17話 ハル対ナギ①
ハルとナギは毎日の組手や共闘により、パーティーの中で一番手の内がお互い割れている。風魔法とスピードを駆使し相手の手が出る前に決着をつけるスピードアタッカーのナギと、戦闘中に作戦を組み立て敵の懐に入ったりカウンターを決める、一撃が重いパワーアタッカーのハルとのパーティーの剣士コンビ同士の戦いが開幕するのであった。
ハルとナギは挨拶するかのように急接近して互いの剣を交差させる。
ハル「楽しくなりそうだね!」
ナギ「あぁ。簡単にやられるなよ!」
2人は同時にバックステップを踏み、距離をとる。
ハル「(ナギの特技で、ある程度こっちの考えがバレるし、どう攻撃を当てようかな)」
ナギは単純にスピードが速い事に加え、風魔法での防御、超反応、これだけでもHPとスタミナとパワーが低いという欠点を補いきれており、仲間同士の戦いになると心を何となく読む特技がナギの攻撃と防御を助長する。
ナギは腰に引っ掛けてあるブーメランをハルに投げつける。真っ直ぐ飛ばすと見せかけて風魔法を使って急に方向転換させハルの躱した先に当てる。ハルは間一髪で剣を振り上げ防ぐがそのタイミングでナギの双剣が襲いかかる。
ナギ「共輪斬!」
ハルが自身の左側でブーメランを防いだと同時に逆方向からナギの剣が迫る。
ハル「(そうくるよね!)輪盗【リット】」
ハルの口笛は敵を遅くさせるリタルダンドの簡易版を奏でる。ナギの動きが少し鈍くなった一瞬の隙に剣を振り切りブーメランを弾いて、ナギの剣の軌道から外れる。
ハル「(ナギならここで、風で軌道を変えるか追い風で速めるはず)」
ハルは岩を纏った剣をナギの方向へ向けながら下がる。ナギはハルが警戒していることを読み取り、違う行動をとる。
ナギ「風雷纏い」
ハル「!?雷?」
ハルはナギが雷属性を使える事をしっていたが実践で使っているのをしっかりと見たことはなかった。これはナギが何かで紋章を使えない状況になった時にMPを消費してでも更なるスピードを手に入れるため最近鍛えていた手段であった。
ナギ「風雷纏い かまいたち」
ナギはその風の斬撃を放つと直ぐに雷纏いを解除する。体の負担を最小限にする為である。
先日彼らを苦しめた「かまいたち」をナギは腕と腰に風と雷を纏うことで瞬発的に速度を上げて、その振りの勢いで双剣から風の斬撃を飛ばしていた。
ハル達は風柱ジガワに辛勝をしたものの、かまいたちを攻略した訳では無かった。ハルは咄嗟に岩の剣で風の刃を受ける。
かまいたちでのダメージは防いだがハルの背後から近づいてきていたブーメランをもろに喰らってしまっていた。
マナ「(姉さんのペースだ。このままだとハルに勝ち目はないかも…)」
一度放てば斬撃が真っ直ぐ飛ぶ操作の必要が無いかまいたちと緻密な風魔法の操作を必要とするブーメランのコンボの相性は良かった。ハルの注意は完全にかまいたちに向いておりブーメランが上手く決まったのであった。
ハル「(防戦一方だな、なにか手を打たなきゃこのまま押し切られる)」
ハルの手札としては基本的に剣とバフデバフしか持ち合わせていない。前の試合の蹴りは例外だった。その2枚だけでどうやってナギに勝つか、どうやって剣を当てるか考えを巡らせていた。
ナギ「このまま終わっちゃうぞ」
ハル「そんなつまらない試合にする気はない!」
ここまでナギ優勢の状況が顕著にみられたが、ハルはまだナギの双剣を一太刀も受けてはいなかった。ナギもハルの全ての動きを把握することはできないし、わかった所で技が決まると確定する訳ではない。その辺はハルの方が一枚上手なのであった。
オレンジ村でドミーに一通り剣の扱い方を学んだハルだったが、小さな村を出れば自分や自分の師よりも手練な人間や魔物は沢山いた。妹のユナと旅をしていた際は雑魚魔物こそ一撃で倒せていたものの小長クラスには苦戦を強いられる事もあった。そんな実力の中、突如起こってしまった火柱戦は散々なものだった。火国での出来事の詳細は、いずれハルの口から述べられる事だろう。ハルは妹を砂に変えられ、死ぬ思いで蘇生する方法を探していた。目の前に現れた魔物など無視し『聖水』の事ばかり考えていた。気づけばハルの歩いた後には魔物が消えていく様だけが残っていた。その時のハルには一度の戦闘毎に集中することも作戦をたてることも無かったのだ。ただ淡々と、歩くのと同じように進むために足を上げるのと同じように無意識の中で魔物を斬った。斬った。斬った。全て斬り伏せた。
無心で魔物の返り血さえも気にせず歩くハルの姿を見てユナはどう思うだろうか。それが自分の姿を元に戻す為と知ったらどう思うだろうか。
ハル「(よし、この作戦で行こう!)」
今のハルは違う。リクと出会い変わったのだ。というよりも過去の自分を取り戻したのだった。ハルの戦闘スタイルはいつでも思考を回し時には簡単に作戦を投げ捨てて最終目標を達成する、そういうものだった。
ハルの意気込む顔を見て、ふっと口角を少し上げる。
ナギ「その作戦見せてみるんだな 」
ハルはナギに駆け寄る。剣はまだ練度の低い岩纏いを解除し、冷気だけをその剣身に着せていた。
ハル「もちろんだよっと!(まずは突きだ)」
ハルの突きを警戒したナギは咄嗟に双剣を交差させてそれを迎え撃つ構えだった。そのナギの頬に横から振られたハルの剣が触れる。
なんで?そんな事思う暇もなくナギは目視で反応し雷丸の刀身の端でハルの剣をなんとか防ぐが体勢が崩れてしまう。
完全にハルの考えを読み取った筈だった。しかしハルの剣はナギの頬を掠めた。次の一振りは、ナギの肩を捉え一撃を与えた。
ハル「(よし!これならいける)」
ハルが考えた読心術の対抗法は攻撃の仕方を具体的に考えてナギに敢えて読ませた後で接近し、双剣の防御の構えを見た上でアドリブで反射的に攻撃するというものだった。
ハルの得意とする戦闘方法では無いため、ある種の賭けではあったが咄嗟の判断力もこれまでの旅で身についていたのだった。
ナギは忍学校時代から、周りの大人の忍と比べても見劣りしない程の戦闘力を誇っていた。ナギを代表するスピードでいえば、当時はまだ子供の中では速いレベルに留まっていた。それにナギは忍術を殆ど使えない、その点では周りより劣っていた。それでも他の忍より見劣りしない戦闘センスがナギにはあった。体の柔らかさ、動きの自由さ魔法と剣技の組み合わせ、そして反応速度が一級品だった。親友のマハナから受け継いだ雷丸と、父の形見である風丸は、すぐに互いに交差する事を認めた様に見られた。しかし、双剣士への道のりは楽ではなかった。毎日、小さな両手に握った剣を振って振って振り続けた。しかし忍術だけはいつまでも上達しないまま自身の戦い方が確立してしまった。
亡き父と母は偉大な忍だったと聞いた。そんな二人が忍の主な戦闘法である忍術を十分に扱えない娘も見てどう思うだろうか。自分の事を誇ってくれるだろうか。そう思う夜も幾度も越えてきた。
ナギは横に転がってハルの振り下ろす剣を回避しながら強く愛剣達を握りしめる。ナギはハルから読み取れる考えを完全に無視し自身の目を頼りに戦う。普段の戦闘ならば脳が情報をキャッチして処理する前に反射で回避していたが、痛みに対する触覚が無い空間の中ではその仕組みが超反射を封じ込めていた。
読心に対抗するため脳の処理能力と集中力を使い続けるハルと、得意な回避と特技、更には紋章を封じ込められているナギとの戦いは加速する。




