20話 マスターとの距離
「君たちがあの張り紙をしてくれたんだね」
リク「(張り紙ってことは…)はい、もしかしてクルト君のお父さんですか?」
その男は頭に兜を被り、肩当てに肘当て、膝当てに腕のサポーターを付けて装備がしっかりとしている爽やかな印象の中年だった。
「あぁ。クルトの父、ヤルクだ」
リク「こんな所で何をしているんですか!クルト君が、フライ村の人々がどれほどあなた達戦士の帰りを待っていることか」
リクはフライ村で見た現状をヤルクに説明する。ヤルクはその状況を百も承知だが最後まで聞いていた。
ヤルク「わかっている。私たちは土マスターに何度も直談判しに行ったが一度も相手にされなかった。だからこの大会で国宝を勝ち取りそれを売って、村の復興と柱を討伐をマスターに頼む予定だ」
マナ「もし、叶わなくてもクルト君を隣で守ってあげてください」
ヤルク「そんな訳には…」
リク「ヤルクさん。自分達が土柱を倒して地震を止めます。これからの試合を見ていてください」
ヤルク「もしかして、君たちが柱を2体倒したと噂の『勇者の継人』なのかい?」
リク「その呼ばれ方は初めてですが、柱を倒したのは確かに自分達です」
ヤルク「まさかほんとにそうとは…私たち戦士の中でもその噂で持ち切りでね、他力本願な奴らは早く土国に来てくれと毎日願ってたくらいさ」
マナ「(いつの間にか色んな所で認知されている。責任重大だ)」
リク「柱は必ず倒すと約束します!」
ヤルク「それじゃあ…」
リク「はい。一刻も早くフライ村に帰ってあげてください」
ヤルク 「ありがとう。こんな若き青年たちが勇者の継人だったとは…」
リク「余談なのですが、ヤルクさんの父はナルヤさんというお名前でしたか?」
ヤルク「どうしてわかったんだ?」
リク「さらにその親は、ムルナさんですね」
ヤルク「あぁ。そうだ。驚いたな」
リク「ただ、すぐ法則性を見つけ出してしまうのが自分の性でして…」
ヤルク「君、面白いな。リクくんと言ったかな、土国を頼むよ。本当は僕ら戦士の役割の筈だが…恥を承知でお願いしたい」
ヤルクは茶色の瞳でリクを真っ直ぐ見つめる。
リク「任せてください」
突如大きな歓声が聞こえる。先程の試合の決着がついたのだった。
ヤルク「ありがとうございます」
ヤルクは深くお辞儀した後、ルカが座っていた席へと向かう。
マナ「ヤルクさん第3試合みたいだね」
リク「相手はこの大会中一回も顔を見せていない、フードの子か」
マナ「何者なんだろうね…、!?」
リク「クルトの父親思っていたより良い…どうしたマナ?」
マナ「あの、フードの子もしかして魔物なんじゃ」
リク「背丈と声の感じは子供だったぞ?」
そう言いながら、大長6や『変身』のメルムという魔物も人間でいう15歳くらいにあたる見た目と聞いていた。
リク「ありえるか。変に刺激しないで様子を伺おう、戦いもしっかり見ておこう」
リクの落ち着いた態度が、マナにも移り安心させる。
マナ「わかった」
土マスター「第2試合開始!」
ナギ「遂に始まったな」
ハル「あぁ。うちの水姫は果たしてどこまでいけるか」
岩マスターのガイラは、ハル達と年齢が近い様に見えた。ツンツンに尖りながら天を刺す茶髪に、明るい表情は誰から見ても好印象の青年だった。その男は試合が始まった直後何のモーションもない中でふと上を見上げ、魔法攻撃を仕掛けてくる。
ルカの足元から小屋程の大きな鋭利な岩が生えてくる。寸前で躱したルカは、先程マスターが意味もなく上に視線を動かしたことがフェイクだったと気づく。
ガイラ「次々いくっすよ!」
生えてきた大きな岩から四方八方へ針の様に鋭利な岩が伸びる。空間外で直撃すれば腹を丸く貫通する勢いと鋭さだった。
ルカ「自由流[フリル]!」
両手から水を出し回転して、心臓を狙う尖った岩を回避する。
ナギ「自由流じゃ、魔法弾ならともかく生えてくる岩の軌道を変更は出来ないから意味ないんじゃないか?」
ハル「いや、ルカだったら自分の出した水に異物が入り込めば反応が速くなってより正確に捌けると思う」
ナギ「ダメージはないものの触覚の延長ってことか?」
ハル「おそらくね」
伸びてきた岩の棘から、更に細かい棘が生えてくるがそれも何とか回避していた。
ルカ「躱すことに夢中で相手を見れていない」
ルカは必死に躱しながらも、ガイラの動きを伺う。それを感じ取ったガイラは再び視線を上に向ける。
ルカ「!?(同じ手は使わないはず)」
ルカの頭上に家を潰せる程の巨大な岩が創成され落下してくる。
ヤルク「こりゃあ規格外すぎる」
ヤルク含め観客のほとんどが目を丸くしている。
「やっぱりマスターに勝てるわけが無かったんだ。俺らに国宝を手にするチャンスなんて初めから無かったんだ」
そう、誰かが呟いた。戦闘中のルカには聞こえなかったが、その言葉を耳にしたリクとハルはその観客を後ろから睨みつけていた。
ルカは左手から、高水圧ジェットをガイラに向かって噴射しながら右手で落下する巨大な岩に対して、天水の巨壁を何枚も生み出していく。
ルカの噴出した水はガイラが出した一枚の岩の板に防がれる。するとすぐさま水は何本にも分かれて軌道を変えて多方向からガイラを狙う。普通の強者相手であればそこで決着がついているような精度と威力だったが、ガイラはそれを見極め、最低限の岩魔法を使用しガードする。続けて今度はガイラを中心に取り囲んで1本の水の柱が生まれ、完全に視界を奪う。その一瞬を今度は再び一点集中威力特化で、乱水槍と水龍の咆哮が襲う。
「なんだ、この姉ちゃんすげぇ」
「しかもよ、あの子初めの一撃しかマスターの事見てねぇぞ。最上級魔法使いでも視線や指で魔法を生み出す座標を決めるのに、完璧にマスターとの距離を覚えているのかよ、人間業じゃねぇな」
その発言をリクとハルは満足気に聞いていた。
リク「もうそろそろだ」
マナ「え…?えー!!」
突如、ルカの頭上の巨大な岩がひび割れ崩壊する。降ってきた大きな破片達も全て水魔法で避けて難を逃れきることに成功する。
ルカ「来る!」
今度は、ルカの左右両側の空間の壁から生えた岩の壁が迫る。その勢いは一瞬でルカを挟み潰さんとしていた。
ルカは左手から出す水で攻撃を続けながら、足と右手から水を噴出し、空へと飛び上がり圧死を回避する。その飛んだ先に岩の杭が襲いかかるが、水のハンマーで叩き落とし、自分は両側の壁が迫り切り閉じてできた足場に着地する。
ルカ「(この地面もマスターの魔法、何が飛び出して来るかわからない)」
ガイラ「頭上に掲げて上げた岩も、盾で落下を抑えながら、高水圧を当て続けて砕いたっすね」
ガイラは、大長落ちバートをも倒したルカの猛攻を岩魔法で守りきっていたのだった。
ガイラ「なるほど、なるほど。お嬢ちゃん、防御力はそこそこあるみたいっすね」
ルカ「(この人、今まで会った大人みたいに、私を全スキル覚えた凄い人として見ていない。この人からすれば、さっきまで戦ってきた挑戦者と変わらないんだ)」
力を認められていない事実に気づきながらも、普通の魔法使いとして扱われる事にどこか喜びを感じていた。
未だに一歩も動かず、一撃も喰らっていないガイラは常に相手がどこまで出来るか試す態度である。




