32話 マスター会議
―――風国中央都市チャバ 会議場―――
フウル「皆遠い所からよく来たね。ただ、楽しい会になりそうではないね」
副光マス「今回は光マスター様に代わってわたくしが進行役をやりますわ。どうぞよろしく」
金色のサークレットを被った女性が、向かいあわせで座るマスター達の前に1人立つ。彼女の名はソーンだ。
集まったマスターは、氷マスター、風マスターのフウル、火マスター、岩マスターのガイラ、副光マスターのソーン、治マスターの6人である。
火マスター「光マスターどのはラムダの防衛で欠席ということでありますか?」
小柄な少年は、自分の銀色フレームの丸メガネのズレを右手で直しながら発言する。彼は今回のマスター会議が初めての参加である。
ソーン「そうでございますわ。魔物達は光マスター様を始めとする光国の戦力に怯えています、そこで1人になれば魔物が現れると踏んで釣っていますわ」
火マスター「なるほど…それは有効な手でありますな!厄介な能力持ちを少しでも倒せればよいのですが」
ソーン「そうですわね。この中で大長と交戦しその能力を体感した人はいらっしゃいますか?」
ソーンの問いかけにガイラが手を挙げる。
ガイラ「ドクターと呼ばれる魔物のワープゲートの能力を土国でみたっすね」
フウル「紫の扉と呼ばれてるやつだよね」
治マスター「俺たちの国を襲った時に大量に魔物を呼んだのもそいつだな…ぷはぁっ」
治マスターは頭にハチマキを巻きながら左手に酒をボトルで持参し飲んだくれている。飲みまくる割には、ろれつも頭も回っている。彼の名はキュープという。
治マスター「俺が視認できたのはゲートは4つまでだった。それを全て出口として使って魔物を呼んでいたな」
氷マスター「わしが見た時も4つじゃった。おそらくそれが限界なんじゃな」
マスター達の中に実際にドクターの姿を見た者はいない。しかし、フウルは忍村でフーアの『過去視』を使ってルカの記憶からドクターを見ている。それでも、この場の誰1人気づけなかったのだ。
ドクターが氷マスターとして席に座っていることを。
水国のマスター達は水城が柱に襲われ危機に陥った時も音沙汰が無かった。水マスターは現在行方不明、氷マスターはドクターに成り代わられていた。その違和感に気づけなかった時点で、全てが筒抜けで人間側は後手に回ってしまうのであった。
会議はその後も続きその中ではハル達の話題も上がった。柱を2つも落とした青年達をマスター達は褒め、感謝した。しかし、順調に柱が倒されているのにも関わらず魔物達が焦る様子も無いことを不思議がった。
ソーン「あちら側の目的はわかりませんが、各国防衛に徹底しましょう」
火マスター「それは賛成ですが、こっちからも攻めなければずっと後手になり、いずれ削りきられると思うであります」
キュープ 「だがよー魔王城の位置が分からないとどうにも出来ねぇよな、新人のチャムだっけ?はどう考えてるんだよ」
火マスターはチャムと呼ばれる。再びメガネの位置を直しながら発言する。
チャム「『千里眼』で見つけられないなら能力によって隠されている可能性が高いです。それなら僕の能力で発見することが出来るかもしれないのであります」
ドクター「!?(なんだと…こいつにもわしの能力をかけなければとは思っていたが、その前に余計なことを言うなら殺すしか…)」
チャム「僕は新参者なので皆さんの事をまだよく分かりませんが裏切り者がいないとはまだ判断できてないので言えないのであります」
フウル「普通にこっち視点だと君が1番怪しいけどね」
チャム「(フウルさんの言う通り僕の発言力はまだ弱いみたいでありますし時間がかかりそうですね)」
ソーン「こちら側からの信頼度がまだ足りないだけで仲間ですしあなたは頭が回ると聞いておりますから、協力は必須だと思っていますわ」
キュープ「仮にここに裏切り者がいたとして、この戦力を捲れる相手だったら既にオミクロンは魔の手だろうよ」
ドクター「そうじゃな。じゃがそれの準備の為になりを潜めて何か機会を伺っているかもしれないぞ」
ドクターは本物の氷マスターの様に発言する。歳おいてもマスターを続ける存在として周りからの信頼度も高いところがタチの悪いものである。
ガイラ「まぁそれならさっき目立っていたチャム君は逆に怪しくなさそうっすね。歳も近いですし僕は信用したいっす」
ソーン「このまま各国の防衛方法を整えましょう」
ドクター「(会議の質が低いな。クウハの方が性格は悪いが良い案を出すな)」
ドクターは大長2と目の前のマスター達を比べて少し残念がりバカにする。
―――会議後 廊下―――
酒瓶片手にキュープが千鳥足で近くのトイレへと向かう。その後ろを音を立てないように刃物を持ったドクターが追う。
殺意の満ちた沈黙が廊下を埋め尽くす。
キュープ「おめぇは、誰だ?」
キュープは目にも止まらぬ速さで腰の短刀を抜きつつ振り返りながらドクターの首元を狙う。しかし、剣先は紫色の靄で終わっておりキュープの首元からその続きが始まる。よく研がれた短刀はキュープの首を綺麗に割いた。
ドクターは笑いながら自身の手元を新たに出した扉の中へ押し込むと、キュープの背から腹にかけてナイフが貫通する。
キュープ「ゲフッ マスターをあまり舐めるなよ」
ドクターに左手で持っていた酒瓶を投げつける。アルコール物の攻撃には火が付き物であると警戒していたドクターの目を閃光弾が襲う。
ドクター「(こいつ、その怪我でまだ反応し反撃をしてくるか)」
視界を奪われながらもキュープの背へと繋がる靄に突っ込んだ手首を回転させて内臓を抉り割く。
大男は思わず血を地面に吐き捨てる。その足元には既に腹から垂れる赤黒い液体で埋め尽くされていた。
治マスターの名は伊達ではない、抉られた傍から無理やり再生しドクターへの攻撃を続ける。首の切り傷はもはや完治している。
キュープは短刀を捨て、左手をナイフに貫通されている腹辺りに当て回復を促進し右手からは光線をドクターに放つ。
ドクターは未だに視界が回復しておらず手当り次第に紫の扉を生み出し防御壁として自身の周りに張り巡らしている。
キュープ「そう来るよな!」
落ちてしまうので足元にだけは扉を作っていなかったドクターの足裏を地面から伸びる光の剣が襲う。
キュープ「(見えねえが足を落とせたか?)」
キュープは腹元のナイフを伝ってドクターの握力が落ちていないことを感じ攻撃が不発に終わったと悟る。しかし、一撃だけ確かにドクターの足を掠めていた。
チャム「やはり裏切り者は氷マスターでありましたか」
ドクター「(援軍が来たか、わしのノルマは治マスターを殺すこと。いっつも人使いが悪いあやつらにもたまには働かせるとするかのう)」
ドクターは紫の扉の包囲網を解除し新たに大きな扉を作る。ドクターの周りに冷気が漂っていることをチャムは肌で感じていた。
大きな扉から飛び出したのは美しい白髪ロングの魔物大長5レメラだった。
レメラ「ちょっとじじい、何召喚してんのよ」
ドクター「お前たちはもっと年寄りを労らんか。後ろの火マスターを頼むぞ、能力は不明じゃ」
チャム「(裏切り者として疑ってはいましたが、まさか氷マスターが、ガイラさんとフウルさんの言ってた紫の扉の使い手とは)」
レメラ「あんたを殺して名が上がるほどの価値あるんでしょうね」
チャム「期待の新人マスターであります。貴方達の情報貰いますよ」
キュープ「(チャムの実力は知らねぇが頼んだぜ)」
キュープはナイフを抜きとり完全に回復する。
ドクター「(流石は治マスターじゃ。一撃で仕留めたかったがじわじわいくしかないのう、ちんたらしておったら他のマスターも来るかもしれん。ここで大戦はしたくないからのう)」
キュープは紋章を発現させて両手に魔力を集めて発光させる。ドクターが先程レメラが出てきた扉を反対の面から入るとキュープの後ろから出てくる。
ドクター「まずは両手じゃ」
気づくとキュープの両手首は紫の扉に入っている。腕を咄嗟に引いても小さな扉もその動きに合わせ、手が出ない様にされている。
キュープは血の気が引けるような嫌な予感が当たってしまう。手首から先の感覚が無くなり激痛に襲われる。
―――魔王城 一瞬前―――
ゼルガ「この飛び出してきた手ってあのじじいからの斬れってメッセージだよなぁ?」
ツトガ「そうだと思うよ」
ゼルガが手に持った槍でキュープの両手を貫通しようとした瞬間、キュープは手から光の針を四方八方に発射するがツトガに反射されて防がれ槍が2つの手のひらを貫通する。
―――風国 会議場―――
キュープ「ひどいもんだぜ、お前らはいきなり現れて何でもかんでもめちゃくちゃしやがってよ」
ドクター「目的の為じゃ。このままじゃこの島は災厄に包まれ大戦場と化するぞ」
キュープ「お前たちこそが災厄じゃねえか」
ドクター「ふんっ。お前はここで死ぬから、この島の先の事は知らんでもよい」
既に魔人達に我々の目的がバレていたのか。しかし、問題ない。




