18話 ハル対ナギ②
―――予選トーナメント決勝 ハルVSナギ―――
ハル「アイスター・プリック」
凍てつく剣の突きを、すんでのところでナギは回避する。読心に頼らなくなったナギ相手ハルの剣は尽く空を切っていた。その光景は周りからはMPの浪費に見えた。
二つの属性を操る事が出来る者を「ダブルヒュー」と誰かが名付けた。世界には魔法自体を開花させずに人生を終える人がいる中で、二属性を操るというのはとても貴重な存在だった。ダブルヒューはMPの総量が多いのが特徴で、例えばリクの場合火属性専用のMPと雷属性の専用こMPがそれぞれあった上で二属性共通のMPもある。加えて扱える属性が一つ多いというだけで手数は倍以上に増える。
また、リクが雷属性を鍛えた際に火属性の扱いの練度も相乗効果で伸びた時の様なメリットもある。
ハルは氷属性限定の物と共通の二種のMPを消費しているが、岩属性のMPがまだ残っているのである。岩属性を開花させた事で共通の最大MPも増え、まだ鍛え初めで岩属性のMPの容量は小さいものの大分やれることが増えてきていた。
まだまだ彼は強くなれるのだ。
ナギ「瞬輪斬」
回転斬りをしているナギの二本の剣がハルの頭上を掠める。それは、ハルがナギの懐に入った事を同時に意味していた。
ハル「この時を待っていたよ。裂斬」
ハルの剣がナギの肩に触れる。決まったと確信したハルだったが刃はナギの体と混ざる前に止まっている。何かに押し返されている、風だ。
それは一瞬だった。ナギが瞬輪斬の回転の余韻中にハルへ向け強風を起こし、その勢いで彼の体を倒した。そのまま、もう1回転しながら倒れたハルへと剣を当てる。風丸をなんとか防いだハルだったが、続く雷丸に押し切られ大ダメージを負ってしまった。
しかし、ハルは小さく口元を緩めた。ナギは回転していたのでその不敵な笑みを見過ごしてしまう。
ダメージが無いという事は、基本的に相手の攻撃に怯む事が無いことを意味する。雷丸に斬られた直後回転するナギを目の前にして立ち上がり、岩の盾を纏った剣ごとナギの回転の中に飛び込み、完全に止める。
速ければ速いほど向かい風は強くなる。その風や空気抵抗を風属性使いはコントロールし、さらには追い風にする事で他属性とのスピードの差を作る。しかし、止められた時や衝突した際の衝撃までは防げなかった。
ナギは腕ごと岩の盾に衝突し、回転が止まる。ハルが想像していたよりもナギの体に大ダメージを与えることに成功していた。
ナギは冷静に距離を取り、右手でブーメランを放ち左手に竜巻の元を産む。
ナギ「(やっぱりハルだ。一筋縄ではいけないどころか倍以上に反撃されてしまう)」
ハル「(今までの相手だったらここまでで倒しきれていたのに、冷静だな)」
左手の竜巻を放つ。ハルの左からブーメラン、右からは人一人を囲む程の竜巻が迫る。正面に突っ切って躱す選択を誘われている事は誰の目から見ても明らかだった。
判断の猶予は一瞬だった。ハルは、ナギがブーメランを自由に軌道変更出来ることを知っていたので前に進むのではなく後退を選択した。
ハル「(さあ、どう来る)」
岩纏いを解除しなければ、ハルの機動力は落ちたままである。大事なのはどのタイミングで解除するかだ。ナギの攻撃を防げる可能性をもつ盾を捨てる価値がある程の作戦が新たに思いつかなかった。
ブーメランを竜巻に飲み込ませた後、軌道を変更してハルに直進する。
ハル「(ここが山場だ、ナギの一撃を防いで勝つ)」
ナギ「(ここが山場だ、ハルの防御を突破して勝つ)」
竜巻を挟んで、二人が見つめ合う。
ナギ「(何故、ハルは手に氷魔法を纏っているんだ?何か意味あるのか?きっとあるに違いない…なんだ)」
ハルは既に作戦を実行していたのだった。ナギはそれに気づかない、というよりもこの『仮想』空間という特殊な環境ではでは気づく余地がなかった。
迫り来る竜巻をハルは守戦律と岩の盾で凌ぐ。正面を守るハルにナギが左から急接近する。突如視界に現れたナギに向かって思わずハルは重い岩の剣を振ってしまった。
剣は丸太を砕きながらも斬り分ける。ハルはその光景をスローモーションの様に見つめる。
やられた。土壇場で変わり身の術。焦らされた、剣を振る様誘われた。
ハルが剣を振った逆方向から、ナギが斬りかかってくる。岩を纏い重くなった剣では背後を取るナギのスピードに追いつけない。
ハルは咄嗟に岩の剣から右手を離しナギの方へとかざす。氷魔法を纏ったその手からは冷気が出続けている。そう、ずっとずっとずっと空間内を冷やしていたのだ。ただ冷えている空間にいることでのダメージは微小で気づける余地もなかった。
今まで氷魔法を纏い続け冷気を放ち続けていた事に加え目の前でハルが全力で冷気を出したことによって体が悴み、ナギは自身の身体能力が落ちた事を大一番のタイミングで自覚したのだった。
ナギ「それでも、負けるわけにはいかない!!」
ナギは全身を風に包ませ、まるで人形の様に体を動かす。咄嗟の対処法によってハルへとトドメを刺しに行く動きは止めない。
ハル「まじか…」
一瞬ナギの動きが止まった隙に、ハルは岩の盾を剣から外して、丸太を斬った勢いのまま凍てつく剣をナギへと向ける。
ハル「僕だって負ける訳にはいかないんだ!(リクと戦うのは親友である僕だ)」
ナギの剣は今にもハルの首を斬り跳ねる勢いだった。ハルはスピードでナギを越すことは不可能と痛いほど知っている。ハルの最高速技 閃斬を持ってしても追いつけないだろう。そもそもその技は水城に向かう途中にナギの体の動きを真似して完成させた技だった。そこで選択のは…。
ナギは悟った。自身の剣がハルに届くことは無いと。目の前にいる、もう顔も見慣れてきた男は剣を握っておらず掌を使って柄頭を押している。そのリーチの差が勝敗を分けた。胸に刺さったハルの剣を良く見る。これも自身の剣達の次に見慣れたものだった。
――――――
ナギ 「その剣ってリクから貰ったものなんだろ、氷属性なのに火国の剣使ってていいのか?」
ハル 「この剣を握ると勇気がでるんだ。絶望の中歩いていた僕を助けてくれた親友から貰った剣だから、僕の旅の道連れはこの剣なんだ」
そう言いながら、ナギと共に夜の見張りをしているハルは平たい石に座りながら剣を磨いていた。
――――――
二人は空間から追い出される。大の字に仰向けで倒れていた彼らをリクとルカがそれぞれの手を引き起こす。
小さくお礼を述べた後、熱い戦いを終えた二人は自然と握手を交わす。
ナギ「最後の最後で負けたよ。次の試合も頑張れよ、ウチの代わりに優勝しろよ」
ハル「ありがとうナギ。必ず!」
ルカ「二人の友情?好敵手感?好きだけど、蚊帳の外な感じするなぁ」
リク「うちの二大剣士達だ。たまにはさ、いいんじゃねぇか」
マナは後ろに手を組み、顔を前に出しながら傾けリクの方を見る。
マナ「なーんか嫉妬してない?それもどっちかというと姉さんに対して」
ルカ「それって自分の親友をナギ姉さんに取られたみたいで嫌だってこと?」
リク「う、うるせっ」
マナ「ふふっ♪リク耳真っ赤でバレバレだよー?」
リク「あー、土国は暑いなぁ。干からびそーだー」
ハル「リクとルカはどうだったんだ?」
リクとルカは少し不安そうなハルに笑顔でピースサインを見せる。
リク「俺ら二人とも決勝トーナメント出場決定だ!」
土マスター「これにて、予選トーナメントを閉幕とする。決勝トーナメントは1時間後だ。トーナメント表をここに貼っておく、確認しておけ」
そう言うと土マスターは岩の柱を飛び降りて、紙を貼りどこかへと去っていく。
ハルたちは早速決勝トーナメント表を確認する。予選トーナメントのブロック順ではなく改めてシャッフルされていた。
マナ「第1回戦2試合目に、ルカと岩マスターで第4試合にハル対リク!?」
ナギ「早速だな。しかもこの配置だと決勝ではルカ対どっちかみたいだな」
ルカ「私が岩マスターに勝てたらだね」
リクとハルは、にぃっと笑い合いながら別々の方向へ歩いていく。
マナ「?」
そのまま1歩ずつ背中を向き合わせながら距離を取っていたが、息を合わせて同時に振り返り指を指し合う。
リク「ぜってぇ負けねぇ」
ハル「いい機会だ、リクの格闘技と僕の剣技どちらが上か見せつけてやるよ」
ナギ「(どっちも盛り上がってるなぁ)」
リク「仲間同士本気で戦う事なんて滅多に無いんだ。何か戦う理由付けようぜ」
ルカ「(罰ゲームってことかな?)」
ハル「じゃあ、互いの信念を賭けよう。僕ら仲は良いが絶対に相容れない意見があるはずだ」
リク「そうだな。あれだけは譲れねぇ。女子に求める髪型は…」
リク「ショート!」
ハル「ロング!」
ナギ「くっだらねぇー」
キョトンとするルカとマナを見て、リクとハルはグリル村一の明るい声で笑い合う。




