくなった後、3日何も物を口にしなかった。魔物討伐の為に「緑力の丘」へ向かった軍に自分も混ざって母と軍を助ける事ができたならよかったと激しい後悔の念に苛まれた。しかし、もしその軍と共に向かったならば父を孤独にしていただろう。自分の力が微力である事を自覚しているルカは、その現実と後悔の僅かな隙間に挟まれ苦しんでいた。

 安否を確認するため向かった軍は、無事に帰ってきたものの白銀の大地となった丘にたどり着けずに撤退を余儀なくされた。その吹雪は誰かが起こした氷魔法と推測されるが止むことはなく、来る者を拒み続けた。


 ルカが自室の隅で膝を両手で抱え込みながら座って俯いていると、その部屋にマリアが入ってくる。

マリア「ルカ様、隣よろしいですか」

ルカ「………うん」

 

 マリアはルカと同じように座り、目線の高さを合わせる。ルカの部屋はカーテンも閉めきりで空気こそ重いが、こんな心中でも物なども散らかっておらず一月前と変わらない状況だった。ベッドのシーツや枕はしっかりと整えられ、机の端には読んでいる途中の本が何冊か揃えて置いてある。その中には「緑力の丘」付近の地図と地理情報の本もあった。まだ7歳である子供が最愛の母を失った悲しみは計りしれない。それなのにルカの部屋は一月前と変わらない状況だった。それを見たマリアは、ルカの心の芯の太さを感じると共に、何も手につかない心境だと読み取った。

 

マリア「私は強いと呼ぶべき方を人生で2人しか見たことがありません。」

ルカ「…マスターの事?」

 ルカの声のトーンは低いが、マリアの言葉をしっかりと聞き会話に応じる。

マリア「いいえ、カリン様とルカ様です」

ルカ「お母さんは強いけど、私は弱い。弱いからお母さんを失ったんだよ」

 2人は言葉を選びながら、ゆっくりゆっくりと言葉を交わしていく。

 

マリア「本当の意味の強さとはその時点の戦闘値の事を指すとは思いません。人に勇気を与える人、芯のある人、人を救う優しさがある人、そういった人を強いと私は思います。ルカ様から見てカリン様はどうでしたか?」

ルカ「もちろんマスターとかの方が戦闘値は高いと思うけど、そういう面ではお母さんの方が凄いと思った…」

 

マリア「そんなカリン様に大事に育てられたルカ様も心優しく、曲がらない魂をもっており才能と努力を両立しています。なので、私から見てもルカ様は強い御方なのです」

ルカ「…でも」

マリア「私はそんなお二方に仕える事ができて幸せです、ルカ様どうか私を導いてはくれませんか?」

 マリアは悲しげな笑顔でルカの手を優しく自身の手で包み込む。

 マリアも少し年上のカリンを慕っていたのだ。この訃報は彼女の心にも深く傷を刻み込んでいた。

 

ルカ「私なんかにマリアはついてきてくれるの?」

マリア「ルカ様だからこそですよ」

 痩せこけ寝不足で目の下のクマが酷い状態で不安そうなルカをマリアは優しく抱きしめ、頭を撫でる。

 

マリア「頑張りましたね。貴方は本当にお強い……国民もそして、私たちもルカ様の事を我が子の様に大事に思っております」

 ルカは声を殺して泣いていた。しかし、マリアの柔らかい手が頭の上を往復する度、母の優しい体温を思い出し耐えきれなくなり耐えきれず大声を出して泣いた。ずっと泣いていた。


――――――

ルカ「マリア、本当にありがとう。私お母さんに代わってみんな事守るよ。だから安心して。もう誰も私みたいに悲しい涙を流して欲しくないから」

 ルカは偉大な母を超え、いずれは民を守る立派な王女になることを誓ったのだった。

 

 それから数年後、ルカは城を訪れた水マスターに頼み込んで指導を受けていた。

 水マスターは、首に青鉱石で作られた龍の形のアクセサリーを首から下げる腰の曲がった老人であった。

 

水マスター「頭の中で詳しくイメージするんだ。それから大気中の水蒸気に自分の魔力を注ぎ込み使役する。そして唱えるゲゾ、水龍!!」

 水マスターが両手をかざした先に巨大な水龍が生まれる。その龍を螺旋上に天まで登らせていく。

 

ルカ「水龍!!!」

 ルカは水マスターと全く同じサイズの水龍を出す。

水マスター「ルカちゃん、今のって能力ゲゾ?」

 水マスターは見守っていた王の方を見るが、王は首を横に振り否定する。

 

水マスター「(精巧すぎる。この技を生み出した私でさえ毎回全く同じ水龍を創造するのは至難の技というのに、この子は一度見ただけで完璧に私のものと合わせた。一体何者なのだこの子は。)面白いですね」

 その後ルカが、連続で三体全く同じ水龍を生み出したことで、再度そのMP量とその魔法練度について驚いていた。水マスターは可愛い弟子ができたと喜び、自身の技やスキルを全てルカに伝授したのであった。マスターが大きな任務に出掛けるまでの半年間でルカはマスターが扱える全ての技を覚えたのだった。


~~~~~~

 ルカは目の前にいる格上の人間と手合わせ出来るこの状況を非常に楽しんでいる。水国で暮らした数年、自分より強い魔法の使い手を見て来なかった、しかし国を出てみれば世界は広く自分より強い人は沢山いた。それはまだ自身が成長できると保証されたような気分だった。


 パーティーが大きく成長した水城戦とその後の稽古では、ルカも柱戦で経験値を積んだものの他の仲間の様にパワーアップはできなかった。忍村での大長6との戦いも結局覚醒したのはナギだけで、その後の修行ではリクとナギが大きく成長し、ハルは新たな基礎スキルを習得、マナは苦手な近接戦闘の術を身につけていた。それに比べルカはこの旅の中でまだ「水龍の三神器」と呼ぶオリジナルの必殺技を会得以外の成長をしていなかった。


 そんな事を指摘をしてくる様な者は仲間の中にはいなかったが、自分の中にはそいつがいた。隣で成長する仲間を見てお前は何をしているんだと、責めてくる自分。それはまるで悪魔に思えた。

 その自分の中の悪魔は、闇に紛れて現れる。不安や後悔の影に潜み、孤独な夜に現れ責め立てる。何度も寝れない夜があった。今まで努力を続けてきたことで手早く成長する事ができるラインをとうに越してしまったんだと悪魔に言ってみるが「それはただの甘えでラインを引いているのは〈わたし〉じゃない、〈私〉だ」と返されるのだった。

 いつかはこの悪魔が味方になってくれると心の中で信じている自分がいた。この悪魔に、この自分に認められた時自分が大きな一歩を踏み出せると確信していた。


 目の前にいる岩魔法を極めし男の倒し方を模索しながら、男が放つ岩塊を回避し続ける。そして特技を使い、観察する事で岩マスターは岩を生み出したり発射する方向に両手足の指のどれかを向けていることを発見する。

ルカ「(右、次も右、上、下、左右)」

 ルカは先程よりも効率的に岩を躱していく、マスターと呼ばれるからには簡単にMPが尽きてくれることは無いと分かっているが、少しでも消耗させる動きを選択し、回避し続けてチャンスを伺っている。



~~~14年前~~~

 自分の特技に気づいたのは、母の言葉がきっかけだった。その日は、母親と共に寝る事にしていたルカは日中に自身が読んだ本の内容を自慢していた。

ルカ「おかあさん、今日はオミクロン歴史学を読んだよ!46ページに書いてあったんだけど、勇者は4人の頼れる仲間と共に魔王に立ち向かったんだって!50ページから始まるスピリタス火山編も面白かったよ」

カリン「ルカは沢山本を読んで偉いね、ページまで覚えちゃうほど読み返したの?」

ルカ「んーん?一回だけだよ!」

カリン「凄い記憶力ね」

ルカ「今日読んだ部分は全部暗唱できるよ!」

 ルカは誇らしげに母に伝えてみせる。

カリン「ルカ!凄いわ!」

 カリンは柔らかな寝巻きでルカの事を包む。


 それからルカが魔法の特訓を始めた時に、その特技の本領が発揮された。


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