33話 暗殺
―――風国 会議場―――
キュープ「結局お前は何者なんだ。大長か?」
ドクター「…そうじゃ。まぁ、一応は大長9じゃな」
キュープ「俺の知ってる大長より、おそらくお前は強いし能力をもう1つ持ってるよな?」
ドクター「そうじゃ。それを使いお前らをワシが氷マスターに思い込ませていた」
ドクターとキュープは手を止めて話を続ける。
キュープ「魔王の居場所はど…」
質問の途中で、紫の扉から現れたゼルガがキュープの胸を貫く。すぐさま回復しようとするキュープの体が痺れ魔法が使えなくなる。
体の痺れはゼルガの雷魔法が原因ではない。
キュープ「(コイツが俺の腹に刺したナイフに毒魔法を纏わせていたのか)」
ゼルガ「ドクターよぉ、なんで律儀に質問答えていたんだ?」
ドクター「おそらく、こいつの特技じゃ。聞かれたことに対して回答をほぼ強制させ、さらに一つ以上情報を付け加えさせる。といったところかのぅ」
キュープは倒れ、丸く空いた穴から血を流し続ける。遠くなる意識の中で最期に自身の能力をラムダに使った。
【治マスター キュープ 死亡】
ドクター「こやつの能力は『記録』じゃ、こやつの記憶は全ておそらくマスターの内の誰かかラムダに刻まれおったわい。記憶と五感で得た情報を共有する力じゃ」
ゼルガ「それだったら忍村の『過去視』の方が強くねぇか?まぁ性質が違う分一概には言えねぇがよ」
ドクター「まぁ、向こうは触れた対象の過去しか見れぬし、みている間は無防備になるという弱点があるからのぅ…。対してこちらは能力の保持者情報を多く持たぬ者じゃと能力が腐る。そういえば、こやつの能力は体にも記録を埋め込む」
ゼルガ「それはどういう?」
ドクターの右足から血が吹きだす。その傷は先程防御が遅れ光の刃を喰らった部分であった。ドクターはその傷を塞いだ筈だったが再び血を吹く。
ドクター「付けた傷を記録として消えない物とする能力じゃ」
ゼルガ「死してなお続くんなら、それならまぁ弱くはないか」
ドクターとゼルガは、レメラとチャムの戦いを見ながら倒れた治マスターの話を続けていた。
―――チャムサイド―――
レメラ「なんで私の能力が発動しないのよ!!」
チャム「どうやら能力の相性が良いみたいでありますね」
チャムは両手に炎で作った銃を持っている。引き金を引くと合わせて莫大な熱エネルギーを持った弾が発射される。
レメラは長い髪を靡かせながら、銃弾を躱すが弾はレメラの体を外れても爆発するので一発毎にダメージを積み重ねられてしまう。
戦闘が始まったと同時にレメラは全身に薄氷の鎧を纏い、その掌で触れたチャムの体も氷漬けにしていたが、チャムは炎魔法を使い両者に纏われた氷を溶かし常に優勢で戦っていたのだった。
レメラ「ほんっと炎魔法は強いわね。……恨めしくてたまらないわ」
チャム「(氷属性にしては、炎魔法によるダメージがあまりないように見えますね…、耐性をもってるのでありますかな)」
レメラは距離を取り氷柱を放ち続けるが、チャムはそれを自身が放つ熱波だけで対処し確実に弾をレメラ目掛け発射してくる。
そんな状況の中、チャムの目に少し離れた所で心臓を貫かれたキュープの姿が映る。
チャム「そ、そんな…」
動揺したチャムの隙を確実につき、レメラは風魔法と氷魔法を混成した白い竜巻でチャムを包囲する。
チャム「(僕まで死んだら、情報を残せなくなる。絶対に負ける訳にはいかないのです。『強制解除』)」
自身を取り囲む白い高い壁に手を当てると、一瞬にして白い竜巻は姿を消す。
レメラ「は?なにそれ、はいはい能力ね。それで私のも無力化した訳だ」
レメラの肩に弾が当たる。
レメラ「いったいわねぇ」
ドクター「勝つどころか押されているのぅ。後は代われ」
ゼルガ「ふんっお前が俺の上の階級だなんて、間違ってんだよ」
レメラ「今から惨殺する所だったのよ!弟がいないと半人前のあんたにも言われたくないわ」
ゼルガ「あぁん?」
魔物達はチャムに近づいてくる。緊迫した空気の中、チャムが取った行動はしゃがむ事だった。
チャム「(僕のことを裏切り者だと疑ってたなら、ついてきてる筈でありますね)」
チャムの頭上を風の刃が通る。
レメラ「なにやってんのよこいつ」
ゼルガ「やべぇ、風マスターの能力が来るぞ」
ドクターは迫る風の刃を防ぐ為に扉を出したが、風は軌道を変えながら巨大化して横並びに立つ三体の腹を同時に切り裂く。
ゼルガ「がはっ… あいつの能力は回避不能なんだ」
ドクター「目的は果たした引くぞ」
三体は足元に出来た扉へと入り撤退していく。
フウル「そんな大層なものじゃないよ、チャム疑って悪かった。キュープさんをソーンの所に連れていくよ」
そう言ってフウルはキュープの脈を確かめるが、手遅れである事に気づいてしまう。
フウル「僕も最初から参戦していればこんな事にはならなかった…。合わせる顔がないよ」
その後解散した後でも会議場の近くにいたソーンを見つけ、キュープの訃報を説明した。各国のマスターが揃った現場でその一角が殺されるという人間の最大戦力の一つを失った一大事件となった。
しかし、こんな悲しいニュースが薄れるほど、すぐに人々の心を折る出来事が起こる事をまだ誰も知らない。
―――数日後 土国 中心都市ソテイ ―――
その日世にも珍しい、巨大な岩の凧を光る玉が引っ張りその上に乗る6名の人間が空を翔けているという奇妙な光景が目撃された。
リク「風よけをつけるだけでこんなに快適な移動方法になるとはな」
ハル「揺れもやばいし座り心地も悪いよ」
ゼントを含めたハルたち一行はハルの魔法で6人が座れる横並びの岩の椅子を用意し前方以外に壁を作ることで風を避け、前方から伸びた数本の岩棒の先には、双子玉が付けられていた。
リク「それでも、初めよりは快適すぎるよな、ナギ」
ナギ「んぼぉう」
ナギの顔は真っ青である。相変わらず揺れに弱い。
ルカ「風魔法に乗って移動するのとはやっぱり違うんだね」
マナ「姉さんしっかり」
マナはナギの背をさする。
ナギ「ばぁな、ありばぁとう。でも、さすらでたらよけぃに」
土マスターとサナスとは、グリル村で別れた。土マスターはグリル村付近の村の復興を助ける為に残り、サナスは再び旅にでたのであった。
今回の大長3襲撃事件での功労者は明らかにサナスであり、土国から名誉の証である勲章を受け取っていた。これで彼は好きな時に土国を観光することが出来るようになった。
サナスはマスターで無いとはいえ人類側の大きな戦力である。魔物達と戦っていけばいずれ再会するだろう。
ゼント「見えたぞ、岩城だ。衝撃に備えろ」
リク「(リリスがこっちに引っ張られて来ないと言うことは玉を固定しているのか。やっぱり便利な能力だよな、料理する時もフライパン持たずに火に当てたりも出来るし羨ましい)」
マナ「リク!ぼーっとしない!」
リク「ぅしょい」
完全に集中していなかったリクの意識を現実に戻し、へなちょこな返事を受けた後直ぐに城の塀の目の前に着地し即座に止まる。
城は巨大な岩の台座の上に建てられており、城まではその岩台の周りを階段で登っていかなければたどり着くことができない。上から中心都市を全望できる程の高さがあり、守りは固い。しかし、大長4は空からの奇襲と紫の扉を使い城へと侵入した。
リリス「よく来たな。ゼントも無事そうで良かった」
塀の上から双子玉に指を指し固定する少女が声を掛ける。指先線を双子玉から外し塀から身軽に飛び降りる。
ゼント「リリス様お待たせ致しました。本日から復帰いたします」
そう言いながら膝をつき頭を下げると、リリスの斜め後ろへと移動し表情を引き締めてハル達と対面する。
リク「こんな凄いところに城建ってるんだな」
リリス「妾の自慢の城じゃゆっくりしていってくれ」
荘厳な城はとてもつい5年前に焼け落ちた物には見えなかった。岩魔法と土魔法の建設力は凄まじい。
岩城内の兵士は水国と風国に比べ心許ない人数で、リク達が正面入口からメインホールに辿り着くまでの5分間でモップがけをする召使い1人と、武装して歩き回る甲冑の兵1人しか目撃しなかった。
城の内装は1階のメインホールで終わっていた。見た目とは反して2階などに繋がる階段も、他の部屋へ繋がる扉もなかった。
ルカ「へぇ……」
リリス「ルカ姉よ、見くびってもらっては困るぞ」
リリスが紋章を発現させながら壁に左手を当てると突如壁に長方形の線が現れ、その線に沿って壁が押戸となり隠し部屋へと繋がっていく。
ナギ「(紋章をそんな風にも使うのか)」
ゼント「魔物達は紋章を操れねぇ、まぁ大長が使わないんだから全員そうだろう。だから紋章をメインホール以外の部屋のキーとした」
ハル「確かに、大長も柱も紋章を使って来なかったです。その代わり大長と大長落ちは全員能力を使ってきました」
ゼント「その辺はまだよく分からないが…魔物化させられると能力に目覚めるのか?」
リク「(ベガさんも突如能力に目覚めたといってた)」
風城で自らの体を魔物化させた三銃士が一人ベガは魔物化と同時に能力を身につけていたが、自身の力をハッキリとは自覚していなかった。
紋章が身体を鍛え成熟した者が感情を極限まで高ぶらせる事で発現する事は強者の世界では周知の事実であるが、能力の方は持つ者も少なからず存在していても獲得の条件は未だ不明であった。魔物化と能力が結びつきの一つと仮定すると、水柱と風柱が能力を使用出来ないことに矛盾する。
人間そして魔物達でさえもドクターという個体を除き能力について知識が不足し過ぎていた。




